【QOL(生活の質)】訪問ルポ:マギーズ東京ってどんなところ?

公開日:2017年1月31日

2016年10月、東京都の豊洲に誕生した「マギーズ東京」。多くのメディアで報道され、関心を持っているがんサバイバーやその家族も少なくないでしょう。そこで実際に訪問し、センター長の秋山正子さんにお話を伺ってきました。

心をいやす環境、気兼ねなく相談できる体制

「がんの治療中でも一人の人間として自分を取り戻せる空間やサポートがほしい」という、がん患者マギー・ジェンクスさんの思いから1996年にイギリスで「マギーズセンター」が誕生。その正式な日本版として2016年10 月、東京・豊洲に開設されたのが「マギーズ東京」です。

ゆりかもめの市場前駅からゆっくり歩いて行くと、運河のほとりに立つ木造の平屋が見えてきます。ウッドデッキで繋がる双子のような2棟の建物の周りには目に優しい緑の芝生や木々が配されています。

本館の玄関扉を開けると中から木の香りがほのかに漂ってきました。「ようこそ」と笑顔で迎えてくれた秋山センター長の案内で、まずは館内ツアーに出発。本館にはキッチンと大きなテーブルを配したリビング、そしてソファーを配してプライバシーが保てるように小さく区切られたコーナーがいくつかありました。

友達の家に来たようなリラックスした気持ちでお茶や談笑を楽しみたい場合はリビングへ、一人になりたい場合や相談をしたい場合には区切られたコーナーへと、その時の気持ちや目的に応じて来訪者が「自分の居場所」を選択できるのです。別館はワンルームになっていて、中央に配されたゴロンと横になれるような長くて広いソファーからはガラス越しに青い空ときらめく水面が見えました。

「イギリスのマギーズセンターでは、がんになった人とその家族のためにはこうあってほしいという“心をいやす環境”や“気兼ねなく相談できる体制”についての基準を設けています。人の心身をいやす建築ということで、マギーズの建物は建築関係者にも注目されています」と秋山さんが説明してくれました。

本館リビング ゆっくり相談できるスペースも 別館の広々としたワンルーム 開放感あるテラス席

写真撮影:藤井浩司/ナカサ&パートナーズ

相談支援は、じっくり、ゆっくり「話を聞く看護」

 「オープン直後は報道で知ったという利用者が多かったのですが、最近は病院の外来に置いてあるパンフレットを見て訪ねてくるケースが増えています。周辺には5つのがん拠点病院など多くの医療機関があるため、通院の帰りに立ち寄る人も多くなりました」と秋山さんはいいます。

来訪の目的もマギーズ東京での過ごし方もさまざまです。お茶を飲みながらゆっくりと時間を過ごして帰る人もいれば、悩みや不安を抱えて訪ねてくる人もいます。これはマギーズ東京の主要な支援プログラムの一つが、看護師や臨床心理士による予約なしの無料相談支援だと広く知られ始めたということでしょう。

「常駐している看護師や臨床心理士などの専門職スタッフがお話を聞きながら、利用者自身が悩みや不安を解決するお手伝いをしています」と秋山さんが説明してくれました。病院その他の既存の相談窓口との違いは、「予約なし、時間の制限もなく、利用者が気兼ねなく話せる」ことです。

相談支援を求めて訪ねてきた人たちが抱えている不安や悩みはさまざまですが、秋山さんの実感として、若い女性の場合に多いのが主治医との関係や妊孕性(にんようせい/妊娠のしやすさ)の問題で、男性に多いのが仕事との関係や自分の病気を子どもにどのように伝えればいいのか、ということだそうです。

また、治療方法について悩んで訪ねてきた人が、ゆっくり、じっくり話をしているうちに、治療方法そのものよりも実は主治医との意思疎通に不安を感じているのだと自分自身で気づいた事例がありました。そこから「自分はどうしたいのか」と話は展開し、次の外来時に主治医に伝えることができたそうです。

秋山さんは「相談支援は“聞く看護”」であり、そこに不可欠なのが「ゆっくり、じっくり」なのだといいます。その人が本当は何を不安に思っているのか、どんな悩みを持っているのかを知り、その人自身が本来持っている力を取り戻す手助けをして次のステップに進めるようにする。それが相談支援だと秋山さんは説明します。

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がん治療の急行列車から降りたくなったら、ひと休みを

 がん治療が入院から通院へとシフトし、医療者との関わりが治療中心になってきました。治療はスピードアップしていますが、患者さんや家族の不安や悩みを抱えた気持ちは取り残されてしまう。病院や保健センター、地域包括センターなど、がん患者と家族に対応する相談窓口もあります。

しかし、残念ながら大勢に対処しなければならないので時間的制約が設けられ、“ゆっくり、じっくり”の余裕がありません。まして、ただ気持ちがモヤモヤとして晴れないような、不安や悩みが明確になっていない状況では、相談の申請さえできないでしょう。マギーズ東京が必要とされる背景にはこうした事情があります。

秋山さんは「がん治療の急行列車から降りたくなったら、ひと休みを」と勧めます。エネルギーを充足したら、また急行電車に乗るのもいいし、各駅停車でゆっくり進むのもいいでしょう。

マギーズ東京は、平日(月曜〜金曜)の午前10時〜午後4時までが開館時間で、週末と祝日は休館です。また、月に1度は土曜もしくは日曜にも開館し、都内のがん専門看護師や認定看護師が相談に応じる「オープンマギーズ」も行われています。

 

がん診療連携拠点病院などに設置されているがん相談支援センターなどの相談窓口との連携も円滑で、紹介されて相談に来るケースもあれば逆に相談に来た人を通院先の窓口に繋げることもあるそうです。

日本各地に広がる「マギーズみたいな場所」と今後の課題

 マギーズ東京は一般市民からの資金を募るクラウドファンディングや企業、行政の支援・助成で開設され、運営されています。「本拠地のイギリスではチャリティが根付いているのですが、日本ではまだ馴染みが薄いので、運営資金を確保していくことも私たちの課題の一つです」と秋山さんはいいます。

それは、日本各地に広がりつつある「マギーズみたいな場所」にも共通する大きな課題でもあります。すでに石川県の金沢には、外科医でがん患者でもある西村元一さんが「元ちゃんハウス」を開設、そのほかにも広島県では「あったらいいなマギーズセンター広島準備委員会」が実現に向けて活動しており、京都でも取り組みが始まりました。

本拠地のイギリスには現在18カ所の「マギーズセンター」があります。日本でも各地に必要とされていますが、開設・運営の資金繰りという壁を乗り越えるのが難しいのです。また、マギーズ東京自体も現時点では2020年までの期間限定となっています。

「高まるニーズに応えていくためにも、継続は不可欠です。相談支援の基盤を固めながら、新たな支援プログラム開発にも力を注ぎ、“マギーズのような場所が今の日本には絶対に不可欠なのだ”と存在価値の認知を広げていくことが社会の協力を得るためには必要ではないかと考えています」と秋山さんは前向きに、力強く語ります。

●マギーズ東京
東京都江東区豊洲6-4-18
TEL:03-3520-9913 FAX:03-3520-9914
website: http://maggiestokyo.org/
facebook :https://www.facebook.com/maggiestokyo
開館:月曜〜金曜 10:00〜16:00(祝日休)
*相談は予約不要・無料