【医療情勢】治療と仕事の両立支援がスタート

公開日:2017年04月28日

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「治療と仕事との両立支援マニュアル」刊行

日本人の2人に1人が生涯に一度はがんにかかるといわれています。国立がん研究センター(がん対策情報センター)の集計によると、国内のがん患者の3割余りを20~64歳が占めています。

つまり、3人に1人は就労が可能な年齢でがんにかかっています。厚生労働省の「平成22年国民生活基礎調査」から32.5万人が仕事をしながらがんの治療をしていることがわかりました。

また、東京都福祉保健局が2014年に行った「がん患者の就労等に関する実態調査」では8割が「仕事を続けたい」「仕事をしたい」と答えています。その理由で最も多いのは「家庭の生計を維持するため」で、次いで多いのは「働くことが自身の生きがいであるため」「がんの治療代を賄うため」です。

そうしたなか、独立行政法人労働者健康安全機構は4疾病(がん、脳卒中、糖尿病、メンタルヘルス)ごとの「労働者に対する治療と就労の両立支援マニュアル」を発刊しました。同機構は2009年度から両立支援に関する研究を行っており、マニュアルには2014年から始まった「治療就労両立支援モデル事業」で実際に取り組んだ支援事例の成果が盛り込まれています。

「がん」に関するマニュアルは、医師、看護師、医療ソーシャルワーカー(MSW)などの医療従事者だけでなく、患者さん本人や復職者を受け入れる企業の労務管理担当者や産業保健スタッフにも役立つ内容になっています。

医療機関で両立支援を行う場合に必要な基本スキルや知識のほか、がん種別に必要な対応の留意点がまとめられています。また、臨床現場での実用を重視し豊富な事例が取り上げられています。

「職場に内緒で退職も考えていた患者さんに早期支援を行い辞めずに済んだ事例」では、大学教授の秘書として20年務めた50代の女性患者が胃がんで入院し、腹腔鏡下胃全摘手術を受け、退院後の化学療法を終了するまで、がん看護専門看護師やMSWがどのように介入したかが時系列で記載されています。

女性はステージⅡBで、当初は告知によるショックや休職期間が長引くことで退職も考えていました。がんを受け入れられず、病名も夫以外には知らせないまま、職場に病状を内緒にして復職しました。患者の発言や、職場での状況のほか、支援に当たったMSWの対応や段階ごとの支援策などが記されています。

「無理に病状を職場へ伝えることがコーディネーターの務めではありません。患者さん個人の気持ちを尊重して、悩みを共有し、職場の状況にあった治療計画を立てることで、患者さんが退職せずに無理なく復職することに繋がります」とまとめられています。

事例はほかに、「術後の外来受診から両立支援を開始して復職した好事例」「経営者の交代により退職した事例」「患者自ら会社と交渉して復職した事例」「復職後に辞めないで済む支援を行った事例」「職場に内緒で退職を考えていた患者への支援事例」などが掲載されています。

両立支援では患者さんを中心に医療機関と職場との間で情報を提供し、仲介・調整に当たるコーディネーターが重要な役割を担います。コーディネーターの養成については、これまで労災病院スタッフ向けに行われていた研修が、一般の医療機関向けにも行われます。

マニュアルは全114ページで、同機構のウェブサイト(https://www.johas.go.jp/ryoritsumodel/tabid/1047/Default.aspx)からダウンロードできます。

一般病院にも出張相談窓口を設置

がん診療連携拠点病院の福井県済生会病院ではがん患者さんの社会復帰に積極的に取り組んできました。2013年10月からハローワーク福井と連携し、がん患者さんの就労支援を福井県で初めて開始しました。

病院とハローワークが共同してがん患者さんをサポートするのは全国的にも珍しく注目されました。患者さんの健康状態を把握しながら支援できるのは医療機関ならではのメリットで、その後同病院では治療を続けながら就職した患者さんの数が増えています。

今年1月20日、福井産業保健総合支援センターは、がん治療に伴う離職を防ぎ、患者の治療と仕事の両立を支援する目的で、福井県の病院では初めて同病院に社会保険労務士の両立支援促進員を派遣し、出張相談窓口を設置しました。

同センターは独立行政法人労働者健康安全機構が設置した機関で、患者さんが治療を受けながら安心して働くことができる企業の職場環境を整備しています。

この日は午前9時から正午まで窓口で両立支援促進員が患者さんの相談に対応しました。相談窓口を訪れた1人で、乳がんの治療を受けながら職場復帰するのは難しいという40代の女性契約社員は、相談できるところができて安心した様子だったといいます。

同病院では4月から月1回程度窓口を設け、同センターでは県内の他のがん診療連携病院にも広げていく考えです。

福井県済生会病院に設置された、がん治療と仕事の両立を支援する相談窓口

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