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【特集記事】閉じこもりがちな男性に社会参加のきっかけづくり
目次
月に延べ300人が利用
石川県がん安心生活サポートハウス「つどい場はなうめ」は県の委託を受けて済生会金沢病院が運営するがんサロンです。国のがん対策推進基本計画に沿った石川県のがん対策事業の一環として運営されています。
第2次がん対策推進基本計画の全体目標に「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」という項目が加わったことを契機に、従来当院内に設置されていた在宅緩和ケア支援センターが、がん安心生活サポートハウスとして生まれ変わり、2013年に金沢の街中に開設されました。
事業内容は、ピアサロンの運営、こころと身体の悩み相談、がんサポーター等の養成、暮らしの講座、患者図書館の開設、関係機関のネットワーク構築など、バラエティーに富み、がん患者さんやその家族をはじめ、市民ボランティア、看護学生などが活動しています。
「はなうめ」の名称には、加賀藩前田家の家紋の梅と、春の訪れを告げる梅の花にあやかって、多くの人が集まってくるようにとの願いが込められています。運営スタッフは、所長の私と、相談員(看護師)および事務員で、3人とも当院の職員です。
当ハウスが開設された初年度の2013年6月から翌年3月までの利用者数は延べ1,571人でした。2016年の利用者数は延べ3,601人(月平均300人)に増えました。利用者のうちがん患者が占める割合は55%、家族・遺族を加えると64%です。ほかに、サポーターが15%、看護学生や専門職を含む一般市民が21%となっています(2016年)。
また、当ハウスに相談に来られる人は7割以上ががん患者さんで、その家族も加えると9割を超えます。相談の内容は患者さんや家族の気持ちに関することが最も多く、ほかに人間関係などに悩んでいる人も少なくありません。
男だけの「男学」を開設
当初、当ハウスの利用者の約8割が女性でした。開設する前から男性の利用者が少ないことは予想していました。一般的に男性は、明確な目的もなくどこかに出かけていき、おしゃべりをして自分の気持ちを吐き出すようなことをするのは苦手な人が多いでしょう。
男性が閉じこもりがちになるのは、「男たるもの困難に対して一人で立ち向かい、弱音を吐くものではない」といった価値観が社会の中で植えつけられてきたという一面もあるかもしれません。
確かに日ごろ、外来にかかっている男性患者さんや、入院している男性患者さんを診察していても思い当たることはあります。男性患者さんが、思っていることや言いたいことがあったとしても気安く口を開けないのは、医師に対して敷居の高さを感じているということもあるでしょうが、やはり我慢してしまうのでしょう。
病院の中だけでなく、地域には、いろいろな思いを抱えている男性が多くいるのではないかと思います。自分ががんで闘病中だったり、家族(妻)をがんで亡くしたりして、日ごろさまざまな思いを抱えながら悶々として自宅にこもりがちになっている男性が外出するきっかけになるような場をつくる必要があると考えていました。
ちょうど、妻をがんで亡くして、サポーターとして当ハウスを利用している男性も「自分の経験から、家にこもっている男性は少なくないはず。そういう人たちが外に出られるような活動を」と考えていました。
そして、2013年9月に立ち上がったのが男性限定の語り合いの場「はなうめ男学」です。全国でも珍しい男性の自助グループの活動として関心を呼んでいます。現在、偶数月の第4金曜日(午後7時~9時)と、奇数月の第3火曜日(午後2時~4時)に開いています。参加者はがんに関する体験談を語り合い、時には当院の医師や男性看護師、検査技師、放射線技師などの専門的な話に耳を傾たりします。
参加者は60代が中心で、自分の悩みごとを話すだけでなく、若い人の人生相談にのることもあるようです。家から一歩踏み出してさまざまな活動に加わることで気力がわいてきます。
さらに、人の役に立ったり人に喜んでもらったりすることが励みになっているようです。参加者は私が淹れるコーヒーを飲みながら座学などを楽しみ、「女性に圧倒されることなく、男同士気兼ねなく話せる」「Dr.龍澤が淹れるコーヒーが想像以上においしい」と充実した時間を過ごしています。
「男学」から派生した活動や行事もいくつかあります。その代表がそば打ち体験で、年に3回開いています。参加者はそば打ちの実習に励み、年末には年越しそばを当ハウス利用者に振る舞っています。
当ハウス利用者同士の交流や親睦の場が広がっています。「男学」のメンバーが企画したバス旅行で白山国立公園に足を伸ばし、散策を楽しんだり、足湯に浸かったりしました。旅行参加者からは「みなさんと旅行に参加できたことが自信になった」という声も届きました。これらの活動の甲斐があってか、男性利用者の割合は徐々に増えてきているようです(2016年度は29%)。
サポーターも積極的に養成
当ハウスの活動はボランティアの人たちに支えられています。そのためにサポーターの養成も積極的に行っています。現在、ピアサポーター、市民サポーター、聞き書きサポーターの養成講座を開いています。
県内のがん拠点病院で行われているがんサロンで活動する人を対象にしたピアサポーター養成講座では、がん患者や家族としての経験のある人が仲間同士で支え合うボランティアを養成しています。市民サポーターは、特別なボランティア活動をするものではなく、ほんの少しがんのことを知って、親族や友人や同僚など、身近ながん患者さんや家族に気遣いができる人を地域にたくさん増やすことを目的としています。
市民サポーター養成講座は3つの講話――「がんってどんな病気?」(話し手:龍澤)、「がんという体験を聴く」(話し手:がん経験者やその家族)、「がんと上手につきあうコツ」(話し手:看護師)からなっています。
聞き書きサポーターは、がん経験者(家族)の話を聞いてその人生を、その人の話し言葉で一冊の本にまとめるボランティアです。長年聞き書きの活動を実践している講師が指導します。聞き書きサポーター養成講座は3回シリーズで年に一度開いています。
現在、月に延べ約300人が当ハウスを利用し、ホームページ、フェイスブック、口コミなどで利用者は増えています。当ハウスは病院ではなく、がんを経験したことがある市民が集まって互いに社会的、日常的な活動をサポートする場です。「サポートハウスに来れば、今までだれにも言えなかった悩みを話すことができる」という利用者の声を聞くと、活動をこつこつと続けていくことに意味があるのかなと思います。
患者さんに知っておいてほしいこと
医師が日常的に行っている検査や治療で、患者さんが気になることがあると思います。「なぜその検査をするのか」「それで何が分かるのか」と質問したいこともあるでしょう。しかし、敷居の高いところにいる医師に遠慮してものを尋ねることができないという患者さんは少なくありません。忙しそうにしている医師の姿を見ていると気が引けて、聞きそびれることもあるでしょう。
そこで、医師が日常診療で患者さんの病気についてどんなことを考えているのか、「はなうめ」で話してみました。
たとえば診察室では患者さんの何を診て、どんなことを考えるのか、検査ではどのような機器で何を調べるのか、といったことを説明したところ、さまざまな質問が出ました。参加者の話を聞いていると、目的もわからず、言われるまま検査を受けて、検査結果の説明を聞いてもよくわからないという人が少なからずいることがわかりました。
どんなに些細と思えることでも、こんなことを尋ねたら悪いかなとか、笑われるかなと思えることでも、勇気を出して尋ねてほしいと思います。患者さんには、自分の体のことに関心を持って、医師ともう少し話をしてもらえるといいかなと思います。
災害時の対処について
ふだんから自分の病気、処方薬、既往歴などがわかるようにしておくことが大切です。お薬手帳を持っていても、薬のシールが貼ってあるだけで十分に活用されていないような印象があります。
当ハウスでは「はなうめ療養手帳」をつくって、利用者の健康管理に役立ててもらっています。そこには、病歴、薬歴、緊急時の連絡先、かかりつけ医の連絡先などが記載されています。常にお薬手帳と一緒に携行してもらっています。病院が変わった時に、病歴について説明するのに手間がかからず、医師に情報が正しく伝わり、災害時も適切な処置が可能です。
普段から自分の健康状態を把握し、必要な健康情報を記載したものを常に身に付けておくことが重要です。自分の健康を人任せにしない癖をつけることが災害時や緊急時を切り抜ける方法の1つです。
男性限定の「はなうめ男学」で語り合う参加者たち(石川県がん安心生活サポートハウスで)
■石川県がん安心生活サポートハウス「つどい場はなうめ」
http://www.saiseikaikanazawa.jp/hanaume/
取材にご協力いただいたドクター

龍澤 泰彦 先生
石川県済生会金沢病院 外科診療部長・緩和ケア病棟医長
石川県がん安心生活サポートハウス所長
カテゴリー家族と社会のがん闘病サポート, がん患者さんの支援・サービス
タグ2017年05月
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