【医療情勢 II】がんの治療と老後の生活資金

公開日:2015年09月30日

目次

 最近、「老後破産」という言葉をよく耳にしますが、深刻な社会問題として注目されています。老後破産とは「貧困によって高齢者が生活保護基準より低い収入で生活している状態」を意味する言葉で、高齢者世帯の約4割が該当するといわれています。

がん患者さんは、検査や治療にお金がかかり、老後の生活資金まで考えるゆとりはなかなかないかもしれません。老後破産を招く原因の一つに病気があり、公的制度をじょうずに利用しながら老後に向けての備えをすることも大切です。 医学の進歩によりがんの治癒率が上がっています。

その一方、治療が長引けばそれだけ治療費が嵩んで生活を圧迫します。そのため治療費への不安を抱える患者を支援するための学習会も開かれています。「がん患者さんの老後資金」は重要な課題です。治療と老後の生活資金についてあらためて考えてみましょう。

収入を得ることが最も重要

 一般的に、「老後に必要な資金は3000万円」といわれますが、「50代でその5分の1しか準備できていない」という調査結果があります。多くのファイナンシャルプランナーが、「収入の多寡と貯蓄額は比例しない」と指摘しています。収入が多くても貯蓄高が低い場合があり、そんな家計では支出の見直しが必要です。

昨年5月、東京都は都内に本社を置く企業4,000社を対象に行った「がん患者の就労等に関する実態調査」の報告書を公表しました。それによると、過去3年間で、がんになった従業員がいた法人は37.2%で、そのうち1カ月以上連続して休職・休業した従業員がいた法人は73.8%でした。

さらに、復職状況については60.9%の企業が「復職する場合が多い」と回答しています。「復職後退職することが多い」「復職することなく退職する場合が多い」と回答した法人は18.8%でした。

がん経験者の中には、治療と仕事を両立できず、退職せざるをえない人もいます。しかし、今は外来で抗がん剤治療を受けることができます。吐き気などの副作用を抑える薬も開発されています。できるだけ仕事を続けて、収入の道を確保することが大切になります。お金が貯まる家計にするために必要なことといえば、まず収入を得ることです。

仕事を休んで収入が減った時は、傷病手当金の申請ができます。傷病手当金については、当サイト2015年4月号の【医療情勢】公的助成・支援を上手く利用するために II で詳しく紹介しています。

支出を見直すこと

経済的にゆとりがあり、たとえば定年時に貯蓄が3000万円あっても老後破産になることがあります。金銭的に恵まれてきた人ほど、それまでの生活様式や金銭感覚を変えられず、支出を抑えられないためです。

まずは、家計の固定費(住宅費、保険料、公共料金、通信費、自動車関連費用など)を見直してみましょう。固定費は毎月決まって出ていくものですから、1つでも多く抑えれば節約の効果は大きくなります。

がんの治療費が高額になった時は、高額療養費制度を利用すれば支出を抑えることができます。高額療養費制度については、当サイト2015年3月号の【医療情勢】公的助成・支援を上手く利用するためにⅠ で詳しく紹介しています。
akiramenai_gk201510_ij_img_02

がんの治療費を確認する

がんの治療費は、がんの種類や進行度、治療方法によって違ってくるため、平均的な金額が参考にならない場合もあります。また進行がんの場合、症状に合わせて効果のある治療法が選択されますので、費用の見通しが立ちにくくなります。

さらに、新しい抗がん剤が開発されると、治療の選択肢は増えますが、治療費が増えることも考えられます。治療を受ける前に、治療費を確認することが大切です。不安を感じた時は、一人で悩まず、病院などの相談窓口やソーシャルワーカーに尋ねてみることをお勧めします。

<治療費などに関する相談窓口>

  • ・市区町村の担当窓口
  • ・医療保険の保険事務所
  • ・病院の相談窓口
  • ・がん診療連携拠点病院等の相談支援センター
  • http://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/fTopSoudan?OpenForm

akiramenai_gk201510_ij_img_03

ファイナンシャルプランナーを上手に利用

 がんの治療費への不安を抱える患者さんを支援しようと各地でさまざまな取り組みが行われています。一例を挙げると、7月から都内の病院でグループ学習会(「おさいふRing2015」)が開かれています。家計の専門家であるファイナンシャルプランナーによる講義「治療費用と収入への対策、経済的リスクに備える方法」のほか、参加者がグループに分かれてディスカッションなどが行われます。参加費は無料で、だれでも参加できます。

このほか、ファイナンシャルプランナーが開いている無料相談会もあります。ファイナンシャルプランナーは、収支・負債・家族構成・資産状況などの情報を基に住居・教育・老後など将来の人生設計に即した資金計画に関してアドバイスをする仕事です。今後の生活資金に不安な方は、一度相談してみるとよいでしょう。

再度確認を――介護保険が8月から自己負担増

 本サイト2015年5月号【医療情勢】公的助成・支援を上手く利用するためにⅢ で、がんが原因で介護が必要になった場合、市区町村の窓口に申請して介護保険のサービスを受けられることを紹介しました。

ここにもあるように、介護保険法が改正され、今年8月から160万円以上の所得(収入から控除などを引いた額)がある人は、自己負担が1割から2割に上がりました。65歳以上の5人に1人が該当するとされています。詳しく知りたい方は市区町村の介護保険関連窓口にお問合せください。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。