遺伝的要因のがんとは?その種類と基準について vol.2

公開日:2012年03月01日

がんの発症には遺伝によるリスクも存在しています。今回は遺伝子検査を受けるための知識として、遺伝子検査を受けるメリット・デメリットと、遺伝カウンセラーの役割について解説していきます。

目次

監修:東京ミッドタウンクリニックグループ 先端医療研究所
認定遺伝カウンセラー 堀尾 留里子

前回は遺伝子の影響がどのようなものかをお話させて頂きました。遺伝によるがんの発症リスクも存在していることをご理解いただけたかと思います。今回は遺伝子検査を受けるための知識として、受けるメリット・デメリットと、遺伝カウンセラーの役割について解説していきます。

遺伝カウンセリングとは?

遺伝カウンセリングとは、遺伝が関わる病気に関しての専門的な知識や経験をもっている専門医や遺伝カウンセラーと呼ばれるスタッフが、相談者(クライアント)とコミュニケーションをとりながら理解と意思決定を支えていく医療サービスです。遺伝には非常に繊細な問題が含まれていますので、医療者側にも、遺伝子検査の持つ意味や、遺伝学の知識や情報、コミュニケーションの経験などの高い専門性が必要と考えられています。

始めの相談では、相談者(クライアント)の知りたい事や悩んでいる背景を明らかにして、本人の情報や、家系に関する情報などをヒアリングしていきます。一方で社会的なサポートにはどのようなものがあるのか、治療や予防にはどのようなものがあるのかなど、様々な情報も相談者に伝えていきます。前回お話したような遺伝性乳がん・卵巣がん症候群、リンチ症候群も遺伝カウンセリングの対象になっています。遺伝性の乳がんや卵巣がん、大腸がんなどの可能性がある場合、がんの早期発見・早期治療のために、その特徴に合った検診を奨めると同時に、遺伝子検査の選択肢を提示する 場合もあります。しかし、遺伝子を検査することによって生まれるメリットやデメリットを正しく理解してから検査を受けないと、想定していなかった影響が生じる場合もあります。遺伝子検査を受ける前と後には必ず専門スタッフによるカウンセリングがありますので、十分に相談をしてから検査を受けましょう。

図1:カウンセリングに関するイメージ

遺伝子検査を受けるメリット

遺伝カウンセリングに訪れる方の中には、ご家族の病歴などに不安を持っている方もいらっしゃいます。検査を受けることによって、漠然としていた「私の家系はがん家系かもしれない」、「自分もがんになるかもしれない」といった不確実な不安に決着がつく 可能性もあります。遺伝子検査の結果陽性となった場合には、発症リスクを予測することにより、予防や早期発見へつなげることができるようになります。遺伝性乳がん卵巣がん症候群や、リンチ症候群のご家系で、遺伝子変異が判明している場合は、発症前にその遺伝子変異を調べることによって、陽性の場合は予防・早期発見・治療選択に役立ちますし、陰性の場合は一般の発症率と変わらなくなりますので、心の負担が少なくなるかもしれません。

遺伝子検査を受けるデメリット

遺伝子検査の結果、陽性と判定される場合もでてきます。その場合は将来に対する不安が生じるかもしれません。結果に関して、家族(特にお子さん)に話すべきか迷われる方もいらっしゃいます。検査を受ける前には、そういったことも想定してご自身の気持ちの整理と、ご家族の理解が必要になってきます。もっとも、検査を受けずにいたら、陽性という結果が分からないまま過ごすことになりますので、早期発見や予防につなげることが困難になっていたとも考えられます。他のデメリットとして考えられることは、将来社会的な差別(例えば、就職や生命保険の契約において)を受ける可能性が全くないとは言えないことです。また、結果が陰性だった場合でも、検査の限界による不検出や未知の遺伝子による遺伝の可能性があるので、100%安心できるわけではありません。遺伝性を疑わせる家族歴があれば引き続き頻回のサーベイランスが必要となる場合もあります。
遺伝子検査は万能ではなく、たとえ明らかな病歴・家族歴があっても、変異検出ができない場合もあります。検査を受けても確定的なことが分からず、不安が残るといったことも考えられますので、利益不利益を良く理解した上で、時間をかけて納得できる選択をしていただきたいと思います。

未成年者が遺伝子検査を受けるメリット とデメリット

遺伝性の病気の中には、小児期に症状が表れるものもあります。そのような病気の場合には、未成年者でも成人の場合と同じように、遺伝子検査を受けることによって早期発見や予防につなげられる可能性があります。陽性だった場合には、親子間での気持ちを共有することにつながる場合もあるようです。陰性の場合、子どもの負担となる頻回の検診が必要なくなるかもしれません。親子共に心の負担が軽減することもあるでしょう。
逆にデメリットになることですが、未成年者の場合には子の同意ではなく、親の代諾によって検査を行うので、将来的に自分の意思で決定していなかったことを後悔することがあります。また、年齢的なところから検査の結果を受け止めきれずにショックや不安が増大する可能性があります。

遺伝相談のできる施設リンク

いでんネット(京都大学) 遺伝相談のできる施設が掲載されています
http://idennet.kuhp.kyoto-u.ac.jp/cgi/public/allsearch.cgi

遺伝性乳がん卵巣がん症候群の情報サイト(株式会社ファルコバイオシステムズ)
こちらでも遺伝相談のできる施設が掲載されています。
http://www.familial-brca.jp/where/index.html

マイクロサテライト不安定性(MSI)検査のホームページ
リンチ症候群の遺伝相談のできる施設が掲載されています。
http://jsft.umin.jp/hp/msicontact.html

ポイントまとめ

  • 遺伝カウンセリングとは、遺伝が関わる病気に関して専門的な知識や経験をもっている専門医や遺伝カウンセラーが、相談者の理解と意思決定を支えていく医療サービス。
  • 遺伝子検査によるメリットやデメリットを正しく理解してから検査を受けないと、想定していない影響が生じる場合もあるため、事前に十分に相談しておく必要がある。
  • 遺伝子検査のメリットは不確実な不安に決着がつくこと。陽性の場合は予防・早期発見・治療選択に役立つ。
  • 遺伝子検査のデメリットは、陽性と判定された場合将来に対する不安が生じる。また陰性であっても、検査の限界による不検出や未知の遺伝子による遺伝の可能性も否定できない。
  • 未成年の場合には、親の代諾によって検査を行うため、将来的に後悔することがある。また、年齢的に検査の結果を受け止めきれずにショックや不安が増大する可能性もある。

コラム:遺伝カウンセリング、遺伝カウンセラーとは?

HBOCは遺伝子に深く関わりのあることから、遺伝子検査を用いて診断を行うことが一般的です。遺伝子検査に際して、遺伝性がんへの疑問や遺伝子検査に対する不安などに応え、詳しい説明やカウンセリングを行うのが「遺伝子カウンセリング」です。
「遺伝子カウンセラー」と呼ばれる専門のカウンセラーが、医学的な観点にもとづき遺伝子の変異と発病に関する説明をしたり、遺伝子検査を受けるかどうかの判断をサポートしたりします。

検査の結果によってはショックを受けてしまう場合もあるかもしれませんが、そのような場合にも精神的なケアを行うなど、遺伝カウンセラーは遺伝子検査に欠かせない存在といえるでしょう。

遺伝カウンセラーについて、下記記事でより詳しくご紹介しています。

■遺伝カウンセラーと医師の役割の違い
/column/12712/
■遺伝的要因のがんとは?その種類と基準について
/column/11556/
/column/10324/

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