【トピックス】がん患者の「語り」を集めたサイトで病気と向き合う勇気を

公開日:2018年08月31日

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がん闘病の「仲間」の声を聴く

がんを初めて告知された患者さん、再発・転移が発見された患者さんは、本人もそのご家族も、どうしてよいかわからず不安になります。どのように病気を受け入れたらいいのか、これからどんな治療が始まるのか、この先はどうなるのか、子どもたちにどう説明したらいいのか、病気の家族にどう接したらいいのか……。

そんな不安を抱えている時に、「仲間」たちの声を聴けるウェブサイトが「健康と病いの語り」(https://www.dipex-j.org/)です。

同サイトのモデルは、イギリスの「DIPEx(ディペックス)」(※1)。「病気の苦しさや悩みを体験した人の『語り』が、同じ病気を持つ人に知恵と勇気を与えてくれる」という思いから日本全国の体験者をインタビューし、患者さんやその家族の体験談を紹介することで、同じような体験をしている人が病気と向き合う一助となっています。

※1 オックスフォード大学の研究者たちを中心に、2001年にスタートした病い体験の語りをネット上に公開する活動。現在では10カ国以上にその活動が広がる。「健康と病の語り」は、日本唯一のDIPEx公式サイト。

がん体験を伝える「3つの特徴」

「健康と病いの語り」では、「乳がん」「前立腺がん」「大腸がん」の患者さんたちによる「語り」が紹介されています(※2)。たとえ同じがん種であっても、病状、治療法、進行スピード、あるいは感じることや悩みも人それぞれ。できるだけ多様な経験を系統的に整理・分類して掲載する同サイトですが、大きな特徴としては次の3つがあげられます。

1つめは、がん体験者の「生の声」を聞ける点です。体験者のインタビューの様子を動画で紹介し、その表情や肉声に触れることで、個人のがん体験がよりリアルに伝わってきます。

また、闘病中の辛かったことや、それを乗り越えた後の様子を涙ぐみながら、あるいは笑顔で語る姿からは、病気と向き合うための勇気を受け取ることができます。

2つめは、年齢、性別、仕事の有無、家族構成など異なるバックグラウンドを持つ人たち約50人がそれぞれのがんを語っている点です。「発見」「治療」「再発・転移」「生活」などのテーマごとにカテゴライズされ、自分と似た境遇、局面の体験を見つけることができます。

3つめは、専門の訓練を受けた調査スタッフが体験者に直接インタビューし、医療の専門家などの助言をもとにコンテンツを作成している点です。がん患者さんやその家族にとって、「情報の信頼性」が確保されていることは安心材料のひとつになるはずです。

※2 他に「認知症」「臨床試験・治験」「慢性の痛み」を加え、計6種の疾患についての体験談が掲載されている。

がん患者さんの「本当の思い」を知る

それぞれの体験者が抱えた苦しみや葛藤、それを乗り越えた喜び、あるいは家族への感謝など、同サイトには「語り」の数だけ物語があります。その中から、「乳がん」と「前立腺がん」に関する語りの一部をご紹介しましょう。

「28歳で乳がんを経験。自然妊娠で1児の母になったAさん」

Aさんは、左胸に痛みを感じたのと、夫からしこりを指摘されたのをきっかけに検査を受け、28歳のときにがんが発覚。乳房温存手術を受けられる病院を探して受診しました。妊娠を強く希望しており、治療後に卵巣機能が低下する懸念があったため、抗がん剤治療を始める前に保険をかけるつもりで卵子を凍結保存したAさん。

しかし、治療後半年で医師から妊娠の許可が下りると、すぐに自然妊娠することができたと言います。インタビュー当時、Aさんは3歳の女の子のお母さんに。「娘が生まれた喜びを、結婚や妊娠を希望している人に体験してもらいたいです。特に20代でがんになった人はあきらめてしまうかもしれませんが、医学も進歩していると思うので、絶望的にならないでください」と、妊娠を希望する乳がん患者さんへのメッセージを残してくれました。

「47歳、進行前立腺がんで余命5年。告知から16年目を迎えたBさん」

Bさんは、47歳の働き盛りで「手術のできない進行性の前立腺がん」と診断されました。医師の告げた余命は5年~6年です。家族からは「前立腺の良性の腫瘍」と伝えられたものの、後に主治医を問い詰め、がんであることを知ったBさん。それからは、ホルモン療法、放射線療法、化学療法、尿路変向手術などの治療を受けながら闘病生活を続けました。

余命を知った時も心境の変化はなかったという気丈なBさんですが、いちばん辛かったのは、58歳で仕事をリストラされ、60歳で年金をもらうまでの2年間だったといいます。収入がなくなり、将来も見込めない状況で、息子さんは進学をあきらめ就職し、娘さんは奨学金をもらって専門学校へ。子どもたちのことを語るとき、Bさんは涙ぐみ、声を詰まらせていました。なおインタビュー当時は、がんの告知から16年目。告げられた余命を大幅に超え、同年に生まれた初孫の顔を見ることができたBさんです。

「語り」を聴くことは、患者さん本人だけでなく、ご家族や友人、職場の同僚など、患者さんの身近な人にも役立ちます。また、本人に直接聞きづらい気持ちや、今度どう接してほしいかなどを知ることで、患者さんを理解する助けにもなるでしょう。

※サイトでは、現在40歳代で前立腺がんの診断を受けた人を対象にインタビューの協力者を募集しています。
詳しくは、https://www.dipex-j.org/join/join_kyoryokuをご覧ください。

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