診療報酬改定と緩和ケア

公開日:2012年04月01日

目次

診療報酬と窓口負担の関係

病院や診療所などで受ける医療の値段は、「診療報酬」によって定められています。診療報酬は1点=10円で換算され、患者さんはそのうちの1〜3割(加入している医療法権により異なる)を窓口で支払うことになっています。点数が高いほど患者さんの支払う金額も高くなりますが、医療機関の報酬が増えることで医療体勢の充実が見込まれます。  診療報酬は、2年に一度改定され、平成24年度も改定の年でした。今回の改定では、「充実が求められる分野」にがんが含まれ、なかでも在宅医療には高い点数がつけられました。自宅で痛みをコントロールしながら療養する「在宅緩和ケア」も、重要視されています。

在宅療養指導管理料が拡充し、緩和ケアが受けやすくなる

在宅療養をしている患者さんは、医師の指導管理のもと、自分で医療行為を行うことが認められています。例えば、人工呼吸器や在宅酸素、中心静脈栄養などです。これらの処置方法について医師が指導すれば、医療機関は「在宅療養指導管理料」という診療報酬を算定できるようになりします。
ただ、これまでは一人の患者さんに対して、複数の医療機関が指導しても、一ヵ所しか在宅療養指導管理料を算定できませんでした。かかりつけ医の治療を受けながら、ほかの医師から緩和ケアを受けるのは難しかったのです。今回の診療報酬改定では、その問題が見直されました。がん患者の場合、在宅医療を担う医療機関の医師と、緩和ケア病棟等の専門の医師とが同じ日に診療を行った場合は、両方の医療機関で算定可能になったのです。  これからは、全国的にがんの在宅緩和ケアを提供する医療機関や、緩和ケアを専門にする医師は増加することでしょう。

在宅でのがん専門訪問看護が充実の可能性

在宅緩和ケアに関しては、「がん専門訪問看護」も推進される流れにあります。今回の診療報酬改定では、新たに「訪問看護療養費」という項目がつくられました。緩和ケアが必要ながん患者(入院以外)に対し、医療機関等の専門性の高い看護師と、訪問看護ステーションの看護師が同じ日に訪問した場合に算定できます。
ここでいう専門性の高い看護師とは、5年以上のがん看護経験があり、がんの緩和ケアに係る6ヶ月以上の研修を修了していることが要件です。在宅療養でも、看護師による専門的な緩和ケアを受けやすくなることが期待されています。

入院緩和ケアは、在宅へ移行する流れ

在宅だけでなく、入院して緩和ケアを受ける場合の診療報酬も改定されました。がんの患者さんが緩和ケア病棟に入院したときに算定される「緩和ケア病棟入院料」が、入院期間に応じて点数が変わるようになったのです。具体的には、30日以内で4791点(4万7910円)、31日以上 60日以内で4291点(4万2910円)、61日以上で3291点(3万2910)と、入院が長いほど点数が低くなっています。
病院にとっては、緩和ケア病棟の患者さんを早く退院させたほうが高い報酬をもらえる仕組みです。この背景には、緩和ケア病棟の”入院待ち”の問題が関係しています。日本では、緩和ケアを提供する医療機関の数が足りず、受けたくても受けられない患者さんが大勢いるのです。患者さんを早く退院させる病院ほど診療報酬が高い仕組みは、入院から在宅へ患者さんを移行させ、どうしても入院が必要な患者さんにベッドを空ける目的があります。

医療機関と地域の医師が連携して在宅緩和ケアを行う

在宅で緩和ケアを受けられる体制作りも進められています。  医療機関が緩和ケア病棟入院料を算定するには、地域の医師と連携して緊急時に在宅療養の患者さんが入院できる体制を整えることが条件になっています。また、地域の医師にかかっている患者さんが、緊急の相談ができるよう、24時間体制で連絡を受けられなくてはなりません。緩和ケア病棟においては、医師や看護師、薬剤師が実習を伴う専門的な緩和ケアの研修を行っていることも求められています。

小児がんも緩和ケアの対象に

15歳未満の小児の患者さんに対する緩和ケアも、高い診療報酬がつけられました。従来からある「がん性疼痛緩和指導料」「緩和ケア診療加算」と、今回の改定で新しく設けられる「外来緩和ケア管理料」に小児加算を設け、医療機関の報酬が増えることになっています。それぞれ50点(500円)、100点(1000円)、150点(1500円)の算定が可能になり、これまで、手薄といわれていた小児がんへの緩和ケアが、充実してくる可能性があります。

このように、2012年度から緩和ケアを取り巻く環境は大きく変わります。基本的には推進される方向にありますが、冒頭で述べたとおり、高い診療報酬がついたということは、患者さんが窓口で支払う医療費も高くなることを意味します。
しかし、在宅緩和ケアを行う医療機関が適切な報酬を得ることは、その領域に参入する医療機関や医師を増やし、結果として質の高い緩和ケアを受けられるようになることでしょう。今後は自治体の支援や、地域の独自の取り組みも表れはじめるかもしれません。自分の地域で在宅緩和ケアが可能かどうか、まずは主治医に聞いてみることとよいでしょう。

関連記事

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。