【医療情勢 II 】体験者だからこそできる支援 「がんピア・サポート」

公開日:2014年10月31日

目次

 治療法の選択をはじめ仕事や生活面など、がんに立ち向かうと、さまざまな決断を迫られます。より良い選択と決断ができるよう、がん体験者がそうした相談に応じる支援の輪が広がっています。

 

がんピア・サポート

 がんと宣告された瞬間から患者さんはさまざまな選択と決断を迫られるようになります。そうした悩みや不安を解消する一助として、患者会やがん患者サロンなどで同じ病気を持つ患者さん同士が語り合う交流が知られています。これらを「ピア・サポート」といいます。このような従来のピア・サポートに加えて数年前から徐々に増えているのが、がんについての知識と自身の体験を生かした、がん体験者による相談支援です。

治療法選択の悩みや副作用や後遺症の不安と対処方法の疑問、治療に関わる経済的問題、職場で闘病の理解を得るにはどうしたらいいのかという悩み、そして治療後も消えない再発の不安など、がん患者さんの胸には一人で抱えきれない思いがあふれています。

相談では、こうした思いを聴き取り、同じ体験を乗り越えてきた者として体験談を伝えたり、助言や役に立つ情報を提供したりすることで、悩めるがん患者さん自身の気持ちが整理できるようにします。

この背景にあるのは2012年に改定された第二次「がん対策推進基本計画」です。このなかで「国や地方自治体は、がん患者・経験者のピア・サポート充実に努める」ことが明文化されました。これを受けて、各自治体はがん体験者を対象にしたピア・サポーター養成講座やがんピア・サポーターによる相談事業を開始。がん体験者が相談にのるというピア・サポート活動が活発になりました。

 

ピア・サポーターは研修を受けたがん体験者

 相談に応じるがん体験者は、自治体やNPO、患者会などが主催する「がんピア・サポーター養成講座」(名称はさまざま)を受講し、がんについての正しい知識など相談業務に必要な研修を経た人です。北海道や埼玉県など一部の自治体のように、がんピア・サポーターを養成し、相談業務に雇用している例もあります。

神奈川県内の医療機関では、がん体験者が非常勤のピア・サポーターとして週に2日勤務、医療従事者とともにがん支援相談に応じています。例えば、治療薬の選択において、医療者はその効果や副作用について、医学的な面を中心に説明を行います。それに対して、ピア・サポーターは、その薬を使うことによって、生活や仕事にどんな影響が出るか、そして患者としてそれをどう受け止めたらよいかを体験をもとに助言するという具合です。

がん闘病のために職を辞する患者さんが少なくありません。民間団体の調査によると、働いていた人の4人に1人が解雇や依願退職で仕事を失っているといいます。がんピア・サポーター養成は、がん体験者の雇用創出にもつながる期待があります。

 

がん体験者に相談できるところ

 がん体験者による相談支援は、医療機関やNPO、患者会などで取り組む事例が増えています。医療機関の場合、「がん対策推進基本法」の理念に基づき、全国どこでも質の高いがんの専門治療が受けられるように、都道府県ごとに厚生労働大臣が指定したがん診療連携拠点病院で取り組んでいるケースが多く見られます。

がん診療連携拠点病院制度

(厚生労働省ホームページ「がん診療連携拠点病院等」から引用)

 

 全国のがん診療連携拠点病院には、「がん相談支援センター」などがんに関する相談に無料で応じる窓口が設けられています。これらの窓口に問い合わせてみるといいでしょう。(参考サイト:「癌相談支援センターを探す」

また、がん患者さんを支援するNPOや患者会などでも取り組んでいるところがあります。いずれも、窓口の名称はさまざまなので、問い合わせの際には「がん体験者による、がんピア・サポートを受けたい」という旨を伝えるといいでしょう。

医療機関など多くの場合、相談は無料ですが、団体によっては有料で受け付けているところもあります。また、予約不要でいつでも相談できるところもあれば、事前予約を求めるところもあります。相談を思い立ったら、まずは問い合わせをして、予約や費用の有無などを確認しましょう。なお、相談の形態は対面による個人相談と電話相談などがあります。

 

がんピア・サポートの生かし方

 がん体験者は医療従事者ではありません。治療方針の決定、特定の医師や医療機関の紹介も行いません。がんピア・サポートは、患者さん自身でよりよい選択ができるように、体験者の立場から支援するシステムです。 支援の中で受け取った助言や情報を有効に活用し、自分の体調や状況にあわせてより良い選択と決断に役立てましょう。

がん宣告を受けたときから始まる苦悩や不安、孤独感など、がん体験した人同士だからこそ、理解し、共感できるものです。がんピア・サポートの質を研究した学術論文では、がんと診断されたら治療を開始する前から体験者の支援を受けることが有用であるとしています。一人で悩みを抱え込まず、がん体験者に相談してみましょう。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。