【トピックス】行政、医療機関、企業のがん患者さんの就労支援

公開日:2018年09月28日

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がん患者さんの3人に1人が「働く世代」

日本人が生涯でがんに罹患する確率は男性が62%、女性が47%です 。がん患者全体の3割は20歳~64歳の就労可能な年齢で発症しています 。(いずれも国立がん研究センターがん対策情報センター調べ)。がんはとても身近な病気になりました。がん患者さんやがんの経験者が普通に社会で活躍できるように、行政、医療機関、企業が就労支援に取り組んでいます。

行政でがんの従業員を雇用する企業を支援

厚生労働省は都道府県、市区町村に、「企業等に対して、治療と職業生活の両立を支援するためにどう取り組むべきかを示したガイドラインやマニュアル等を作成し、周知・徹底を図ること」と通達しています。

東京都福祉保健局では、がんになった従業員と所属する企業を支援するための研修用教材を作成しています。事業主、人事労務担当者に向けた「がんに罹患した従業員の治療と仕事の両立支援ハンドブック」では、雇用者や担当者向けにがんの基礎知識から両立支援のポイントを解説しています。

がんの従業員が働くためには現場の協力が不可欠であるため、職場の上司や同僚など企業内の多くの関係者に向けた教材も提供しています。また、平成26年から「がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰」を行い、表彰された企業の事例集を公開しています。

「がんに罹患した従業員の治療と仕事の両立支援ハンドブック(PDF:1.42MB)」表紙

病院内にハローワークの相談窓口を開設し、がん患者さんを支援

一方、厚労省は医療機関に対し、「患者が働きながら治療を受けられるように配慮するよう努めることが望ましい」と通達しています。これを受け、各機関では就労に関する相談窓口を設けるなど患者さんの支援に当たっています。

福井市にある福井県済生会病院では、特にがん患者さんへの支援に注力しています。同院では「集学的がん治療センター」にがん診療に関わる機能を集約し、治療だけでなく患者さんの生活面をサポートする体制を整えています。同センターの機能は下記の5つです。

  • 1. 診療科の垣根を越えた「質の高いがん治療」
  • 2. 患者さん同士の交流を促進したり相談窓口を充実させたりするなど「患者さんと家族のサポート」
  • 3. 院内・地域・臓器別にがんの情報を収集し公開する「院内がん情報の集約」
  • 4. かかりつけ医との連携や在宅支援、訪問看護のサポートを行う「がん診療の地域連携」
  • 5. 講演会や研修会などの「臨床研究および教育」

がん患者さんの就労支援は「患者さんと家族のサポート」において重要なポイントです。同院は2013年に県内で初めてハローワーク福井と連携し、がん患者さんの就労支援を開始しました。現在、月に2回院内でハローワーク職員による無料相談会を実施しています。

さらに、患者さんの要望を早く汲み取ろうと、入院時の質問表に就労に関する項目を追加しました。この項目にチェックが入っていると、がん相談専任看護師が病室で患者さんに面談し、必要に応じて就労に関する窓口に誘導するというフローになっています。取り組みを始めた2013年から16年までの3年間で、就労に関する相談件数は236件ありました。このうちハローワークの出張相談会に紹介したのは35件で、最終的に就職につながった事例は18件 でした。

企業、施設が従業員のがん治療と仕事の両立をサポート

東京都福祉保健局の「がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰」で優良賞を受賞した伊藤忠商事株式会社の取り組みはメディアでも大きく取り上げられています。

同社では、がんに関して「予防」、「治療」、「共生」の3つの観点から従業員への手厚い支援を行っています。

「予防」では、国立がん研究センター中央病院と連携し、40歳から定期的に無料でがん検診を受けられる体制を整えました(正社員が対象)。

検診でがんが見つかった場合は、国立がん研究センター中央病院に社員の健康情報を提供し、優先的に「治療」を受けることもできます。高度先進医療費を全額補助することで、治療時の金銭的な負担も軽減させています。

治療を続けながら働き続ける「共生」の観点では、社内各部署にがんの従業員、同社、医療者間の窓口となる「両立支援コーディネーター」を設置して、関係者間の連携を強化しました。また、勤務体制や休暇制度を充実させたことで、治療を受けながら無理なく就労する環境も整備されました。

北國新聞は、富山県高岡市の複合型介護施設が6月から男性のがん患者(43歳)を介護職員として雇用していることを9月10日付の紙面で報じています。男性は大腸がんが肝臓などに転移し、現在抗がん剤治療を受けながら勤務しています。仕事が生きる意欲につながり、できる限り介護の現場に貢献したいという男性のコメントを紹介しています。

がんと長く付き合う時代に「働ける」場の整備を

超高齢社会の日本で2人に1人ががんにかかる一方、5年生存率も年々延びています。1993年~1996年は53.2%だったのが、2006年~2008年は62.1%となっています (国立がん研究センター)。

一方、30歳~49歳の働き盛りの世代でがんを発症する人が2000年から2013年の間で約1.5倍と大幅に増加しました(国立がん研究センターがん対策情報センター調べ)。これらのデータは、がんと付き合いながら働く期間が延びていることを示しています。今後、国、地方自治体、医療機関、企業が一体となってがん患者さんにとって、より働きやすい環境が整うことが期待されます。

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