【QOL(生活の質)】乳がん患者さんのボディイメージの変化に対するケア

公開日:2014年10月01日

目次

乳房切除という治療選択

 乳がん患者さんの多くが、外科的手術による乳房の全切除または部分切除を経験します。乳房喪失というボディイメージの変化に、強い衝撃を受け、治療そのものに対して否定的な気持ちになることもあるでしょう。女性にとって乳房は、セクシャリティ的に重要な意味を持つ身体部位でもあります。女性としてのアイデンティティを喪失し、自分の価値が低下したように感じる方もいらっしゃいます。

乳房の切除という事実に直面したばかりの初めの数ヶ月は、精神的にショックを受け、強い不安や無力感を感じる方が多いことでしょう。術後の傷跡をすぐに見ることができない方、自分の姿に強い違和感を感じ、笑顔になれず落ち込んでしまう方も多くいるようです。

 

ボディイメージの変化

 一般的に、ボディイメージとは、身体に対して自分が持つ意識的あるいは無意識的な認識で、自己概念の一部に位置づけられています。ボディイメージは、自分自身の持つイメージや感情の他に、他者の反応にも影響され形成されます。治療に伴うボディイメージの変化の中で、特に重要なのが、自身のパートナーの意思や意見と言われています。医師や看護師のサポートだけでなく、パートナーの理解や支えは、肯定的なボディイメージを持つ上でとても重要です。

肯定的なボディイメージを持つことは、自分自身を保って状況に立ち向かう基本的な力になります。不安定で否定的なボディイメージでは乳がん治療に伴う困難を乗りこえられません。身体の外観や構造・機能が変化しても、内面は今までの自分とは少しも変わりがありません。乳房切除後の正しいケアに対する情報を持ち、自分の身体に対して価値観の転換をはかり、新しいボディイメージを受け入れていきましょう。

 

術後の乳房の補整

 バストラインの補整は、見た目だけでなく、身体の重心バランスを保つ上でも重要です。乳房切除により片方の乳房がなった場合、パット入りの下着を使用するなど、補整が必要となります。適切な補整をしないと、肩こり、腰痛、頭痛などの原因になると言われています。手術の前後で、必要な下着の種類やメーカーの情報を知っておくと安心です。

手術直後は、脱ぎ着のしやすい前開きのものやワイヤーの入っていないスポーツタイプのもの、術後経過が落ちついてから、パットを入れるポケットが着いているものがよいでしょう。乳房の部分切除で左右差がでてしまった方のために、左右差を整えるものも販売されています。下着のメーカーによっては、病院訪問や患者会での説明会、相談会などで、実際につけ心地を体験してから購入することもできます。

 

乳房再建など外見の変化に対するサポート

 最近では、アメリカ女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが行ったことで話題になった乳房再建手術も治療選択の一つです。乳房再建とは、乳房のふくらみを新しく作る手術で、自分の背中やお腹の皮膚や脂肪などの組織(自家組織)を使って作る自家組織移植によるものと、シリコンなどの人工乳房を使用してつくる方法と2つにわけられます。

自家組織移植の手術は、以前から保険適用されていましたが、より自然な乳房の形が作れて身体への負担も少ない人工乳房は美容整形の要素もあるため保険適用にならず、片方の乳房だけでも50〜100万円と高額な手術でした。しかし、2013年7月からは、人工乳房にも保険が適用されるようになりました。今後は選択肢の1つとして普及が進むだろうと言われています。

最近の乳がん治療では、患者さんの意見をより尊重するために、医療者で作る治療チームの中に形成外科医を入れて、乳房温存や再建を最初から視野に入れて患者さんのケアにあたるところがでてきています。形成外科医の視点を取り入れることで、外見にも考慮した最適な切除の方法を探りながら手術を行っています。がんを取り除くことだけが治療の目的ではなく、乳房を再建して手術前に近い状態を保てるところまでが治療と捉えられるようになってきています。

乳房再建は、局所再発がなく全身状態さえよければ、基本的には誰でも受けられます。自家組織移植と人工乳房のメリット・デメリットがありますので、検討する場合は、十分な技術と経験のある病院で、医師や看護師にしっかりと相談して自分にあったやり方を選択してください。

医師や看護師にしっかりと相談

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