【QOL(生活の質)】がんになっても「飲酒」を楽しみたい。がん患者さんと飲酒

公開日:2016年01月29日

 昔から「酒は百薬の長」と言われ、適度な飲酒は健康に良いとされていますが、がん患者さんにとってはどうなのでしょう。

「がんになったらお酒は飲まない方がいいの?」 「抗がん剤治療中は?」 「再発・転移とお酒は関係があるの?」「タバコと飲酒は?」など、当ページでは、がんになっても上手にお酒を楽しむために知っておきたいことをご紹介します。

目次

自己判断をしないで必ず主治医に相談を

 がんになったら絶対に禁酒しなければいけないのでしょうか? がん患者さんでも晩酌などお酒を飲むことをささやかな楽しみにしている方は少なくないでしょう。がんの療養中あるいは治療後に生活の楽しみを失ってしまうと、闘病への意欲が低下したり、ストレスとなったりすることがあるかもしれません。まずは主治医に相談してみましょう。

がんの部位や治療、副作用の具合など、患者さんの心身の状態は一人ひとり異なります。ですから、同じ主治医のもとで治療を受けていても、飲酒の是非を問うと、異なる回答になることもあります。飲酒の是非は、患者さん自身の心や体の状態に合わせた判断が必要なのです。

幸いにもお酒を楽しめる場合には、どんなお酒をどのくらいの量なら楽しめるのかなど、主治医に注意点を聞いておくといいでしょう。たとえ制限や条件などがあったとしても、治療効果を妨げないお酒との付き合い方を知っていれば安心ですし、過度に飲みすぎて支障が出ては意味がありません。がんの治療中や療養中の患者さんがお酒と上手につきあっていくためには、自己判断せずに主治医に相談することが大切だということを知っておいてください。

がん再発予防と飲酒の関係を知っておこう

 がん患者さんがお酒を飲む場合に、もう一つ知っておいてほしいのは、がんとアルコールの関係です。アルコールは体内でアルコール脱水素酵素によって、アセトアルデヒドに分解されます。さらに、アセトアルデヒドは、肝臓内でアルデヒド脱水素酵素により酢酸に分解され、最終的に水と二酸化炭素になって体外に排出されます。

ところが、このようなアルコールやアセトアルデヒドを分解する酵素の力は、人によってその強さが異なります。酵素の力が弱く、あるいは能力以上にアルコールを過剰に摂取して、アルコールやアセトアルデヒドのまま長く体内に残ってしまうと、どうなるのでしょうか?

実は、アルコールそのものや分解されたアセトアルデヒドには発がん性があるのです。そのため、これらが長く体内に残ってしまうと、羅患リスクが上昇すると言われています。このようなことから、新たながん予防や再発予防のためには、お酒とのつきあい方に注意が必要なのです。

抗がん剤治療ではお酒を避ける

 がん患者さんには、お酒を飲むべきではない時期があります。抗がん剤治療中あるいはその前後です。抗がん剤は一人ひとりの患者さんの状態にあわせて計算された量が処方されています。しかし、こうしたオーダーメードの抗がん剤治療中や治療後にお酒を飲むと、薬の効果を過剰に強めたり、弱めたりすることがあります。そのため、過剰な副作用が発生する怖れや、期待する治療効果を得ることが難しくなる可能性があります。

治療後や休薬中でも、薬の成分が体に残っている場合があるため、お酒を楽しみたい場合には、必ず主治医に相談して飲酒の可否や開始時期、適量を確認しましょう。

タバコをやめられない人の飲酒はハイリスク

 喫煙や飲酒の習慣はさまざまながんの原因になりますが、一度がんになった後に別のがんを発症させる危険度も高めると指摘されています。大阪府立成人病センターの研究によると、10年以内に別のがんを発症するリスクは、肺や食道、口腔、膵臓などのがんを発症した人については、喫煙も飲酒もしない場合に比べて、タバコを1日20本以上吸うと1.8倍、お酒を1日2合以上飲むと2.4倍高くなり、喫煙・飲酒の両方がそろうと5倍に跳ね上がるという結果が出ています。

タバコの本数を減らそうと努めていても、お酒に酔うと決意がくじけてしまいがちです。 また、飲食店などでお酒を飲む機会が増えると、自分がタバコを吸っていなくても同じ場に喫煙者がいると受動喫煙(自分の意志にかかわらず、タバコの煙を吸わされてしまうこと)となるので注意が必要です。

百薬の長として楽しむために

 国立がん研究センターがん予防・検診研究センターの「日本人のためのがん予防法」によると、ある程度の量の飲酒は大腸がんをはじめとしたがんのリスクを上げる一方で、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げる効果があることから、お酒を楽しむ場合には「節度のある飲酒が大切」だとしています。そして2015年版パンフレットによるとその目安は、「1日あたりのアルコール量約23g」で、「週150g程度の量にとどめる」とされています。

ここでいうアルコール量とは、飲酒量そのものではなく、お酒に含まれているアルコール量を指しています。アルコール量約23gは、日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度に相当します。

しかし、これは健康な人ががんにならないようにという目安。がんは生活習慣と決して無縁ではありません。がん患者さんがお酒を楽しむ場合には、発病以前の健康だった時と同じような飲酒習慣(量や回数)は避けたいものです。そうした意味からも、主治医との話し合いが不可欠と言えます。

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飲めない人、あるいは飲まないと決めた人は、そのまま飲まないのが何よりです。しかし、晩酌を楽しみにしていて、主治医からも認められているならば、治療効果を妨げない範囲で「節度ある飲酒」を心がけましょう。

アルコール量とはお酒に含有されているアルコール量の事です。次のような計算式で飲酒量からアルコール量を求めることができます。

飲酒量 (ml) ×[アルコール度数(%)÷100] × アルコールの比重 0.8=アルコール量 (g)

例えばビールの場合、アルコール度数5度のレギュラー缶(350ml)なら14g、ロング缶(500ml)なら20gのアルコールを摂取することになります。自分のアルコール摂取量を把握して「節度ある飲酒」に役立てましょう。

ポイントまとめ

  • 飲酒は、患者さん自身の心や体の状態に合わせた判断が必要。自己判断せずに主治医に相談することが大切。
  • アルコールそのものや分解されたアセトアルデヒドには発がん性があり、がん発症のリスクが上昇する。新たながん予防や再発予防のためには、お酒とのつきあい方に注意が必要。
  • 抗がん剤治療中とその前後にお酒を飲むと、過剰な副作用が発生する怖れや、期待する治療効果を得ることが難しくなる可能性がある。お酒を楽しみたい場合は、必ず主治医に相談して飲酒の可否や開始時期、適量を確認する。
  • 肺や食道、口腔、膵臓などのがんを発症した人が喫煙・飲酒をした場合、10年以内に別のがんを発症するリスクが、タバコを1日20本以上吸うと1.8倍、お酒を1日2合以上飲むと2.4倍高くなり、喫煙・飲酒の両方がそろうと5倍に跳ね上がる。
  • 1日あたりのアルコール量の目安は約23gで、日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度に相当する。

コラム:がんと飲酒

がん治療が終わったら、再発・転移予防のためにも食生活の改善などを主治医からすすめられる患者さんも少なくありません。その中の一つに飲酒があります。飲酒ががんのリスクを上げることは周知の事実ですが、適度な量を守ることで飲酒を楽しむこともできます。ただし、がん再発・転移予防のため抗がん剤治療、放射線治療を継続している人の場合は、治療期間中は飲酒を控える必要があります。治療が完全に終了し、主治医の許可が出た後にアルコール酒量を相談しながら再開すると安心です。また、がん患者さんの場合、飲酒に喫煙が加わると、がん種によってはがん発症のリスクが跳ね上がる可能性があります。受動喫煙でも同様なので注意が必要です。

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