【最新医療】「がん患者のつらさ」をアンケート調査 医療者と患者の協同で軽減策

公開日:2015年03月31日

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 塩野義製薬が行ったアンケート調査で、がん患者さんは身体的なつらさは我慢せずに医師や看護師に伝えるものの、精神的な「つらさ」については我慢する傾向があることがわかりました。3月19日に都内で開催されたプレスセミナー「がん患者のつらさを軽減するために ―― 医療者、患者や家族、製薬会社ができる対策とは」の概要を報告します。

今回の「患者のつらさ実態調査」は、がんの診断を受けた患者さんがどのようなつらさを経験し、どのように向き合っているのかを明らかにする目的で、2011年以降に1カ月以上抗がん剤治療を受けたがん患者さん293人を対象に行われました。がんの種類では乳がん(20%)が最も多く、次いで大腸がん(17%)、前立腺がん(11%)、胃がん(10%)、肺がん(7%)と続きました。

抗がん剤(化学療法剤、ホルモン剤、分子標的薬)による治療期間中に経験したつらさで最も多かったのは「疲れる・だるい」(75%)で、以下、「不安がある」(66%)、「精神的につらい」(63%)、「経済的につらい」(58%)、「味覚がおかしい」(53%)、「髪の毛が抜ける」(53%)、「吐き気や嘔吐がある」(52%)、「皮膚や爪に異常が出る」(52%)、「便秘がある」(52%)、「よく眠れない」(45%)、「身体に痛みがある」(43%)、「むくみが出る」(41%)、「しびれがある」(41%)となっています。

「治療を受けていた医療機関の医師や看護師に、つらさを感じていたことを伝えたか」の質問に対して、「吐き気や嘔吐がある」「身体に痛みがある」「髪の毛が抜ける」など、身体的なつらさを経験した患者さんの半数以上が「我慢せずにすぐ伝えた」と答えました。しかし、精神的・心理的なつらさを「我慢せずにすぐ伝えた」と答えたのは3割程度にとどまりました。経済的なつらさについては7割以上が「伝えずに我慢した」と答えています。

また、つらさを我慢せずにすぐ伝えた人の7割以上は家族が患者のつらさを理解していることがわかりました。それに比べて、しばらく我慢した後に伝えた人や、伝えずに我慢した人は、家族につらさが十分理解されていないという状況が見えてきました。

患者さんの自由回答には

「がんのつらさはがん経験者にしかわからない。がん患者であることがわかって腫れ物に触るようにされるのがつらい」
「気分が悪い、だるい、髪の毛が抜けるのもつらいですが、それ以上に世の中から取り残されているような気分になるのがつらく感じます」
「つらいということを医師に言える関係ができないと、つらさは何倍にもなる」

など、他人にわかってもらえないつらさを訴える声や、

「抗がん剤治療を受けた後の1週間が精神的にもいちばんつらいので、少しでも家族が理解し、話を聞いてくれるだけで慰めになった」
「家族、医師、看護師につらさを聞いてもらうだけでも気分が楽になりました」

といった声もあり、つらさを軽減するためには家族の理解、主治医や医療スタッフとのコミュニケーションが必要であることが示唆されました。

セミナーでは、がん研究会有明病院・病院長の門田守人氏と愛媛がんサポートオレンジの会・理事長で、厚生労働省がん登録検討会などの委員も務める松本陽子氏が、調査結果を踏まえて医師と患者の立場から、がん患者さんのつらさを軽減するための糸口を探りました。

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 第2期がん対策推進基本計画(平成24年6月から5年間実施)ではすべてのがん患者さんとその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上に向け、重点的に取り組む課題として「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が挙げられています。

門田氏は、がん患者さんが抱えるつらさには、がんや治療に伴う痛みや苦痛などの身体的なつらさだけでなく、不安やいらだち、うつ状態といった精神的・心理的なつらさ、経済的な問題や仕事や家庭の悩みといった社会的なつらさ、死への恐怖や自責の念などスピリチュアルなつらさがあり、すべてが緩和ケアの対象になることを説明し、「今回の調査結果からも患者さんや家族はつらさを十分に伝えられない状況が明確になりました。

一方、医師は患者さんのつらさを聞き出せないのが現状で、今後医療者は患者さんのつらさを感じ取る能力を身に付けることも必要です」と、医療現場の課題を指摘しました。

これを受け、松本氏は患者がつらさを伝えられない理由を3つ示しました。
1.医師や看護師に対して申し訳ないと思う
2.伝えたところで治らないとあきらめている
3.つらさを言語化できない。

「だれかに物事を伝える訓練をしてきていない人が、ある日突然がん患者になって自分の状況を的確に言語化することはむずかしいです。一方で、医師なら自分がどれくらいのつらさを抱えているのかわかってくれているはずという思い込みや甘えもあります。つらい症状が起こりうることを理解し、正しい知識を身に付け、伝える努力をすることが大切です」と医療者側との協力関係の重要性を強調しました。

患者さんにとってはつらさを軽減する具体的な方法を知ることで安心感も出てきます。門田氏はつらさの軽減策を次のようにまとめました。

精神的苦痛
・専門職(サイコオンコロジスト、臨床心理士)などの介入
・病院の患者相談室などの利用
・同病者とのコミュニケーション(患者会などへの参加)

身体的苦痛 ・がんの痛みを取り除く治療薬
・副作用の対処

社会的苦痛 ・病院の支援相談窓口の活用(がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターなど)
・行政機関による支援制度の活用(就労支援、高額療養費制度など)
・民間保険の活用

スピリチュアルな苦痛 ・信頼できる人(家族、友人、医師、看護師、薬剤師、同病者など)に相談
・宗教家などの介入

【参照URL】
http://www.shionogi.co.jp/static/tsurasa1503.pdf

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。