【セミナーレポート】「突然死を避けるには― 画像診断の役割」(グランドハイメディック倶楽部)

公開日:2019年11月29日
グランドハイメディック倶楽部 理事
社団医療法人トラストクリニック 理事長
愛知医科大学 名誉教授
石口 恒男(いしぐち つねお)先生

10月4日(金)から10月6日(日)の3日間にわたり、リゾートトラストグループ会員制総合メディカル倶楽部「グランドハイメディック倶楽部」の医師による健康セミナーがジェイアール名古屋タカシマヤ外商サロンにて開催されました。グランドハイメディック倶楽部 理事長の栗林幸夫医師、理事の森山紀之医師、石口恒男医師が登壇し、がんをはじめ脳や心臓の疾患に対して、その予防方法や画像診断による早期発見の重要性などについてお話しされました。

当ページでは、石口恒男医師の講演内容についてご紹介します。

>>栗林幸夫医師「画像診断の進歩と生活習慣病」を見る
>>森山紀之医師「がん検診・がん予防について」を見る

目次

脳血管の検査で効果を発揮するMRI。血管の狭窄や動脈瘤の有無を評価

日本人が亡くなる原因で最も大きな割合を占めるのはがんですが、がんでは「突然死」をすることはあまりありません。突然死の主な原因となるのは脳の血管や心臓、大動脈の病気、そして肺動脈の血栓などです。

■主な死因別死亡数の割合(平成30年)

主な死因別死亡数の割合(平成30年)

※参考:厚生労働省「平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況」より

脳に血液や酸素を送って循環している血管が詰まると脳梗塞(のうこうそく)、血管が破れると脳内出血になり、動脈瘤という脳の表面の血管にできた「こぶ」が破裂すると、くも膜下出血が起こります。

脳血管の検査のために最もよく使われるのがMRIという装置です。大きな電磁石の中に入り、体内の水素原子が電磁波に共鳴して発する信号を検知して画像化します。それによって脳の血管が狭くなったり、動脈瘤(こぶ)ができていたりしないかを評価します。

脳の血管が詰まる病気は「アテローム血栓性脳梗塞(けっせんせいのうこうそく)」といって、動脈硬化が起こった血管の壁にコレステロールが溜まってプラークという塊になり、そこに血栓ができて血液が流れなくなります。

頚動脈にできた血液の塊が脳に流れて詰まる原因の「頚動脈狭窄(きょうさく)症」は、首の動脈に超音波を当てて調べます。頚動脈にプラークが目立つ場合は血栓ができにくくするような薬を飲み、大きなプラークは手術で取り除くか、あるいは血管を広げる医療器具を入れる治療をしていきます。

脳の血管自体に異常がなくても、心臓で血液が停滞して固まった血栓が脳に流れて詰まる「心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)」が起きることもあります。これは主に不整脈が原因で起こることが多いため、まず心臓の脈が正しく動いているかを心電図で調べます。それから心臓の超音波検査を行い、心臓の動きや血栓の有無を調べます。

脳動脈瘤が破裂して、くも膜下出血を起こすと、およそ半分の方が亡くなり、助かっても後遺症が残ることがあります。脳動脈瘤は5㎜を超えると破裂の危険が高まるため、MRIで定期的に経過を観察して破裂する前に治療を検討します。

治療法は大きく分けて二種類あります。昔から行われている「クリッピング術」は頭を開いてクリップという器具で動脈瘤をふさぐ方法です。近年普及している「コイル塞栓術(そくせんじゅつ)」は、動脈瘤の中に細い管を入れ、柔らかいワイヤーを詰め込んで破裂を予防する方法です。こちらは足の付け根から管を入れるため、体への負担が少ない方法です。

CTは心筋梗塞につながる心臓の冠動脈の検査に威力を発揮

次は心臓の病気です。狭心症や心筋梗塞(しんきんこうそく)といった虚血性(きょけつせい)心疾患は、動脈硬化を主な原因として心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が狭くなり、血液の流れが悪くなることによって生じます。

狭心症は胸が苦しくなったり、痛みが出たりした後に治まりますが、心臓の筋肉が壊死(えし)する心筋梗塞では亡くなる方も少なくありません。心臓の冠動脈の検査には、CTという装置を使います。CTはX線を出す装置が体のまわりを回転して画像を撮影します。

心電図とCTを同期させて心臓が止まった状態を画像化すると、動脈硬化によってカルシウムが沈着した冠動脈は白く写ります。この石灰化という白い部分の面積と程度を数値化し、400以上になるとかなり高い確率で冠動脈狭窄が疑われます。

その場合はさらに詳しい検査をして、狭窄の程度、血液の流れ、患部前後の血圧の変化などの情報から治療の必要性を診断します。血管を広げる治療をするか、血液をサラサラにする薬を内服するか、いずれかの治療法で心筋梗塞を予防していくことになります。

胸部や腹部の大動脈瘤は経年的なCT検査でリスクを管理

胸部や腹部の大動脈が膨らむ大動脈瘤はおよそ5cmを越えると破裂の危険が高くなるため、毎年CTを撮って経過を見る必要があります。以前は胸やお腹を開いて手術していましたが、近年は足の付け根の血管から小さく折り畳んだ人工血管を入れて、動脈瘤に血圧がかからないよう体の中で組み立てて治療する「ステントグラフト治療」が増えています。

ステントグラフト治療やコイル塞栓術などのように、画像を見ながらカテーテルという細い医療器具を入れて治療する「IVR(画像下治療)」という新しい治療法は体への負担が少ないことが特長で、他にも多くの病気の治療に使われています。

足の静脈にできた血栓が流れていって肺動脈で詰まる肺塞栓症(エコノミークラス症候群)も、急にショックを起こし亡くなることがあります。

これを検診で見つけるのは難しいのですが、危険因子となるのは肥満の方、寝たきりの方、外科手術をした方や悪性腫瘍のある方です。長時間同じ姿勢で過ごす旅行、妊娠や出産もリスクとなりますが、肺塞栓症になった方の約4割が肥満であったことが分かっています。

これまでお話ししたように、突然死の主な原因は脳、心臓、大動脈などの病気ですが、これらの多くは検診によって動脈硬化や動脈瘤などを見つけて予防することができます。突然死の原因になる可能性がある動脈硬化に共通する背景因子として、高血圧、肥満、喫煙、脂質異常症や糖尿病などに気をつけていただきたいと思います。

ポイントまとめ

  • 突然死につながる、脳血管、心臓、大動脈の病気、静脈の血栓に注意
  • 脳の血管が詰まる病気は、脳・頚動脈、心臓などの壁にコレステロールが溜まって血栓ができることで生じる
  • 脳動脈瘤は5㎜を超えると破裂の危険が高まるため、MRIで定期的に経過観察することが重要
  • 狭心症や心筋梗塞につながる心臓の冠動脈の動脈硬化を反映する石灰化、胸部や腹部の大動脈瘤はCTで経年的な観察が必要
  • 大動脈瘤の治療は、近年は開腹手術をせずに、足の付け根から小さく折り畳んだ人工血管を入れる治療が普及している。また、その他の血管の病気や「がん」などに対して「IVR(画像下治療)」という低侵襲な治療法も広まっている

取材にご協力いただいたドクター

石口 恒男 (いしぐち つねお) 先生

グランドハイメディック倶楽部理事 /社団医療法人トラストクリニック理事長 /愛知医科大学名誉教授

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