【医療情勢】ハローワークから病院に出張し、がん患者さんの就労を支援

公開日:2015年12月30日

目次

「がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会」報告

 国のがん患者就労支援が進んでいます。2012年に策定された「がん対策推進基本計画(第二期)」では、「がん患者の就労支援」が重点課題となっています。昨年発表された「がん対策加速化プラン(9月号医療情勢 をご参照ください)でも、「がんと就労の調和の推進」が課題としてあげられています。

2014年8月、厚生労働省は「がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会」の報告書を公表しました。報告書では、がん患者・経験者とその家族、がん診療連携拠点病院、企業、ハローワークなどの関係者と機関が連携し、次の取り組みが求められるとされています。

  • ・がん患者・経験者は、自分の病状を理解し、自分ができることや配慮してほしいことを明確に伝える。
  • ・医療機関は、主治医が告知する時などに、がん患者に対して「今すぐに仕事を辞める必要はない」と伝える。さらに、就労に関する知識を有する専門家(社会保険労務士など)と連携した相談対応を取る。
  • ・企業では、産業医らと連携し、病状や配慮する事柄を共有する。さらに、地域の窓口(地域産業保健センター)と連携し、相談支援の体制を整備する。
  • ・ハローワークでは、就職支援制度を周知し、活用を促進する。さらに、がん患者の就労に関する普及活動を行う。

akiramenai201601_ij_img_01

がん患者への就労支援モデル事業

 厚生労働省は、がん診療連携拠点病院とハローワークが連携して就労支援を行う「がん患者等に対する就職支援モデル事業」を2013年度に開始しました。モデル事業のねらいについて厚生労働省は「支援事例を通じて、困難な事例や課題等を把握するとともに、支援ノウハウや知見の蓄積を図り、その普及に係る取り組みを実施する」としています。

モデル事業では、まず東京など大都市圏の5カ所のハローワークに、求職者の希望や治療状況などを踏まえた職業相談や職業紹介のほか、がん診療連携拠点病院で出張相談などを行う専門相談員が配置されました(2013年度)。

翌2014年度には全国12都府県の12カ所のハローワークでモデル事業が実施され、479人の患者が新規就職を希望し、209人が就職したことが報告されています。さらに2015年度は全国15都道府県のハローワーク16カ所に就職支援ナビゲーター(早期再就職専任支援員)が配置されました。

現在、全国のがん診療連携拠点病院20施設で就職支援ナビゲーターが、1.連携先医療機関の相談支援センターでの出張相談、2.個々のがん患者の希望や治療状況などを踏まえた職業相談・職業紹介、3.希望する労働条件に応じた求人の開拓、求人条件の緩和指導、4.就職後の職場定着の支援などを行っています。

毎月開かれる相談会では、就職支援ナビゲーターはがん患者の就労に関するさまざまな相談に応じています。モデル事業に参加したある病院では、仕事に関する相談は年に数件だったのが、相談会を開くようになって年20件に増えたといいます。主な相談内容は「治療と仕事を両立させたい」「今の体力でできる仕事に就きたい」「面接を受けるが、会社に病気のことを伝えるかどうか迷っている」「雇用保険や傷病手当について知りたい」などがあります。

2016年度、全国でハローワークから就職支援ナビゲーターが病院出張

 2016年度から、全国48カ所のハローワークの就職支援ナビゲーターが、がん診療連携拠点病院へ出張し、患者の就労支援にあたります。厚生労働省は、予算2億5000万円を計上し、「3年間のモデル事業で蓄積した就職支援ノウハウや知見を幅広く共有。がん患者等の就職支援について、事業の実施箇所を拡充する」としています。

これまで、就労問題については、病院内の相談支援センター職員が相談に応じてきました。しかし、その対応には限界があり、出張した就職支援ナビゲーターが相談員と患者の治療に関する情報を共有し、就職支援を行います。退院後は、ハローワークの窓口での相談に移行することもできます。

新規の仕事を探す人だけでなく、現在の仕事を継続したい人も、就職支援ナビゲーターに相談することで、治療と両立させるためのヒントを得ることが可能です。仕事の悩みについても相談してみましょう。

問い合せは最寄りのがん診療連携拠点病院 か、今かかっている病院の相談窓口で聞くこともできます。

一口メモ「就職支援ナビゲーター」

 厚生労働省は、労働力需給のミスマッチなどの解消を図る目的で2002年度から「再就職支援プログラム事業」を実施しており、その一環で全国のハローワークに就職支援ナビゲーターを配置しています。同事業は、その後「就職実現プランナー事業」(2010年度)、「就職支援アドバイザー事業」(2011年度)と統合され、それに伴って就職支援ナビゲーターの数も増えています。

就職支援ナビゲーターは、早期再就職の必要度が高い求職者人1人ひとりに、求人検索から就職まで一貫した支援を行う専任の支援員で、主に人事労務業務の経験者やキャリアコンサルタント、産業カウンセラーなどの資格を持った人が、ハローワークの非常勤職員として従事しています。求職者ごとに担当者がついて、履歴書や職務経歴書の個別添削、面接シミュレーションの実施、ジョブ・カード の交付などを行っています。

akiramenai201601_ij_img02

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。