【医療情勢】公的助成・支援を上手く利用するために III

公開日:2015年04月30日

目次

 3月から3回のシリーズに分けて、がん患者さん向けの公的制度についてご紹介してきました。今月は、生活や身体に支障がある時に利用できる制度として、「身体障害者手帳」「重度障害者医療費助成制度」「生活福祉資金貸付制度」などを取り上げます。経済的負担を少しでも軽くするための制度として是非知っておきましょう。

生活や身体に支障がある時に利用できる「身体障害者手帳による助成・支援」

 身体障害者手帳とは、身体に障害のある人が各種福祉サービスを受けるために必要な手帳です。がん治療のために障害が残った場合、「障害年金」を受け取るほど重くなくても、「身体障害者手帳」の交付対象になる可能性があります。

【対象者】
・直腸がん(人工肛門を造設した)
・膀胱がん(人工膀胱を造設した)
・喉頭がん(咽頭部を摘出し声を出せなくなった)
・肺がん(在宅酸素療法を受けることになった)
・骨肉腫(骨を切除し人工骨頭や人工関節を挿入した)

【助成・支援の内容】
・補装具の支給(人工肛門、人工膀胱)
・日常生活用具の支給、貸与(会話補助装置、介護用ベッド)
・税金の減額、免除(所得税・住民税・相続税、自動車税・自動車取得税)
・公共交通機関運賃の割引、免除(鉄道・バス)
・高速道路、有料道路の通行料の割引
・駐車禁止除外標章の交付
・公共料金の減免・料金の割引等
・携帯電話料金の割引
〈注意〉身体障害者手帳は、障害の程度によって1級から6級まであり、1、2級は重度の障害、3級から6級までは中・軽度の障害と区分されています。等級によって受けられる助成・支援は異なります。

【申請方法】
 市区町村の障害福祉課、福祉事務所に、申請書と指定医師による診断書を提出します。提出書類は都道府県社会福祉審議会で審議され、申請が受理されると、福祉事務所から手帳が交付されます。
〈注意〉身体障害者手帳の申請には、指定医師による診断書が必要です。指定医師については、市区町村の障害福祉課や福祉事務所にお問い合わせください。

手帳交付までの流れ(東京都の場合)
手帳交付までの流れ

東京都心身障害者福祉センターホームページより

生活や身体に支障がある時に利用できる「重度心身障害者医療費助成制度」

 重度の障害のある人に、都道府県や市区町村が医療費を助成する制度です。対象となる障害の程度や助成内容は各自治体によって異なります。多くの場合、受給には所得制限があります。

【問い合わせ先】
市区町村の障害福祉課
東京都の場合、対象者と助成内容は次のようになっています。

【対象者】
原則として、東京都内に住所があって、身体障害者手帳1・2級(内部障害は3級まで)、愛の手帳1・2度を有する人

【助成内容】
健康保険証を使って病院などで診療、投薬を受けたり、治療用の補装具を作ったりした時に、窓口で支払う保険の自己負担分の一部を助成

生活や身体に支障がある時に利用できる「生活福祉資金貸付制度」

 都道府県の社会福祉協議会が、低所得者世帯などに生活福祉資金を貸し付ける制度です。いずれ返済しなければなりませんが、無利子または低利子で借りられます。

【貸付対象となる世帯】
・低所得世帯…必要な支援を受けることで独立・自活が可能と認められる世帯で、必要な資金を他から借り受けることが困難な世帯(市町村民税非課税程度)
・障害者世帯…身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者がいる世帯
・高齢者世帯…65歳以上の高齢者がいる世帯(日常生活上、療養または介護を要する高齢者等)

【問い合わせ先】
 市区町村の社会福祉協議会

コラム「生活困窮者自立支援制度」

 平成27年4月から、新しく生活困窮者自立支援制度が始まり、生活全般の困りごとについての相談窓口が全国に設置されました。この制度は、全国の福祉事務所を設置する自治体が実施し、生活するうえでさまざまな問題を持つ人が自立できるよう、相談・支援を行います。

生活福祉資金貸付制度は、生活困窮者自立支援制度と連携して支援を行うため、見直しが行われました。その内容は、「総合支援資金、緊急小口資金の借入を希望する場合、生活困窮者自立支援制度における自立相談支援事業の利用が貸付の要件となる(すでに就職が内定している場合等を除く)」というものです。詳しくは、市区町村の社会福祉課または社会福祉協議会にお問い合わせください。

生活や身体に支障ある時に利用できる「介護保険制度」

 がんが原因で介護が必要になった場合、市区町村の窓口に申請して介護サービスを受けることができます。介護保険の利用については、当サイト2013年1月号「【最新医療】がんの療養で介護保険を使うには?」で詳しく紹介しています。その中で、「介護保険が使うことができれば、介護用ベッドや車イスといった在宅療養に必要なもののレンタル、あるいは訪問介護サービスなどが1割負担で済むようになります。

また、医療保険では2~3割負担の訪問看護サービスも1割負担になるため、治療費がかさむ家計の大きな支えになってくれます」としていますが、2015年8月から、65歳以上の被保険者の合計所得金額が160万円以上の方(単身で年金収入のみの場合、280万円以上)は、2割負担となります。該当する場合、利用料は2倍の金額になりますが、次に紹介する高額介護サービス費の制度があるため、無制限に負担が増えるわけではありません。

生活や身体に支障がある時に利用できる「高額介護・高額介護予防サービス費」

 介護保険のサービスを利用し、1カ月の自己負担額が上限額を超えた時、超えた分が払い戻される制度です。上限額は所得によって異なり、この制度の適用対象者になると各市区町村から通知があります。それに従って支給申請書を提出し、一度手続きすれば次回からは手続きの必要はありません。

【申請先】
市区町村の介護保険担当課

コラム「介護休業、介護休暇、介護給付金」

 介護休業、介護休暇は、家族を介護しながら働き続けられるようにするための制度です。介護休業は、家族の介護を目的として、合計93日まで休業できる制度です。介護休暇は、短期の休暇制度で、年5日(対象の家族が2人以上の場合10日)取得できます。勤務先の人事・労務担当者に申し出て利用します。

介護休業を取得し、原則として給与を受け取れない場合、雇用保険から介護給付金(休業前の給与の約40%)が給付されます。ただし、受給するためには雇用保険の被保険者期間が一定以上あることが条件です。介護休業終了後、勤務先または本人が2カ月以内にハローワークで支給申請手続を行います。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。