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がん関連トピックス「治療と就労の両立支援促進」と「予防的切除の保険適用」について
2020年度診療報酬改定。
がん関連トピックス「治療と就労の両立支援促進」と「予防的切除の保険適用」について

2020年4月、診療報酬改定が実施され、さまざまな要件が見直されました。がん関連では、「治療と就労の両立」に関する内容の一部変更や、「がん未発症の部位の予防的切除」が初めて盛り込まれるなど、がん患者さんにとってかかわりの深い項目も見直されています。当ページでは、2020年度診療報酬改定におけるがん関連の変更内容を一部ピックアップしてご紹介します。
目次
医療機関が提供するサービスの対価「診療報酬」とは?

診療報酬とは、診察・検査・治療などの医療行為のうち、保険が適用される医療サービスについて、医療機関が対価として受け取る報酬のことです。病院やクリニックなどの診療所において、人件費(医師・看護師など医療スタッフの給与など)や医薬品の購入費など、施設の維持・管理に必要な費用は、この診療報酬の中から賄われています。
一般に、患者さんが窓口で支払う医療費は全体の3割で、残りの7割は保険者(患者さんが加入している国民健康保険・全国健康保険協会・健康保険組合など)から医療機関に支払われる仕組みとなっています。
保険適用の医療行為や医薬品は、診療報酬制制度で一つひとつの値段(点数)が細かく決められており、医療・医学の進歩や経済状況に合わせて、基本的に2年に1回、点数や保険適用の対象・範囲などが改定されます。
治療・就労の両立支援が充実。
患者への指導や、職場への情報提供を促進
今回の診療報酬改定で、がん患者さんにとっての朗報の一つは、治療と就労の両立支援に関する診療報酬の算定の仕組みや点数が改善されたことです。
これまでの算定方式やフローが改められたことで、両立支援に取り組む医療機関が増え、がん患者さんが治療を受けながら働きやすくなることが期待されます。
国は2018年度の診療報酬改定で「療養・就労両立支援指導料」を新設し、産業医と主治医が連携してがん患者さんの治療と就労の両立を支援する仕組みを導入しましたが、これは下記のフローを実施した場合に算定できる仕組みとなっていました。
- ①医師から産業医に診療情報を提供
- ②産業医から医療機関に治療継続などのための助言を提供
- ③助言を踏まえ、医師が治療計画を見直し・再検討

※中央社会保険医療協議会総会(第428回)議事次第
「個別事項(その6)(治療と仕事の両立支援、救急/小児・周産期、業務の効率化・合理化)」をもとに作図
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000560463.pdf
しかし、これにはいくつかの課題がありました。
一つは、産業医から助言をもらえなければ診療報酬を算定できない点です。どれだけ主治医が職場に情報提供を行っても、産業医からのリアクションがなければ診療報酬が得られませんでした。
また、患者さんが勤める事業所に産業医がいない場合も算定が不可能でした。常勤労働者が49人以下の事業所では産業医の選任義務がないため、勤め先の規模が小さい場合はそもそも対象とならないケースもありました。
実際、選任義務がない事業場で労働者の健康管理を行う医師を配置しているところは、30~40%程度にとどまっています。
今回の改定では、これらの課題解決が図られました。
まず、これまで産業医からの助言がないと診療報酬が算定できなかった点を、医師が患者さんの勤務先に情報を提供した時点で算定できるように改善しました。
さらに、情報の連携先が、産業医だけでなく、総括安全衛生管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、労働者の健康管理などを行う保健師にも拡大されました。
安全衛生推進者は常時10人以上50人未満の事業所に選任義務があるなど、これまでは対象外だった小規模な事業所も算定対象になり、より多くの方が治療と就労の両立支援の仕組みを利用できるように改められました。
また、これまでは産業医の助言を受けて治療計画の見直しを行っても、6カ月に1回しか算定できませんでしたが、今回の改定で、医師から事業所に情報提供した場合は1カ月に1回算定できることになりました。
これらの改定により、患者さんの勤務先に医師からこまめに情報提供が行いやすくなり、患者さんは主治医や職場と一緒に、現在の症状にあった働き方をいっそう実現しやすくなっていくことが期待されています。
がん未発症部位の予防的切除が保険適用に。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の予防促進に期待

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の患者さんに対する、乳房・卵巣の予防的切除が保険診療として認められました。発症していない部位の予防的切除に保険が適用されるのはこれが初めてとなります。
HBOCは「BRCA1」と「BRCA2」という特定の遺伝子が生まれつき変異している女性において、乳がんや卵巣がんなどの発症リスクが高まる疾患概念です。
乳がん・卵巣がんの生涯罹患率の比較
日本人一般の生涯罹患率 | BRCA1遺伝子病的変異がある患者の生涯発症率 | BRCA2遺伝子病的変異がある患者の生涯発症率 | |
---|---|---|---|
乳がん(女性) | 9% | 46~87% | 38~84% |
卵巣がん | 1% | 39~63% | 16.5~27% |
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」、GeneReviewsより
(中央社会保険医療協議会総会第441回資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000576445.pdf)
HBOCには次のような特徴があります。
- ①若くして乳がんを発症するリスクが高まる
- ②家系内に乳がん、卵巣がんになった人がいる場合、発症リスクが高まる
- ③片方に乳がんを発症した後、反対側の乳がんあるいは卵巣がんも発症する場合がある
このようにHBOCの患者さんはがんになる可能性が非常に高いため、例えば「乳癌診療ガイドライン」では乳がんを発症したHBOC患者に対し、がんがまだ発症していない反対側の乳房の切除を推奨しています。
こうしたことを受けて今回の改定では、乳がん・卵巣がん・卵管がんの患者さんのうち、発症したときの年齢や家系内の既往歴からHBOCが疑われる人を対象に、診断から予防的切除などの一連の流れが保険適用となりました。
HBOCを診断する遺伝子検査と、専門のカウンセラーによる遺伝カウンセリングも保険の対象となります。そのため患者さんは、遺伝子検査についてしっかりと説明してもらい、きちんと理解・納得したうえで診療を受けることができます。
検査の結果HBOCと診断された場合、未発症の乳房や卵巣・卵管を切除するかどうかを選択します。切除する場合は手術も保険が適用されます。切除を希望しなかった場合は、定期的な検査が必要ですが、そのための乳房MRI検査も保険が適用されます。

※ 中央社会保険医療協議会総会(第441回)議事次第
個別事項(その13)(がん対策③)スライド資料より作図
このように切除だけでなく、検査・カウンセリング、その後のフォローアップも含めた一連の診療が保険適用となったことで、さらなる発がんリスク低下につながることが期待されます。
ポイントまとめ
- 診療報酬は医療機関がサービスの対価として受け取る料金のことで、2年に1回改定される
- 2020年の改定では、医療機関ががん患者さんの職場に情報提供しやすくなり、治療と就労の両立がより実現しやすくなった
- がん発症リスクが高いHBOCの検査・がん未発症部位の予防的切除が初めて保険適用
- 【当記事の参考】
中央社会保険医療協議会 総会(第451回) 議事次第 個別改定項目について
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000601838.pdf中央社会保険医療協議会総会(第428回)議事次第 個別事項(その6)(治療と仕事の両立支援、救急/小児・周産期、業務の効率化・合理化)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000560463.pdf令和2年度診療報酬改定の概要(外来医療・かかりつけ機能)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000605491.pdf平成30年度診療報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000193708.pdf国立がん研究センター 遺伝性腫瘍・家族性腫瘍
https://ganjoho.jp/public/cancer/genetic-familial/index.html中央社会保険医療協議会総会(第441回)議事次第 個別事項(その13)(がん対策③)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000576445.pdf乳癌診療ガイドライン
https://jbcs.gr.jp/guidline/2018/index/ekigakuyobo/cq3/国立がん研究センター がんゲノム医療 もっと詳しく知りたい方へ https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/genmed02.html
コラム:遺伝カウンセリング、遺伝カウンセラーとは?
HBOCは遺伝子に深く関わりのあることから、遺伝子検査を用いて診断を行うことが一般的です。遺伝子検査に際して、遺伝性がんへの疑問や遺伝子検査に対する不安などに応え、詳しい説明やカウンセリングを行うのが「遺伝カウンセリング」です。
「遺伝カウンセラー」と呼ばれる専門のカウンセラーが、医学的な観点にもとづき遺伝子の変異と発病に関する説明をしたり、遺伝子検査を受けるかどうかの判断をサポートしたりします。
検査の結果によってはショックを受けてしまう場合もあるかもしれませんが、そのような場合にも精神的なケアを行うなど、遺伝カウンセラーは遺伝子検査に欠かせない存在といえるでしょう。
遺伝カウンセラーについて、下記記事でより詳しくご紹介しています。
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