【QOL(生活の質)】医師の知識にも限界がある~よりよい治療を受けて、納得するために~

公開日:2012年06月29日

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病気を正しく知ることが、納得できるがん治療の素地となる

かつてのがん治療は、ほとんど主治医の考えだけで治療方針が決定されてきました。しかし、医師も万能というわけではありません。医師の間では、時折「医療は不確実性がある」という言葉が交わされます。どんなに手を尽くして、間違いのない治療を行っても、患者さんの体質差や病態の違いなど、やむを得ない事情で良くない結果になる可能性があるということです。「本当にこれでよかった」と思うためには、患者さん自身が最後まであきらめず、治療法の一つひとつに納得できるよう勉強することが非常に大切です。

では、どのように勉強をしたらいいのでしょうか? まずは、自分の病気がどんな状態にあるかを正しく理解することです。がんの種類や進行度、選択可能な治療法など様々な要素を総合的に捉えることは、納得できるがん治療の素地となります。

病態に関する情報や治療法については、医師から直接説明を受けます。しかし、その場で理解するのは簡単ではありません。多くの場合、医師の言葉を追うのが精一杯で、理解するところまで至らないと言われています。従って、帰宅後に自分で勉強できるように、医師の話をメモに留めておくといいでしょう。話を聞きながらメモをとるのが難しければ、録音でも構いません。ただし、メモも録音も、その場で医師の了解をとることです。「先生の話をよく理解したいので、メモ(または録音)させてください」と言えば、大抵の医師はイヤな顔をしません。

看護師向けの本やガイドラインも重要な情報源

医師の説明を自宅でよく確認したら、さらに情報を集めて知識を深めましょう。 情報収集にはコツがあります。まずは、一般向けに書かれた書籍を読んで、自分のがんに関する基礎知識を身に付けて下さい。どんな本がいいか迷った時は、医師や看護師に推薦してもらうのもいいでしょう。書店に並ぶ本のなかにも、科学的根拠のない情報を載せた本がありますから、信頼できる本を選ぶことは非常に大切です。

基礎的なことがある程度わかり、より詳しいことを知りたい場合は、看護師向けに書かれた本も役に立ちます。医師向けの本ほど難しくありませんが、専門的な情報が収録されています。

また、可能であれば治療ガイドラインを読んでおくといいでしょう。現在のがん治療は、基本的に各学会が定めたガイドラインに沿って決定されます。医師に示された治療法が、ガイドラインに則った標準的治療かどうかを確認することで、治療の効果やリスクに対する理解が深まります。医師向けのガイドラインのほか、一般向けに平易に書かれたガイドラインを用意している学会もあります。学会のホームページまたは大型書店等で入手可能です。

情報収集で注意したいのは、インターネット上にあふれる代替療法に関する情報です。よく言われるように、ネット上の情報は玉石混淆です。有益な情報に紛れて、不当な費用がかかったり、逆に状態を悪化させる治療を推奨する情報もあるため、慎重になる必要があります。「必ず治る」「リスク無し」などという過度に扇情的な文言には、特に気をつけましょう。試してみたい情報があったら自己判断せず、医師に相談してみることも大切です。

病気だけでなく、病院に関する情報も集めよう

後悔しないがん治療のためには、病院に関する情報収集にも力を注ぎましょう。がんの治療は、途中で病院を移るケースもよくあるため、今かかっている病院だけでなく、これからかかる病院も含めて情報を集め、自分の受けたい治療法や、療養の段階に合った機能の病院を選ぶことです。

がんの治療を受ける病院は、大まかに分けて(1)「がん専門病院」、(2)「がん診療提携拠点病院」、(3)「特定機能病院」があります。

(1)がん専門病院は、がんセンターなど高度で専門的ながん治療が可能な病院です。ただし、がん専門だけに、ほかの病気には十分対応できないこともあります。がんのほかに持病がある場合などは気をつけましょう。

次の(2)がん診療提携拠点病院は、国が定めた一定の要件を満たしている病院です。全国どこでも質の高いがん治療を受けられるように、都道府県に1か所指定されています。

(3)定機能病院も国が定めた要件を満たす病院ですが、がん以外の病気も手厚い対応が可能です。

上記の3つは、いずれも高度で専門的な治療を受ける病院ですが、一通りの治療を終えたあとは通院しやすい一般病院か、長期入院が可能な療養型病院を選ぶことになります。
最近では、病院のホームページに治療実績や入院時のケア体制(看護師の数など)が詳しく掲載されています。自分の状態にあった病院はどこか、念入りに情報を集めておきましょう。

医師の役割の違いを知って良好な関係作りを

情報収集のなかで、意外と抜け落ちやすいのが、”医師の役割の違い”です。これまで、がん治療の中心は外科手術だったことから、日本では伝統的に術後管理も外科医が担ってきました。しかし、放射線治療や抗がん剤、ホルモン剤による治療が進歩し、それらを合わせた「集学的治療」が一般化してからは、放射線科医や腫瘍内科医も治療に係るようになりました。病院によって、最後まで外科医が診るのか、他科の医師も診るのかが異なりますから、折りをみて確認しておくといいでしょう。予め把握しておくことで、医師との関係作りもスムーズになるはずです。

医師の役割の違いでいえば、主治医以外の医師の診察を受ける「セカンドオピニオン」も忘れてはいけません。よく、「セカンドオピニオンをとるのは主治医に失礼だ」という声もありますが、より治療を理解し、納得するためには遠慮することではありません。セカンドオピニオンをとるには、主治医からカルテやレントゲンのコピーを借りることになりますが、「病気を深く理解したいので」と説明すれば問題はありません。

そのほか、情報収集の場としては患者会も有益です。どんな治療をしたか、副作用が出た時はどうしたか、転移・再発の不安にはどう対処するかなど、経験者だから分かり情報が手に張ります。同じ病気の経験者同士、言葉を交わすことは精神的な支えにもなります。

がん治療に、焦りは禁物です。納得できる治療を受けるために、信頼できる情報を集め、冷静に状況を判断することを意識するように心がけましょう。

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