【医療情勢】診療報酬改定とがん

公開日:2012年05月01日

目次

がん治療も医療機関同士が連携する時代へ

今回の診療報酬では、がんの治療や療養に関していくつかの変更点がありました。 まず、「がん治療連携管理料」という新しい項目が設けられ、医療機関同士が連携してがんの診療にあたることが推奨されました。対象となるのは、「がん診療連携拠点病院」(がん診療に関する一定の基準をクリアした病院)に紹介されたがん患者(またはがんの疑いがある患者)が、入院には至らず、外来化学療法や放射線治療を受けた場合です。がん治療は、すでに外来化が進んできていますが、今後はよりいっそう促進される流れになっています。

緩和ケアの入院日数が短縮される

緩和ケアの提供体制は、今回の診療報酬改定でとくに重要視されたポイントです。3月号の「診療報酬改定と緩和ケア」でもお知らせしたとおり、全体的に緩和ケアが受けやすい方向に制度が変わっています。

まだまだ数が足りないと言われる緩和ケアを、できるだけ多くの人が受けられる体制にシフトするわけですが、その分、一人が受けられる緩和ケアの期間は短縮傾向にあります。緩和ケア病棟はあくまで早期の疼痛管理を行う場として位置づけ、ある程度落ち着いたら在宅や外来による緩和ケアに切替える仕組みになりました。
現在、緩和ケア病棟が得られる報酬は、患者の入院期間に関係なく一律に設定されています。それが、「入院30日以内」「31~60日」「61日以上」と区分けができ、退院日数が短いほど高い報酬が設定されるようになったのです。緩和ケア病棟には入りやすくなりますが、最期まで入院できるというわけではないのです。

在宅・外来緩和ケアが充実

入院期間が短くなる一方で、在宅や施設にいても緩和ケアを受けられるように、外来緩和ケアの領域も充実するようになりました。専門職による「外来緩和ケアチーム」を持つ医療機関は、新しい報酬(外来緩和ケア管理料)を得られるようになったのです。
また、緩和ケア病棟の医師が在宅医療を行う医師と連携して患者を診た場合、それぞれの医療機関が「在宅療養指導管理料」を得られるようになりました。がんは、治療だけでなく緩和ケアも外来化が一般的になる日が来るかもしれません。

外来化学療法の安全体制が強化

がんの化学療法は、すでに外来化が進んでいる領域ですが、治療に用いる薬剤はこの数年で大きく変化しています。従来型の抗がん剤だけでなく、ホルモン剤や分子標的治療薬など多岐にわたるようになり、安全対策や投与の基準が複雑になりました。そのため、重篤な感染症を起こす可能性があったり、いざというときに緊急処置を直ちに実施しなければならない薬剤の使用にあたっては、手厚い管理体勢を整備している医療機関が高い報酬を得られるようになりました。

具体的には、外来化学療法を実施するための専用のベッドを持ち、化学療法の経験を5年以上有する専任かつ常勤の医師・看護師・薬剤師が勤務している病院が対象となります。また、患者の急変時等に入院できる体制が確保されていること。実施される化学療法のレジメン(治療内容)の妥当性を評価・承認する委員会が開催されていることも条件です。その委員会には、化学療法に携わる各科の医師の代表や、看護師、薬剤師が参加し、少なくとも年1回開催される必要があります。 安全性が強化されるわけですから、患者の安心が増す制度改正と言えるでしょう。

医師の診察がなくても外来放射線照射が可能に

放射線療法も、外来化の流れにあります。今回、新たに設けられた「外来放射線照射診療料」という制度は、5年以上の経験を持つ放射線治療医が診察を行えば、その後7日間は医師の診察がなくても放射線照射を受けられるようになります。患者にとっては、治療時間の短縮と、診察料の削減につながります。
なお、放射線治療による効果や副作用について必ず患者に説明し、文書による同意をとること。学会のガイドラインを遵守することなどの安全対策が必須条件となっています。

カウンセリングやリンパ浮腫指導が受けやすくなる

治療法の選択や療養の不安など、がんにまつわるカウンセリングは、患者1人につき1回まで保険で認められています。これまでは、もともとかかっていた病院だけで受けられる制度でした。しかし、今回の診療報酬改定によって、転院先の医療機関でも認められるようになりました。転院先の医療機関が、地域診療連携計画に基づく治療を行うことが条件ですが、以前にくらべてカウンセリング体制が充実する兆しと言われています。

また、がんの療養で常に課題となるリンパ浮腫の管理についても、医師や看護師の指導が受けやすくなります。今までは、手術を受けた病院による指導のみ、保険が適用されていましたが、今後は転院先の医療機関でも認められるようになりました。がんカウンセリングと同様、地域診療連携計画に基づく治療を行う医療機関であることが条件です。

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