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働くがん患者さんの「治療と仕事の両立をサポート」
【トピックス】日本初・順天堂発のがん患者さんの就労を支えるIoTツール、選択制就業規則を開発。
働くがん患者さんの「治療と仕事の両立をサポート」

働きながらがん治療を受ける患者さんが増えている現在、企業側にはそうした社員のサポート体制を整備することが求められています。こうした中で、順天堂大学医学部公衆衛生学講座准教授の遠藤源樹先生は、がん患者さんの治療と就労の両立を後押しするための各種ツールを開発し、2019年4月にWEBサイト「順天堂発・がん治療と就労の両立支援ガイド(https://www.juntendo-caw.com/)」で一般公開しました。その中から、特にがん患者さんの就労支援に役立つ二つのツールをご紹介します。
目次
がん患者さんの実態に即した専用就業規則を作成
「選択制がん罹患社員用就業規則標準フォーマット」
一つ目のツールは、「選択制がん罹患社員用就業規則標準フォーマット」です。これは、がん罹患社員に時短勤務などの柔軟な働き方を認める専用の就業規則フォーマットです。
一般社員の就業規則と異なるのは、治療のための長期休職を認める「治療休職制度」や、「短時間勤務制度」「通院休暇制度」「勤務日数削減制度」「テレワーク制度」など、働きながらしっかりとがんの治療を受けられるように配慮した独自の規定を盛り込んでいることです。
その規定は、がん罹患社員を対象に遠藤先生が行った復職に関する調査結果のエビデンスに基づき作成されています。
例えば、「治療休職制度」では休職期間を下記のように定めています。
●勤続満3年未満の者 180日以内
●勤続満3年以上の者 365日以内
これは遠藤先生が調査した、がん患者さんの復職率の実態を踏まえて規定したものです。
「中小企業で定められている休職期間は3~6カ月前後が少なくありません。しかし、がんの種類と治療などにより、療養期間は変わってきますが、療養開始日から6カ月の時点でのフルタイム復職率は50%以下ということが我々の研究で示されました。
療養開始日から1年で6%を超える方が職場復帰を果たしており、せめて、身分保障期間(休職期間など)は、短くとも、療養開始日から1年間あるのが望ましいでしょう。
本就業規則標準フォーマットに掲載されている、研究成果をベースとした治療休職制度を適用すれば、がん患者さんはさらに復職しやすくなるはずです。そうはいっても、各々の企業によって許容できる休職日数は異なるでしょう。
弁護士や社労士などの法律の専門家が中心となって、本就業規則標準フォーマットをベースに(本就業規則は先述のWEBサイトより、wordファイルでダウンロードできます)、休職期間などをそれぞれの企業の実態に合わせた、『がん患者さんが期間限定的に治療と就労を両立しやすくなるための働き方改革』を行う企業が1社でも増えてほしいと願っています」
この就業規則フォーマットは、2019年5月に、「より多くの企業で参考にしてほしい」という思いから、遠藤先生編著による書籍※にまとめて出版されています。
※『がん罹患社員用就労規則標準フォーマット がん時代の働き方改革』(労働新聞社 発行)
医療用語を職場で通じる言葉に“翻訳” するIoT就労支援ツール
「がん健カード作成支援ソフト」
二つ目のツールは、医療の現場で使われる専門用語や難解な表現を、職場で働く一般の人でも理解できるわかりやすい言葉に自動で翻訳してくれる「がん健カード作成支援ソフト」です。これは、就労支援をより円滑に進めることを目的とした「IoT※就労支援ツール」の一つです。
一般に、がん患者さんが復職する場合、働く上でどのような就業上の配慮が必要なのかを主治医が診断書や意見書に記載して発行し、患者さんが職場に提出します。
しかし、その内容は往々にして医療従事者以外にはわかりづらい書き方になっています。なぜなら、医療機関では、『疾病性の言葉(治療内容、症状などの医学用語)』でコミュニケーションされていますが、企業では、『事例性の言葉(突発休を月3日認めた、立ち作業は難しい、離席が多い、といった、業務を遂行する上で支障となる客観的な事実)』でコミュニケーションされているからです。
例えば、「診断書:大腸がん。下痢、倦怠感等認めるが、一定の配慮の下、就労可能である」と診断書に記載されていても、職場の担当者は「会社としてどのような配慮や対応をすればよいのかわからない。特に『一定の配慮』が何かよくわからない」と困ってしまうケースが少なくないのです。
この診断書は、下痢、倦怠感が『疾病性の言葉』で書かれており、職場で配慮を考慮する場合、『事例性の言葉』に翻訳する必要があります。
そこで遠藤先生は、こうした医師が用いる専門的な表現や言葉『疾病性の言葉』を、職場での配慮の言葉『事例性の言葉』に自動的に翻訳する、日本初のIoT就労支援ツール「がん健カード作成支援ソフト」を開発(がん・循環器・難病・産婦人科等の全分野共通のソフトとして2018年8月特許申請済)したのです。
このがん健カード作成支援ソフトでは、がん患者さんの「症状」と「仕事内容」をクリックするだけで、自動的に「1日5~10回、トイレのために離席する可能性があるため、近くにトイレがある環境が望ましい」「座り仕事、事務作業等であれば就労可能。立ち仕事は難しい」「2時間以上の外出・出張を避ける」「重いものを持つ作業は避ける」など、職場で留意すべき事項「事例性の言葉」に翻訳され、具体的なアドバイス文を簡単に作成できます。
「現在、医療機関からの診断書・意見書は、医師が患者さんに渡したものを患者さんご自身で職場に提出してもらっています。このやり取りをより円滑に素早く行えるようにして、がんに悩んだり苦しんだりしている患者さんの負担を少しでも軽くしたい。
そのために、前述の特許申請している学術シーズをベースに、インターネットを介して医療機関と職場を結び、診断書・意見書をオンライン上で共有する『IoT就労支援ツール』の開発に取り組んでいます」
※IoT…「Internet of Things」の略で、「すべてのモノをインターネットでつなぐ」という意味
がん治療とその副作用を見通せるカレンダーを作成中
順天堂大学ではこのほかにも、がん患者さんの治療と就労の両立に役立つツールを続々と開発しています。
順天堂大学乳腺腫瘍学の齊藤光江教授が中心となって開発が進められている「がん種別治療モデルカレンダー」がリリース予定とのことです。
これは、がんの種類別・治療法別に「いつ・どのような治療が行われるのか」「その治療によって、いつ・どのような副作用が現れるのか」といった要点をカレンダー形式にまとめたツールであり、患者さんは自分がどういう症状に悩まされるかを前もってイメージすることができます。
例えば、「1日目に点滴を行う」場合には、その副作用で「2~3日目に吐き気がする」「数日後に気持ち悪くなったりだるくなったりする」「2~3週間後に髪の毛が抜ける」など、治療内容と副作用が時系列にわかりやすくまとめられています。
遠藤先生はこのカレンダーの完成がとても楽しみだと、次のようにお話しています。
「患者さんは『これから何が起こるのか、自分は一体どうなってしまうのか』など、先行きが見えない不安に苛まれ、それが日常生活にも就労を継続することにとっても大きな壁になっています。
治療とその副作用の見通しを分わかりやすくまとめたこのカレンダーが完成すれば、患者さんは心の準備をすることができるし、職場もいつ・どのような配慮をすればよいのかが明確なので、がんを治療しながら働き続ける患者さんを支えやすくなります。
さらに、この「がん種別治療モデルカレンダー」と、カレンダーにある疾病性の言葉(治療内容、症状等)を事例性の言葉に翻訳する「がん健カード作成支援ソフト」と連動させることで、がん治療を受けながら働きたいと願うがん患者さんのサポートをしていきたいと、挑戦しています。
ポイントまとめ
- 「選択制がん罹患社員用就業規則標準フォーマット」の活用で、がん罹患社員専用の就業規則を別枠で制度化し、それにより、がん時代における働き方改革(がん治療に応じた休職期間の延長、期間限定的短時間勤務制度、特別病気休暇制度の付与等)を行うことができる
- 「がん健カード作成支援ソフト」は「疾病性の言葉」である医学用語・症状などを、職場の配慮事項「事例性の言葉」に自動変換するIoT就労支援ツールであり、今後、電子カルテやさまざまな応用が期待されている
- 「がん種別治療モデルカレンダー」の活用で、がんの治療内容や副作用等を時系列で確認できるため、がん患者さんはがん治療をのイメージできる
※ドクターインタビュー2019年7月号では、遠藤先生の特集記事も掲載しています。
是非合わせてご覧ください。
取材にご協力いただいたドクター

遠藤 源樹 (えんどう もとき) 先生
順天堂大学医学部公衆衛生学講座 准教授
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※掲載している情報は、記事公開時点のものです。