がん治療 ~新薬の開発にかかるコスト~

公開日:2011年12月1日

新しい薬の開発 ~臨床試験の現状~

分子標的薬などのがん治療で使われるお薬では、様々な開発が進められています。まったく新しい薬の開発も進められていますが、すでにある領域で適応になっている薬を他の領域に応用するという試験も行われています。国立がん研究センターのがん情報サービスでは現在行われている臨床試験の情報が公開されています。第Ⅲ相試験だけでも385件、第Ⅱ相で1284件、第Ⅰ相で301件が登録されています。(2011年11月時点)
試験中のものは本当に効果があるかを試しているもので、副作用も含めて実際に使用に耐えうるものか、まだわかりません。臨床試験は、現在行われている治療法よりも、もっと良い治療法を目指して実施されていますが、臨床試験前までは期待されていた治療法でも実際にはそれほど効き目が高くなかったいうケースや、現状の治療法と効果に差が出ないケース、効き目はあったのだが副作用が強いケースなどの様々な結果が出てきます。これらの結果をよく分析して実際の治療にするためにはどのような方法があるのかを検討していかなければなりません。臨床試験に参加することが患者さんにとっては治療効果が出て有利になる場合もありますが、効果がでない場合や、副作用が強かった場合などは不利になる場合もでてきます。臨床試験に参加する患者さんは、新しい治療法を受けられる可能性がある一方で、不利益を被る可能性があることも十分に理解しなければなりません。臨床試験への参加が医師から提示される場合には、説明文書と同意書が患者さんに手渡されます。説明文書には、試験の目的や方法、検査や治療のスケジュール、期待される利益、予測される不利益(副作用や検査の増大等)、試験期間、倫理性・科学性を確保して行われることのほかに、試験参加は任意であり断っても不利益は生じないこと、患者さんに守ってもらいたいこと等が書かれています。医師からの説明もあると思いますが、それを補い、また患者さんの理解を助けるための文書となっています。主治医や専門医などから十分な説明を受け、ご自身が十分に納得する結論に達してから参加するようにして下さい。

治験の流れ

医師主導型治験

お薬の開発は、製薬企業のみが行ってきましたが、2003年7月から医師も開発にかかわることが認めらました。これにより医師も治験を企画して行うことができるようになりました。これを医師主導型治験と呼んでいます。製薬企業が開発しにくい分野などを推進することが期待されています。医師主導型治験では、患者に対する最善の治療法や標準的治療法を確立するために、証拠に基づいた医療(EBM: evidence-based medicine)が行えるようにすることを目的としています。遺伝子治療や再生医学などの先端医療研究では、その成果が未知数であるためにメーカーが積極的に治験を行い難い現状があります。これらの領域に関する治験も医師主導型治験に期待されています。また、がんの治療薬は、各お薬ごとに使うことを許されている病気が決められています。あるがん種に対して効果があるお薬でも、適応外のがん種には使うことができません。このようながんに関するお薬の適応範囲を広げるためにも、医師主導治験は期待されています。

日常診療に新薬が使われるようになるまで

研究により新しい成分や作用が発見されてから、基礎研究や臨床研究の成果・試験の成績をふまえて、ようやく薬として承認され、日常での処方に使われるようになります。基礎研究の成果が臨床の現場で使われるようになるまでには、数十年の試験や検査を要すると言われていますし、経済的にも製薬会社や国の負担により100億円から1000億円の開発費がかかります。このような現状はなかなか知られていないのが現状です。欧米では承認されていて、診療でも使われていますが、日本では未承認のものはドラッグラグと言われています。少し前の報道では厚生労働省の審査が遅いなどと話題になっていましたが、厚生労働省がさぼっているわけではなく、審査員の数などを国際比較してみると、日本の審査員が少ないことが分かります。アメリカと比較してみると1/10の人数で審査をしています。また審査の上で必要な安全性を担保するために生物統計を使いますが、生物統計家や各疾患領域の専門家が不足しているという指摘もあります。
審査の遅れだけでなく、開発への着手の遅れも日常診療への供給が遅れる原因になっています。大規模な臨床試験では製薬会社が主導して行いますが、日本での保険制度は国民皆保険となっており、国民のためにはいいのですが、製薬会社への経済的なメリットが少なくなります。薬価が欧米に比べて低く抑えられると、日本市場が最優先で承認申請するほどの魅力に乏しいと企業は判断します。また欧米と比較すると患者リスクへの理解が患者自体に乏しいために企業はリスクを取らない行動をします。結果的に日本での開発着手への遅れにもなっています。今よりも進んだ医療を考えるためには患者さん自身や家族の方を含めた社会全体がどのような方向に進むかを考えていかなれければなりません。

薬が承認されるまでの流れ

※掲載している情報は、記事公開時点(2011年12月1日)のものです。