【医療情勢 II 】図書館だからできること――がん情報普及への取り組み

公開日:2016年06月30日

目次

 市民の身近な公共施設を通して、がん情報の普及を目指そう――こんな発想で埼玉県立久喜図書館は、県の疾病対策課、相談支援センター、患者会、病院などと協力し積極的にがん情報を発信しています。その取り組みについて、埼玉県立久喜図書館司書主幹の小西美穂さんに話を伺いました。

患者会との連携でイベント開催

 「国民の2人に1人ががんになり、埼玉県でも死因の第1位はがん。これからはがん情報の発信が不可欠。図書館でできることはないだろうか」久喜図書館では市民にがんに関心を持ってもらうために、平成25年にがん情報の特設展示を開催しました。

がん患者会の協力を得て、会員手製のパネルを展示しました。複数のがん患者会と行政が協力し、公共施設で展示などを行うのは県内では初めてで、市民の反響は大きく、地元の新聞に取り上げられました。図書館に来て初めて展示を知った市民や新聞記事を見た患者さん、その家族からの問い合わせも多かったといいます。

同図書館がこれまで開催してきた特設展示のテーマは次のとおりです。

【平成25年】「がん、もっと知りたい!――治療、生活、これからのこと」(がんに関する資料展示とがん患者会の情報展示)

【平成26年】「ひとりにさせない。がん患者さんの心を支える――県内がん患者会・支援団体の活動をご紹介します」(県内がん患者会・支援団体の活動情報や、イベントなどの案内を展示)

【平成27年】「ひとりじゃない。支えあって、乗り越えよう!」(県内がん患者会・支援団体の活動情報やイベントなどの案内を展示。がんと闘う人たちの闘病記を紹介。講演会「がん患者の体験談を聴く――ひとりじゃない。前を向いて歩くために」)

今年の特設展示は8月16日~9月19日(8月27日「患者体験談講演会」)に開催される予定です。

身近な図書館が、専門機関への橋渡しに

「図書館員が医療に関する情報を提供するのは限界があるのでは」がん情報コーナーを開設した当初、小西さんはこのように考えていたといいます。しかし、専門家や行政関係者は「図書館ならではの取り組み」と好評価。意外な反響に、小西さんは図書館ががん啓発に取り組む意義を感じ、積極的に連携先を増やしていくことに決めました。

こうした取り組みが知られるようになり、図書館に相談に来る人が増えてきました。「わらをもつかむ気持ちで情報を求めている患者さんが本当に多いということがわかりました」と小西さん。 現在、同図書館はがん情報コーナーを常設し、がんの治療法などに関する本やWEBサイトを紹介するほか、がん関連の書籍約500冊を備えています。

また、専門的な情報を求める患者さんのために、医学論文情報のデータベースである医中誌Webと契約をし、論文の検索ができる場を提供しています。さらに、無料相談ができるがん相談支援センターやNPO法人の情報を提供するほか、患者会の紹介も行っています。

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気軽に相談に来てもらえる地域の情報センター

 今図書館は本を借りたり閲覧したりするだけの施設ではなく、地域住民の悩みや相談事を解決するきっかけをつかむ場所に変わりつつあります。同図書館では、病気で外出できない人のために電話やメールによるサービスを行っています。

また、必要な資料の複写・郵送サービス(実費、埼玉県内在住・在勤者に限定)も好評です。さらに、地域の図書館とのネットワークでこうした活動を広げ、患者さんに情報提供できる図書館を増やしていきたいとしています。

また、図書館とがん相談支援センターとの連携の強化も重要な課題であり、今年の特設展示会期中に、がん相談支援センター職員を招いて出張がん相談会を計画しています。「図書館が地域の情報センターとして、気軽にがんの相談に来てもらえるようになれば」と小西さんは話しています。

コラム がんの情報が得られる図書館の探し方

健康や医療のサービスを提供する図書館は全国で増えていて、その利用者も増加傾向にあります。2014年度に全国公共図書館協議会が行った調査で、「健康・医療情報に係るサービスを実施している」図書館は、都道府県立42 施設(89.4%)、市区町村立552 施設(45.6%)でした。がんに特化した情報提供を行っている図書館としては、長崎市立図書館、和歌山県立図書館などがあります。「がん情報」に関する図書館の取り組みについては、地域の図書館の活動状況を把握している各都道府県立の図書館に問い合わせを。

取材協力

埼玉県立久喜図書館

埼玉県立久喜図書館 がん情報コーナー

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