【医療情勢】改正がん対策基本法が成立

公開日:2017年1月31日

 2016年12月9日に「がん対策基本法の一部を改正する法律案」が衆議院本会議において全会一致で可決され、「改正がん対策基本法」が成立しました。改正法では、がん患者さんの労働環境を改善することを目的に事業主の責務が記載されるなど、大きな変更がありました。

ここが変わったがん対策基本法

 がん対策基本法は2006年に、全国どこででも同じレベルの医療が受けられる環境整備や、総合的ながん対策として「がん対策推進基本計画」を策定することなどを目的に制定されました。基本法の制定から10年間で、がん治療が進み、治療後に社会復帰できる人が増えてきました。一方で、治療のため退職を余儀なくされるケースが増えるなど、新たな課題も出てきています。

成立した改正法では、がん患者が尊厳を保持しながら安心して暮らすことのできる社会の構築を目指すことが基本理念として明記されました。また、がん患者に対する国民の理解を深めていくことも求められています。

今回の改正がん対策基本法では、企業ががん患者の雇用継続への配慮に努めることや、国や地方公共団体にがん教育の推進を新たに求めたことが特徴です。企業側の「事業主の責務」として、働く人ががんになっても雇用を継続できるよう配慮することが明記されました。国や地方公共団体にも、事業主に対してがん患者の就労に関する啓発・知識の普及へ必要な施策を求めています。

そのほかにも、小児がん患者などが学業と治療を両立するために必要な環境整備や、症例が少ない希少がんや難治がんなどに対する研究促進などの項目も盛り込まれました。また、がんの早期発見を推進するためにがん検診を受けた人が適切な治療を受けるための環境整備なども定められました。さらに、がんに関する知識やがん患者への理解を深めるために「がんに関する教育の推進」の項目も設けられました。

今回の改正法によって、6年間を計画期間とする医療計画や介護計画との整合性を確保するため、がん対策推進基本計画などの見直し期間が現行の5年から、「少なくとも6年ごと」に変更されました。現行の第2期がん対策推進基本計画は2012年度から2016年度までの5年間を対象としています。

■図:改正がん対策基本法の概要(PDF:208KB)

図:改正がん対策基本法の概要

がん対策推進基本計画策定のための会議を開催

 改正がん対策基本法は2016年12月16日に施行されました。今年、年明け最初のがん対策推進協議会が1月19日に開催されました。がん対策推進協議会は、がん対策推進基本計画を策定するために、有識者が集まって行われる会議です。今回は、第3期がん対策基本計画の見直しについて、「全体目標の設定」「希少がん・難治性がんの対策」「がん患者の社会的な問題」が議論されました。

全体目標

 まず、一般社団法人CSRプロジェクト代表理事の桜井なおみ委員から、「全体目標として『救える命を救う』『がんの克服』などのスローガンを掲げてはどうか」と提案がありました。これに対し、NPO法人がんフォーラム山梨理事長の若尾直子委員や小児腫瘍の会代表の馬上(もうえ)祐子委員は、「国民全員が共通認識を持つためのわかりやすいスローガンのような全体目標は重要」と協調。

一方、静岡県立静岡がんセンター総長の山口健委員は「救える命を救うという言葉では、難治のがんに対するメッセージが消えてしまうので、注意が必要」と指摘しました。

希少がん・難治性がん対策

「10万人あたり6人未満の年間発生率」の希少がんについて、馬上委員は「希少がんでは、症例数が少ないので、ネットワークを作って集約して臨床試験を行っていく必要があるが、希少がん全体でネットワークを作るにはどうすればよいか」と問題提起しました。

これに対して国立がん研究センターの東尚弘参考人は「現在、希少がん対策ワーキンググループでは、四肢軟部肉腫を対象にしてこれから進めていこうとしている段階です。そのほかのがんに関しては検討中ですが、モデルケースができることで、今後、集約化、ネットワーク化の方法論ができてくるのでは」との考えを示しました。

難治性がんについて、山口委員は「希少がんよりもはるかに数が多いし、議論が必要」と指摘しました。これを受け、東京大学医学部付属病院放射線科准教授の中川恵一委員は「希少がんも含めてすべてのがん患者さんに手当てができれば理想的だが、現実的には限られたリソースということを考える必要がある。

たとえば、膵臓がんをはじめとする難治性がんの数はとても多い。予算や時間や人員などのバランスも考えて難治がん、希少がんの対策を行う必要がある」との見解を示しました。

がん患者の社会的な問題

 馬上委員は「放射線や化学療法など小児が強い治療を受けると高次脳機能障害が起こることはあまり知られていません。わかりにくい障害であるため発見するのが困難で、対応が難しい。小児がん経験者の半分くらいは内分泌障害を持っている。起き上がれないほどの症状がありながら、障害者認定がない。体力低下、不定愁訴などもかかえて、就労が困難な方が少なくない。就労支援、就労訓練の場が必要」と訴えました。

また、桜井委員は協議会事務局がまとめた「がん患者の社会的な問題に関する議論の整理(案)」に対して、「社会的な問題といって、書いてあるのは、就労の問題だけ。妊孕(にんよう)性(せい)(妊娠のしやすさ)の話などが抜けているので、そこも含めて考えていただきたい」と指摘し、「中小企業の中には、がん患者を抱え込みたくない企業もあるので、インセンティヴを付与するなどの方向を考えていくことが重要」と提案しました。

なお、第3期のがん対策推進基本計画の策定は2017年6月に予定されています。

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2017年1月19日、厚生労働省で行われた第64回がん対策推進協議会