【特集記事】がん、再発・転移とどう向き合うか――患者さんと医療者が一緒に答えを探す

公開日:2017年11月30日

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患者さんの気持ちも医師の本音もわかるからこそ

がんの手術ではがん細胞を取り残さないように、普通はがん組織の周囲の正常組織を含めて切り取ります。完全に切除できればがんは治癒します。たとえば、早期胃がんでほかに転移がなければ、手術でほぼ100%治すことができます。進行がんの手術では、がんの原発巣と、転移が疑われるリンパ節を切除します。手術後は抗がん剤による治療が引き続き行われるのが一般的です。

がん治療の難しいところは、がん細胞が散って細胞レベルで転移していても肉眼で確認することができません。散らばったがん細胞をすべて取り除くことができなければ、やがてがん細胞は再発します。実際、治癒を目指した手術の後で、再発が起こるのは、がん細胞を取り切れなかったためと考えられます。

これらのことを医師は患者さんに説明して同意を得たうえで治療を行います。それにもかかわらず、「手術をしたのに再発したのは納得できない」とか「副作用を我慢して無駄な抗がん剤治療を受けた」などという言葉が患者さんから聞かれることがあります。確かに納得したうえで治療を受けても、実際に再発・転移の告知を受けると、もって行き場のない気持ちは主治医に向いたりすることもあります。

また、経過が順調な間は主治医との関係も良好ですが、病状が悪化すると信頼関係が崩れてしまう場合もあります。「残念ですが、隠れていたがんが大きくなってきたようです」と主治医から言われ、 “後出しじゃんけん”で負けたような気分になると、当コミュニティーの医療相談などで患者さんが吐露することがあります。

がんを正しく理解し、正しく恐れることで医師と同じレベルの目線で病気に向かい合うことができると思います。前述したように、がんは早期に発見して適切な治療を受ければ治癒が可能です。

しかし、早期がんでも必要以上に怖がる患者さんはいます。がん検診を受けてもがんと診断されることが恐くて結果を聞きに行かずに放置する人もいます。やがて何らかの症状が出て病院に行くと、早期がんだった病巣はいつの間にかかなり進行した状態になっていることもあります。医師として、救える患者さんを救えないのは悔やんでも悔やみきれません。

長年がん診療に携わってきた外科医として、がん患者さんの気持ちを少しでも理解したいと思っているつもりです。また、患者さんが当コミュニティーに持参する紹介状には同じ医師だからわかる主治医の気持ちを行間から読み取れることもあります。

医療相談では相談者の言葉の端々から、診察室では患者さんに言えない医師の本音を推察でき、必要に応じて医師の気持ちを患者さんに伝えることもあります。患者さんのQOLの向上を目指していくために患者さんと医師がよい関係を築けるようにお手伝いすることが私たちの役割と考えています。

がんサポートコミュニティーはがん患者さんと家族を支援する組織

がんサポートコミュニティーの活動は多岐にわたっています。サポートグループ、リラクセーションプログラム(自律訓練法、アロマテラピーなど)、普及啓発が活動の主軸になっており、日曜・祝日以外はほぼ毎日稼働しています。

サポートグループは、患者さんが自分と似たような境遇にある人たちと語り合い、自分が決して一人ではないことや、自分らしく生きていくことの大切さに気付くための場になっています。がんの部位別、再発・転移などのグループがあり、各グループには医療、看護、社会福祉、臨床心理などの専門家も加わります。家族のためのグループもあります。

がん患者さんたちは、がんを抱える苦しさや治療に伴うつらさを共有・共感し、思いのほどを語ります。がんを持つ者同士が仲間の話を聞いて、「この人はこんなに頑張っているから、自分も頑張れるかもしれない」「自分はこんなに苦しむために生きているのではない。行けるところまで頑張ろう」と、互いに勇気を分かち合っています。ここでは医療者が提供できないものが患者さん同士の交流から生まれています。

患者さんの精神面のサポートだけではなく、がん治療に関する最新情報の提供も行っています。たとえば、来年、シカゴ大学の中村祐輔先生を招いてプレシジョンメディスンについてわかりやすく解説してもらおうと企画しています。

また、パネルディスカッションなどを開いて、最先端の治療を受けた患者さんにその体験を報告してもらったりします。がんを経験した著名人の講演会も開催しています。がんの医療相談や当コミュニティーについての説明会も定期的に行っています。
(月間予定表:http://www.csc-japan.org/schedule.html#december_2017

がんサポートコミュニティーの歴史は、創設者の竹中文良博士が2000年に米国でCancer Support Community(当時はThe Wellness Community)トレーニングプログラムに参加したことに遡ります。2001年、竹中博士はがん患者さんやその家族のために専門家主導の心理社会的支援施設「ジャパン・ウェルネス」を設立しました。2006年に、その活動と功績が認められ、第54回菊池寛賞を受賞しました。

そして、竹中博士は24年にもわたった大腸がん、原発性肝がんとの闘いを終え、2010年、家族に見守られながら安らかに眠りにつきました。私たちは彼の遺志を継いでこの活動を続けていくことにしました。2011年には組織名を「がんサポートコミュニティー」に改称しました。

開設時から連綿と流れるがん患者支援への思いを抱き、当コミュニティーはこれからも真摯に活動を続けていきます。すべてのがん患者さんに、がんになったことは不運だったけれども、決して不幸ではないことを感じていただきたいと願っています。

がんの治療は夜のドライブに似ている

「がんは人を変える。消化器外科医だった私が1986年に大腸がんになり、現代医療にかけているものを感じ始めた。それまでは、がん患者にとって最も大切なことは医学的な診断と治療であると考えていた。2000年に米国最大のがん患者支援組織で研修を受け、がん患者にとって治療の苦しみや再発の不安、死の恐怖に向き合うには家族や友人の支え以外にも、同じ病と向き合う仲間たちとの交流を通じて希望を得て、回復の可能性を高めていくことが重要だと気付いた。

そしてそこでは、がん患者が金銭的負担をせず、コミュニティーの善意の個人や企業からの寄付によって活動が支えられていた。研修を受けるにつれ、日本にもがん患者をコミュニティーで支援する組織が必要だとの思いを強くした」という言葉を竹中博士は残していきました。

竹中博士には多くの名言があります。「闘わず、諦めず」はその1つです。死の恐怖から逃れるために薬にしがみつくばかりに、かえって副作用で寿命を縮めているような患者さんがいます。竹中博士はそんな患者さんに対して、平常心をもって、無意味な闘いはやめるように助言しました。

それは決して治療を放棄することではありません。医師が余命を宣告しても、それは神のみぞ知ることであって、諦めなければより良い治療法が見つかるかもしれず、心持ちひとつで寿命が延びる可能性もあると思います。

「がんの治療は夜のドライブに似ている」は、特に印象的な言葉です。どういうことかというと、車のヘッドライトが当たっている範囲は見通しがきいて、前進すればさらに情報を得て行く手を広げることができます。がん治療をそれになぞらえた言葉です。

いまがんとの向き合い方がわからず悩んでいる方へのメッセージとして受け取っていただければ幸いです。

日本人の高齢化が進み、いまや2人に1人ががんになる時代になりました。高齢社会の日本では、私も含めみんながんになる順番待ちをしているようなもので、長寿国の共通の問題になっています。がんになっても治療を続けながら自分らしく生き生きと生活したいと思います。

患者さんとの信頼関係ができていても、患者さんの本当の気持ちがわからないと思うこともあります。がん治療は患者さんごとの個別性が大きく一筋縄ではいかないむずかしさがあります。それでも患者さんががんと向き合って主治医と一緒に効果的な治療法を探しながらQOLの向上を目指していくために今後もこの活動を続けていくつもりです。

がん患者さんに知っておいてほしいこと

たとえば、骨折は因果関係がはっきりしています。しかし、がんという病気は説明するのがむずかしく、そのため患者さんの中には納得するまで治療を受けないという人もいます。

一方、インターネットにあふれる玉石混交のがん医療情報に翻弄されながら、自分に都合のいい話を見つけては安心するという、気の毒な患者さんも少なくありません。私は、患者さんには主治医を人として見て、信頼できる人であると納得できれば、治療を委ねることが大切だと考えています。

災害時の対処について

糖尿病患者のインスリンなどのように即効性のある治療薬が必要になるようなことはがん患者さんでは考えにくく、抗がん剤を一日服用しなかったからといって致命的な状態になることはまずありません。

がん患者さんは健康な人に比べて服薬を急ぎたい気持ちになるかもしれませんが、ほとんどの場合、緊急性はありません。しかし、少なくとも自分が服用している薬剤の名称や、副作用についてはいつでも答えられるように備えておくように心がけるべきでしょう。

がんサポートコミュニティー:www.csc-japan.org

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