【医療情勢】誰でもいつでも、がんのことで悩む人が立ち寄れる 日本初のマギーズセンター開設に向けてプロジェクト進行中

公開日:2014年12月01日

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akiramenai_gk_ij_img_01 英国には、がん患者が自分を取り戻せる施設があります。それは、「マギーズセンター」。ここを訪れるだけで癒され、悩みごとを相談することができ、さまざまな専門的な支援も無料で受けられます。日本でもこのセンターを開設しようと、今年9月にプロジェクトが発足。本プロジェクトについて共同代表の鈴木美穂さんに現状を伺いました。

自分で選んだ治療法を後悔しないことが重要

鈴木美穂さんは、2008年5月、24歳のときに乳がんが見つかりました。突然の告知に鈴木さんの時間が止まりました。

 胸のしこりが気になって検査を受けたら、「まず大丈夫でしょう」と言われて安心しました。乳腺症かなと思って翌週、検査結果を聞きに行くと、「悪いものが写っていました。がんです」と、先生から告知を受けました。

診察室を出て、気づいたときは病院の入り口で膝を抱え、茫然とただ母親が来るのを待っていました。周りには大勢の患者さんがいました。告知のショックを受けても泣くこともできませんでした。

その後、治療にはいろいろな選択肢があることを知りました。乳がんの場合、温存するか、全摘して再建するか、先に抗がん剤治療を受けるかなど、自分で選ぶことができますが、告知されたときの私は何もわかりませんでした。最初の段階で自分の置かれた状況を理解し、選択肢を検討し、自分で納得して治療法を選ぶことが、その後の人生で後悔しないためにとても重要だと思います。

 

しがらみのない場所で話を聞いてほしい

「なぜ自分だけががんなのか」と落ち込んでも、その孤独感を和らげる方法が見つけられずにいた鈴木さんは、5年前、若年性がん患者の団体「STAND UP !!」を立ち上げました。

 「病院に相談支援センターがあるのに、なぜほかに必要なのか」と聞かれることがあります。病院の相談支援センターだけでなく、だれでも話を聞いてもらえる場があることは大切です。相談支援センターや患者会に行って勇気づけられ、家族や友達にもよくしてもらいましたが、十分に愛を感じながらも、私は孤独でした。

私と同じ気持ちの仲間に会いたいと思い、「STAND UP !!」を作りました。会員(35歳以下)は現在約300人です。年1回、春にフリーペーパーを3万部発行し、全国のがん拠点病院に置いています。その広告収入で活動経費をまかなっています。また、習い事をするような感覚で参加できる、がん患者のためのヨガクラス「Cue」も開催しています。

 

クラウドファンドで大健闘、今後は企業や自治体にも呼びかけ

akiramenai_gk_ij_img_02 2014年3月、ウィーンで開かれた国際会議IEEPO(International Experience Exchange for Patient Organizations)で、鈴木さんはマギーズセンターの存在を知りました。そこで、すでに日本でマギーズセンターをモデルにした「暮らしの保健室」を運営していた、共同代表の秋山正子さんと出会いました。日本版マギーズセンターの青写真もできつつあります。

 現在、プロジェクトのスタッフは発起人とボランティア合わせ約20人です。全員が仕事を持ち、活動は平日仕事が終わってから「暮らしの保健室」(新宿区戸山)で行っています。

マギーズセンターにはがん専門看護師2人が常駐することと、ソーシャルワーカー、臨床心理士なども必要になります。誰でもいつでも、がんのことで悩む人が立ち寄り、自由に過ごせて、必要であれば専門的な知識を持つ人が寄り添う。患者さんが自分と向き合って自分を取り戻すための場所ですから、一人になれる部屋(トイレ)も設置します。講師を招いてワークショップも開きます。

マギーズセンターによって、「がん=死、暗い」というイメージを変えていきながら、今健康な人も「がんになったらマギーズに行けばいい」と思ってもらえるようにしたいです。がん患者さんが、今生きていることの尊さや輝きを感じることができる環境を作っていきたいと思います。

日本初のマギーズセンターは東京都湾岸エリアに完成する予定で、建設用の土地が確保できました。2015年初夏着工、来年度内オープンを目指します。3500万円のセンター建築費の調達は、インターネットを通じて多数の支援者に協力を呼びかけるクラウドファンドを利用し、11月22日の終了時点で2206万8000円が集まりました。

インターネット上で一般に呼びかけて2カ月程度でこれほどの成果が上がったのは、このプロジェクトに対する社会的関心の高さを示していると思います。残りの約1300万円は、企業や自治体に協力を呼びかけたり、フリーペーパーなどの広告費、協賛グッズ(寄付付き商品)を販売するなど、なんとしてでも資金を集めたいと考えています。

現在の試算では、開設初年度に5500万円、その後は年間2000万円(英国の実績)の運転資金が必要になります。

 

英国では自治体が資金を半分出すほどの存在に

プロジェクトが目指すのは、英国のマギーズセンターのように、そこに行くだけで癒される場所であること。美術館のように魅力的で、教会や病院のように安心できる場所が理想です。

 今年5月、香港のマギーズセンターを視察しました。利用者は皆、集中して活動に取り組み、誇りを持って生きている様子でした。私は絵画と瞑想のクラスに参加しましたが、本当に癒されました。

英国で1996年に最初のセンターができて、現在15カ所に増え、さらに7カ所が建設中です。病院の敷地内でスタートした小さな試みが、いまでは自治体が資金援助するほどの存在になっています。患者さんの状態が不安定で「そのまま退院させることが不安」というとき、センターが受け皿になっていることからも、不可欠な社会資源であることが理解できます。

日本各地から、「マギーズセンターを開きたい」という声が聞こえてきます。まず「東京」が拠点となることで、地方への波及効果が期待できます。闘病中の一番つらい時期を過ごすとき、「あそこ行ってみよう」と思える場所にすることを目標に一日一日を送っていきたいと思います。

maggie’s Tokyo projectへの寄付などについては、ホームページ をご覧ください。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。