【医療情勢】がん専門看護師、がん専門薬剤師の役割を知る

公開日:2014年06月30日

目次

高度化するがん治療、看護師や薬剤師にも専門性の高い資格がある

 前回のチーム医療の記事(2014年6月号の医療情勢に掲載)で、病院には様々なスタッフがいることを知って頂けたと思います。チーム医療を行う場合には、主治医のほかに医師だけでも、腫瘍内科医、放射線治療医、緩和ケア医などが関わりますし、病気が回復した後のリハビリでは、理学療法士、作業療法士などが関わる場合もあります。退院してからの在宅医療を支えるために、ソーシャルワーカーという役割の方もいます。ソーシャルワーカーは、転院や在宅治療への移行の相談、金銭的なことや仕事のことなども相談に乗る場合もあるようです。

 がんの治療を受ける際に、より安心して治療を受けること、また納得のいく治療を選択できることは、患者さんにとってもっとも重要なことでしょう。治療を受ける病院のことを知り、それぞれのスタッフの役割を知ることで、医療者とのコミュニケーションも円滑に進みます。特に、がんの治療技術は近年目覚ましく進歩しており、医療者の間でも専門性を持たないと新しい治療についていけない状況になっています。患者さんのニーズに合わせた高度で専門的な治療を行うために、看護師、薬剤師にも専門性を認定する資格制度ができています。

 今回は専門看護師、認定看護師、専門薬剤師とはそれぞれどのような役割を担っているのかを見ていきましょう。

 

高度化するがん治療に対応するがん専門薬剤師

 がん治療に関わる薬剤師の専門資格として、がん専門薬剤師があります。がん専門薬剤師とは、がん領域における薬物療法等についての高度な知識と技術を用いて、医療機関において質の高いがん薬物療法を実践する者として、日本医療薬学会が実施する審査ならびに試験に合格した人のことをいいます。最近は分子標的治療薬などの新たな薬剤が登場し、専門領域での最新の知識や技能が薬剤師にも求められるようになってきているのです。

 日々進歩する薬物療法に対応できるように、がん専門薬剤師は、高度化した薬の効果や副作用などを専門的に学んでいます。患者さんには副作用の説明などを含めた細やかな服薬指導を行ってくれるでしょう。

 この資格は、薬剤師に係る資格として初めて医療法上広告が可能となりました。また研究実績ではなく、臨床能力を重視している点も特徴的で、がん専門薬剤師になるためには、「がん患者への薬学的介入実績50症例(3臓器・領域以上の癌種)を提出すること」が求められています。患者さんへの薬学的な介入やケアの程度が、がん専門薬剤師と名乗れるだけのレベルなのか、この部分に多くの時間を割いて厳しく審査しているようです。

 

がん看護における様々な専門資格

 がん治療の進歩は看護業務の内容も変えています。海外では、いち早く「ナースプラクティショナー」「クリニカルナーススペシャリスト」といった資格認定制度を作り、高度化する医療に対応しようとする動きがあります。日本でもこれらの影響を受けるように、1994年に専門看護師制度が創設されました。

 現在、認定されている看護系の資格は2種類あります。それは専門看護師制度と認定看護師制度です。看護協会の定義によれば「専門看護師制度は、複雑で解決困難な看護問題を持つ個人、家族及び集団に対して水準の高い看護ケアを効率よく提供するための、特定の専門看護分野の知識・技術を深めた専門看護師を社会に送り出すことにより、保健医療福祉の発展に貢献し併せて看護学の向上をはかることを目的としています。」となっています。

 専門知識の習得は、看護協会と日本看護系大学協議会が連携して運営している教員機関にて行われています。患者さんに対する主な業務としては、高度な看護の実践と、倫理的な問題や葛藤の解決などが挙げられています。また臨床だけでなく、研究も行うことが明記されています。

 都道府県別のがん看護専門看護師の数を見てみますと、2014年6月25日現在において、多い順に「東京都 86名」「神奈川県 47名」「大阪府 35名」「兵庫県 34名」「愛知県 33名」「福岡県 23名」「静岡県 22名」「北海道 21名」「千葉県 18名」と主要都市に多いことが分かります。

 

<専門看護師の概要>
分野名 特定年月 認定開始年月 分野の特徴
がん看護 1995.11 1996.6 がん患者の身体的・精神的な苦痛を理解し、患者やその家族に対してQOL(生活の質)の視点に立った水準の高い看護を提供する。
感染症看護 2006.7 2006.11 施設や地域における個人や集団の感染予防と発生時の適切な対策に従事するとともに感染症の患者に対して水準の高い看護を提供する。
在宅看護 2012.5 2012.12 在宅で療養する対象者及びその家族が、個々の生活の場で日常生活を送りながら在宅療養を続けることを支援する。また、在宅看護における新たなケアシステムの構築や既存のケアサービスの連携促進を図り、水準の高い看護を提供

看護協会のHPより(http://nintei.nurse.or.jp/nursing/qualification/cns

 

看護業務に関連するもう一つの資格として認定看護師があります。認定看護師は、それぞれの専門分野において熟練した看護技術と知識を持っていることが認められた人のことをいいます。認定看護制度には、現在21の分野があり、中でもがんに直接関わる認定看護師は、がん放射線療法看護、乳がん看護、がん性疼痛看護、がん化学療法看護、緩和ケアなどがあります。

 

<認定看護師の概要>
分野名 特定年月 認定開始年月 知識と技術(一部)
緩和ケア 1998.5 1999.6 ・疼痛、呼吸困難、全身倦怠感、浮腫などの苦痛症状の緩和
・患者・家族への喪失と悲嘆のケア
がん化学療法看護 1998.5 2001.8 ・がん化学療法薬の安全な取り扱いと適切な投与管理
・副作用症状の緩和およびセルフケア支援
がん性疼痛看護 1998.5 1999.6 ・痛みの総合的な評価と個別的ケア
・薬剤の適切な使用および疼痛緩和
訪問看護 1998.11 2006.7 ・在宅療養者の主体性を尊重したセルフケア支援およびケースマネジメント看護技術の提供と管理
手術看護 2003.7 2005.8 ・手術侵襲を最小限にし、二次的合併症を予防するための安全管理(体温・体位管理、手術機材・機器の適切な管理等)
・周手術期(術前・中・後)における継続看護の実践
乳がん看護 2003.11 2006.7 ・集学的治療を受ける患者のセルフケアおよび自己決定の支援
・ボディイメージの変容による心理・社会的問題に対する支援
がん放射線療法看護 2008.5 2010.6 ・がん放射線治療に伴う副作用症状の予防、緩和およびセルフケア支援
・安全・安楽な治療環境の提供

看護協会のHPより(http://nintei.nurse.or.jp/nursing/qualification/cn

 

患者側も医療スタッフの特性を理解して付き合う

 がん専門薬剤師や、がん専門看護師は、まだまだ少数であるため、限られた病院にしか所属していませんが、専門看護師などの活躍により、病院の治療の質が格段に上がったという報告もあります。入院や通院を検討されている方は、この専門薬剤師や専門看護師がいるかどうかを一つの目安にするとよいでしょう。彼らが所属しているかどうかは、病院のホームページに書いてありますし、直接病院に電話をして聞いてみても教えてもらえるでしょう。

 このように、チーム医療に関わるスタッフは、高度な知識と経験を持ったスペシャリストで形成されます。患者さんの持つ事情や環境、人柄はさまざまです。決してひとつの治療法だけが最良なのではありません。患者さんが納得のいく治療を受けられるよう、それぞれのスタッフが連携しています。専門看護師が患者さんやご家族から聞いた悩みを、必要に応じて医師や薬剤師と共有し、治療の考え方を改めることもあります。

 医術の進歩により、医師一人の知識に頼っていては最良の治療は行えません。それぞれが持つ専門分野の知識を結集して、患者さんの治療に当たっているのです。

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