【医療情勢】日本人のがん患者さんの課題克服を目指して

公開日:2016年5月31日

 がん研究会有明病院がん疼痛治療科の服部政治部長は「がん患者さんの疼痛治療の現状と、適正な疼痛治療推進における課題」をテーマに、日本人特有の「がまんの美学」ががん治療の足かせになっている現状などについて講演しました。

日本人の医療用麻薬の1人当たり消費量は適正使用量の約15%

 がんに関連する「痛み」は、がん自体が周囲の組織に広がって起こる痛み(がん性疼痛)、治療に伴う痛み、精神的、心理的な苦痛などさまざまですが、最もつらいのはがん性疼痛です。骨に転移すると、骨膜への刺激や骨折などによって痛みが起こります。胃や腸など内蔵にがんが広がると、消化管の動きが悪くなり、腹痛が起こります。

また、がんの広がりによって神経が圧迫されると、激しい、しびれたような痛みが起こります。厚生労働省の研究班が看護師を対象に行ったアンケート調査によると、末期のがん患者の約7割ががん性疼痛を訴えているといわれています。

がんの痛みに対しては、鎮痛剤(内服薬、貼付剤、注射剤)による薬物療法、神経ブロック療法、脊髄鎮痛法などが行われています。鎮痛剤は種類が豊富で、特にオピオイド製剤は成分も剤型もさまざまです。現在国内では20種類以上の製品が発売されていますが、WHOの報告によると、日本の医療用麻薬(強オピオイド)の1人当たりの消費量は適正使用量の約15%で、他の先進諸国と比べても格段に少なくなっています。

日本人特有の「がまんする体質」ががん治療にブレーキ

 服部部長は、その根底にある日本人の「麻薬」に対する誤解を指摘しています。主治医から医療用麻薬の使用を勧められると、患者の多くは「自分の体はそのような薬を使わなくてはいけない状態になっているのか」と悲観します。

麻薬に対して中毒、耐性、破壊というマイナスイメージをもち、死ぬ前に使われる薬という偏見、誤解もあると指摘しています。服部部長は、「医療用麻薬は痛みに対する使用に限り中毒になることはありません。痛みの程度に応じて薬剤を増量したり、変更したりしますが、それによって廃人になることもありません。

薬剤によって、眠気、吐き気、便秘などの副作用が生じますが、臓器障害に及ぶことはまずありません」と説明しています。医療用麻薬は鎮痛薬の一種であり、必要な時は躊躇せず、副作用を恐れずに十分量を使うことが重要だといいます。

がんの疼痛治療を推進するうえで、日本人がもつ「がまんの美学」も大きな壁になっています。がんの痛みを我慢していると、食事や運動ができず、不眠や抑うつ状態を招き、体力、免疫力が低下します。その結果、がん治療の継続ができなくなります。

国内の調査で、がんの疼痛治療を受けている患者の半数以上が「がんの痛みは、基本的にがまんするもの」「あまり痛みを医師に訴えると、そのことががんの治療の妨げになるのではないかと心配」などと考えている実態が明らかになっています。

一方、塩野義製薬が今年2月に行ったインターネット調査で、医師の8割は「患者の痛みを気にしながら対処している」と答えているのに対して、患者がそう考えているのは5割にとどまり、双方の考えに食い違いがあることが浮き彫りになりました。

国が進める「がん対策推進基本計画」では、すべてのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上を全体目標に掲げ、がんと診断された時からの緩和ケアを推進することが重点課題となっています。服部部長は「がんのつらさを軽減するためには、痛みを我慢しないことが大切です。

また、医療用麻薬に対する誤った考えを改めることが重要です。まずは、痛みがあることをありのまま医師に伝えてください。遠慮は禁物です」と助言しています。服部部長のこの講演は、3月17日に都内で開催された「がんのつらさ軽減プロジェクト2016」(塩野義製薬)の記者発表会で行われました。

患者さんと医師のコミュニケーションにアプリの活用

 患者さんが痛みを我慢して医師にそれが伝わらないと、治療に支障が生じます。がんの疼痛治療を推進するうえで、患者さんの本音を引き出すコミュニケーションも重要な課題です。その対策の1つとしてアプリを使って、患者さんのつらさを医療従事者と共有する動きが注目されています。

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塩野義製薬と株式会社ウェルビーは「つたえるアプリ」を共同開発しました。このアプリは患者と家族や医療従事者の間で「つらさ」を共有するための、がん患者をサポートするデジタルサービスです。がん性疼痛、だるさ、吐き気、気分の落ち込み、しびれや発熱など18症状について患者が自己採点し、その結果をもとに作成されたアプリ内のグラフを主治医などに見せます。主治医は患者の症状の推移が一目でわかるので、容易に患者と「つらさ」を共有することができるといいます。

また、メモ機能も搭載されているほか、医療従事者が伝えてほしいと考えていることやその伝え方など、実用的なコンテンツも収載されています。現在、スマートフォン・アプリ版に加え、パソコン、タブレットなどで利用できるウェブサイト版(https://tsutaeru-app.welby.jp/)もリリースされています。

※掲載している情報は、記事公開時点(2016年5月31日)のものです。