【トピックス】爪・髪・眉毛 、がん患者さんの外見をトータルでサポート

公開日:2018年10月31日

抗がん剤の副作用による見た目の悩みをケア。
個室で安心できる“がん患者さんのための”医療美容室

自由が丘駅(東京都目黒区)から徒歩約5分の瀟洒な住宅街の一角。
マンションの一室の玄関チャイムを押すと、明るい声と笑顔で迎えてくれるのは、がん患者さんのための美容サロン「アトリエ フランジパーニ」の経営者で、美容師歴30年以上の高溝周子さん(51歳)。

美容室というより、知り合いの家に招かれたような感じで中に入ると、個室が2部屋。ここで、がん患者さんの医療用ウィッグの制作、抗がん剤の副作用で脱毛した頭髪・眉毛・まつ毛や傷んだ爪のケア、メーキャップのアドバイスなどが行われています。

美容師としての技術を生かし、がん患者さんの外見を総合サポート

高溝さんは39歳の時に卵巣がんと乳がんの手術をしました。しばらく療養に専念し、3年ほどたって美容の仕事に復帰しました。一般向けにネイル美容を始めましたが、その後、知り合いのがん経験者から美容に関する相談を受ける機会が増え、医療用ウィッグを取り扱うようになりました。高溝さんのブログを見て、北海道からウィッグを作りに訪れたり、九州から爪の相談に来たりするがん経験者もいました。

「がんの治療を続けながら、病気になる前と同じように日常生活を送りたいと願っている人はとても多いです。私自身ががんの経験者だからよくわかります。美容師として自分が持っている技術が役に立つのでは」――高溝さんはアピアランス(外見)に関する悩みを総合的にサポートする必要があると考え、乳がんに関する知識を深めるためにキャンサーネットジャパンのBEC乳がん体験者コーディネーターの資格を取得しました。

そして、美容師の仲間に呼びかけ、2017年3月に「ikus.(イクス)医療美容ケア研究会」を設立しました。Ikusは、「いつもの(i)」「暮らしを(ku)」「素敵にサポート(s)」という意味。美容師、ネイリスト、メーキャップアーティストと協力しながらがん経験者のアピアランスを総合的にサポートする体制が整いました。

着けていてもそれとわからないウィッグで、生活の質(QOL)を維持

高溝さんのサロンに来店する客は40代女性が中心で、約7割は乳がん経験者です。来客は毎日絶えず、1日に4、5人の予約を受けることもあります。施術内容はウィッグの制作と自毛のケアが約8割を占めるといいます。

抗がん剤の副作用で女性にとって最大のストレスは脱毛です。そのために抗がん剤の治療を拒む人がいるそうです。市販のウィッグを利用しても違和感があり、気づかれるのではないかと周囲の視線が気になると、外出するのも怖くなります。

「ウィッグの使用は、着けていてもそれとわからないことが重要です」。高溝さんが扱うウィッグは特殊な素材でできていて、プロの美容師でさえ、自毛と間違えることがあるといいます。

脱毛しても生活の質を維持できるウィッグがあることを一人でも多くの患者さんに知ってもらいたいという気持ちもikus.立ち上げの動機の1つ。「外見のことを気にせず治療に専念してもらいたいと心から思います」と高溝さん。

抗がん剤の副作用は頭髪や眉毛、まつ毛だけでなく、爪にも現れます。高溝さんによると、爪は一度傷むと伸びきるまでその症状が続き、抗がん剤の治療中に爪のケアをすることでダメージを軽減できるといいます。ブログでがん患者さんの爪に関する情報を発信したところ、全国のネイリストから問い合わせが集中しました。そこで、高溝さんはネイリストを対象に抗がん剤の副作用やがん患者さんのネイルケアをテーマに講習会を開くようになりました。

さらに、抗がん剤治療の最前線で患者さんに関わる看護師に対する啓発も重視しており、4年前からがん化学療法認定看護師認定のカリキュラムの講師を務め、患者のセルフケア支援などについて講義しています。

ネイルケアでコーティング後の爪

抗がん剤の副作用に不安を感じている人にも。
身近な美容室で、医療美容のサポートができるように

ikus.では、医療美容の技術を広く普及させるために認定制度を設けています。これまでに認定を受けたのは20人で、ikus.の会員としてそれぞれのサロンでがん患者さんの医療美容に携わっています。

会員の技術の向上・維持を図って、年に4回ほど定例会が開かれています。それぞれの専門家が講師となって技術指導や情報提供を行っています。リンパ浮腫のケアに詳しい看護師や、メンタル面でのサポートに慣れた臨床心理士の協力によって医療面の知識も身につけることができます。

また、サロンで提供しているケアを多くの人に知ってもらおうと、年に2回(春、秋)、女性のがん経験者を対象に「おしゃれマルシェ」が開催されています。「これから始まる抗がん剤治療が不安でしたが、ウィッグやメーキャップなど対処法があることがわかって安心しました」「同じ境遇の仲間から勇気をもらって頑張る気持ちになりました」など、参加者から声が寄せられています。

医療美容の分野は美容師の間でもあまり知られていません。「今後、会員の数を増やし、活動の輪を各地で広げ、必要とする人が身近にある美容室で十分なサポートを受けられるようになるといいですね」と、高溝さんは話しています。

美容師向けの医療美容ケアの説明会(参加無料)と講習会が次の日程で開催されます(http://www.ikus.life/join-us)。

【説明会】
12月3日(月)、4日(火)、2019年1月21日(月)、22日(火)の13時~
【講習会】(全2回、12時間)
2019年2月26日(火)、3月26日(火)の10時~17時