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【医療情勢】広がりつつある、がん患者さんと子どもへの支援
目次
日本では年間85万人ががんに罹っているといわれています。国立がん研究センターの推計では、18歳未満の子どもがいるがん患者は約56,000人で、その子どもは約87,000人(平均年齢11.2歳)となっています。
がんに罹った場合、子どもにそのことを伝えていいのか、どうやって伝えたらいいのか、この先どのように子どもを支えていけばいいのか、さまざまな課題で出てきます。親ががんになった子どもを支援する対策が求められるなか、がん患者さんと子どもへの支援について考えるイベントが先ごろ東京都内で行われました。
子どもをもつがん患者・家族のために――子育て中に私や配偶者ががんになってしまったら
2月11日に開催された、NPO法人「Hope Tree」(代表:東京共済病院医療ソーシャルワーカー・大沢かおりさん)主催のフォーラム「子どもをもつがん患者・家族のために――子育て中に私や配偶者ががんになってしまったら」では、がん患者さんと、がん患者を持つ家族の体験談を通して、家族が困難を乗り越えていくためのヒントを探りました。
二度にわたる乳がんの手術を経験した40歳代の主婦Aさんは、がん患者として、母親としての葛藤、気持ちの立て直し方、生活の工夫について講演しました。Aさんが右の乳がんを発症したのは35歳のときでした。
当時は患者支援の十分な体制もなく、治療が終了したとき、「これからは1人で頑張って」と、オールを持たされ小舟で航海に出たような気持ちだったといいます。1週間先の自分の姿さえ想像できず、時間が経過していきました。「これは先が長いぞということに気がついて、それなら長い行程を少しずつ刻みながら生きていこう」とAさんは肚を決めたそうです。
もともと体を動かすことが好きだったAさんは、ある日バレエを始めることにしました。バレエが少しずつ生活に張りを与えてくれるようになり、レッスンしている間はがんのことを忘れさせてくれたといいます。Aさんは夫と長女の3人家族です。Aさんががんを発症したのは長女が2歳半のとき。
しかし、長女が小学生になっても、Aさんはがんのことを伝えることができませんでした。子どもに心配をかけたくないと、病気のことをごまかしてきたのです。そんな状態に長女も何かを察知して、不安を感じた様子だったとのこと。
Aさんは悩んだ末、夫が代わりに伝えてくれました。「がんのことを子どもに話し、家族でがんを共有するようになったことで、大きな山を越えた気がしました。その日から景色が輝いて見えました」とAさんは振り返っています。
右乳がん発症から9年後、左の乳がんを発症しました。さらに、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の診断を受け、予防的に卵巣と卵管を切除しました。長女の身にもいずれ降りかかってくる可能性のある遺伝子検査の結果を全部知らせました。困難にあえぎながら病気を克服していくありのままの母親の姿を見てきた長女は「私、大丈夫だよ」と明るく、力強く答えてくれたそうです。
4年前にがんで夫を亡くしたBさんは当時小学1年生の長男と4歳の次男を持つ母親として、妻として経験したことについて講演しました。Bさんの夫は7年前、頭頂部にできた皮膚病の手術を受けました。病理検査の結果、頭部皮膚がんリンパ節転移と診断されました。
夫が30歳代半ばでがんを発症し、厳しい試練がBさんを待っていました。少しでも良い治療を夫に受けさせるために、主治医に相談し、セカンドオピニオンも求めたそうです。結局、主治医のもとで治療を継続することになりましたが、Bさんは複数の医師の意見を聞くことができてよかったといいます。
Bさんは年端もいかない子どもに父親の病気を伝えるつもりはありませんでした。しかし、家族に起こったことを何も知らされずにいた子ども達の不安が少しずつ大きくなっていきました。その頃BさんはHope Treeの活動を知り、助言を得て、子ども達に事実を伝えることを決意。父と母の話を2人の子どもは静かに聞いていたといいます。
Bさんの夫のがんはやがて骨転移を起こし、治療は疼痛管理へと移っていきました。Hope Treeの存在はBさんの大きな支えとなりました。「毎日病院に通い、病室ではしゃいでいた子ども達も、父の歩く速度を気にしながら病院内を一緒に歩くようになりました。そんな3人の後ろ姿を思い出します」とBさんはかみしめるように語っていました。
「自分は生まれてきた価値がない…なぜ俺だけが…」――がんを告知され、つらい治療も子ども達のために耐えてきた夫が弱音を吐いたのはあとにも先にもこの時だけだったといいます。息を引き取る9日前、Bさんは夫から「伸び伸びとした子どもに育てて、明るく暮らして」と託されました。
Bさんは夫が亡くなって1年間、自分と向き合いました。夫の遺志を継いで子ども達を育て上げるために立ち上がりました。同じ経験をした家族との交流を通じて、子ども達もたくましく成長しているといいます。「自分のことは自分が答えを持っているということがわかりました」とBさんは笑顔で締めくくりました。
Hope Treeは、がんになった親、およびその子どもにとって有益な情報を伝え、子どもの生きていく力を支える活動を通して、困難に直面した親子を支える輪が広がっていくことを目的に活動しています。その目的達成のために、ホームページの作成、更新による情報提供、がん患者の子どものサポートの輪を広げていくためのフォーラム開催、がん患者の子どもの精神的な健康を向上させるためのプログラムの開発・研究、がん患者の子どもに関する悩みの現状調査、がん患者とその子どもへのサポートに関する啓発活動を行っています。(Hope Tree ホームページ から)
親ががんになったとき――がん患者さんと子どもへの支援
国立がん研究センター主催のがんサバイバーシップ・オープンセミナー第4回「親ががんになったとき――がん患者さんと子どもへの支援」が2月17日に開かれました。 セミナーでは、2人の臨床心理士が国立がん研究センター中央病院での実践を通して、がん患者の親子のコミュニケーションを支えるポイントを中心に講演しました。
放送大学大学院准教授の小林真理子さんによると、親の病気(がん)に対する子どもの反応はさまざまで、発達の退行(いわゆる赤ちゃん返り)が生じたり、学業に影響が出たり、罪悪感や責任感が強くなりすぎたりしますが、家族の非常事態にあっては自然の反応と指摘しています。
がんのことを子どもに伝えるかどうかについても、「子どもがかわいそうでがんのことを話せない」「知らないほうが苦しんだり悩んだりせずにすむ」「子どもには伝えられないが、子どもが後で知って、親子の関係が悪くなる」「子どもと一緒に頑張れるはずだから、知らせるのは当然」「気持ちの整理がついてから話さないと子どもが混乱する」など、親の考え方もさまざまです。
子どもは家庭内の微妙な変化や緊張を感じたり、親の外見の変化や状態の悪化に気づいたりしているといいます。何が起こっているのかわからないと、子どもは親の病気が自分のせいではないか、親を失ってしまうのではないかと考えるようになります。病気を隠し続けることは、親にとっても大きな負担となり、治療や子育てに注ぐべきエネルギーが削がれる可能性もあります。
親のがんを子どもに伝える理由について、小林さんは、「家族間のオープンなコミュニケーションによって親子の信頼関係が強くなります。何より、子どもは真実を伝えられることによって自分は親(大人)から認められているという意識が持てます」と説明しています。そのうえで、「子どもには、①がんという病気であること、②がんは伝染しないこと、③誰のせいでもないことを伝えることが重要です」と強調しています。
また、子どもの年齢に応じた伝え方が必要になります。母子の結びつきが強い6歳ごろまでは、人形や絵本などを使ったり、絵を描いたりしながら話す方法が勧められます。学校での活動が増え、対人関係が広がる学童期(6歳~12歳ごろ)の子どもには、正しい言葉を使ってきちんと説明する必要があります。子どもが学校に通い、日常生活を維持できるように配慮することが大切です。12歳ごろから思春期に入ると、子どもなりに心配や不安を感じながらも、親とは話をしたがらないので、友人や学校(担任教師)などのサポートが必要になります。
親ががんの治療に専念するためにも、子どもをさまざまな面で支えることが大切です。「特に、子どもが一日の長い時間を過ごす学校には、親ががんであることを知らせたうえで、定期的に連絡を取ることが重要になってきます。
授業に集中できなくなったり、宿題を出さなかったりする可能性があるからです」と、小林さんは話しています。放送大学大学院ではがんの親がいる家庭の状況を理解してもらうために学校向けの冊子「親ががんになったとき――子どものために学校にできること」を作成し配布しています。
海外の研究で、未成年者の子どもを持つがん患者の70%以上が心理・社会的支援や情報を求めていることが報告されています。国立がん研究センター中央病院緩和医療科の認定プレイセラピスト、小嶋リベカさんは、がん患者さんの家族への思いと、配偶者の思い、子どもの思いはすれ違うことがあると指摘しています。
2013年4月から15年12月までに同科の緩和ケアチームが行った子どもへのサポート介入は153件で、年々増加傾向が見られます。患者さんのがん種は多い順に消化管(21%)、肺胸膜、乳腺(16%)、血液(14%)、肉腫、女性器(8%)、肝胆膵(6%)と続きます。相談してきたがん患者さんの子ども(279人)の年齢は平均9.7歳で12歳までが7割以上を占めます。相談内容は子どもに関する気がかり(子どもの反応や様子、伝え方など)が圧倒的に多いといいます。
親の病気のことを子どもに伝える時期は、多くのがん患者さんにとって大きな課題となっています。小嶋さんは、「子どもにがんであることを伝えるタイミングは、遅すぎることも早すぎることもなく、それを意識した時に伝えてください。
見た目に病気の変化がわかるときなどは、言葉にできる範囲で本当のことを伝え、〈いまは言えない〉場合でも、ごまかさないことが大切です」として、がん患者さんが子どものことで悩みや困りごとがある場合は、病院の相談支援センターなどの相談窓口のほか、医療ソーシャルワーカー、心理士、看護師などに相談することを勧めています。
カテゴリー家族と社会のがん闘病サポート, 家族ができること
タグ2016年3月
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