【医療情勢】~改正高額療養費制度と民間保険~

公開日:2012年08月01日

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病院窓口での医療費負担が軽減された

今年5月に東京海上日動あんしん生命保険(株)が発表した調査によると、がんの治療に充てることができる資金(がん保険の保険金を含む)は100万円未満と回答した人が約60%、がんに罹患することを怖いと感じる理由として、肉体的な苦痛と同じぐらい経済的な負担や家族への負担が大きいことが分かりました(回答者数1032名:インターネット調査)。がんの治療の高度化に伴い、治療費の負担は患者さんにとって重要かつ困難なテーマとなってきています。国としても事態を重く見て、この4月から「高額療養費制度」を一部改正し、患者さんの負担感を軽減する措置がとられました。

高額療養費制度とは、1ヵ月以内に支払った医療費の窓口負担が1医療機関当たり2万1000円以上で、なおかつ一定の限度額を超えたとき、その超過分が免除される制度です。限度額は年齢や所得、入院の有無、加入している健康保険によって異なりますが、協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合は下記の通りです。
例えば、69歳以下一般所得の人で「8万100円+(医療費総額-26万7000円)×1%」で、手術などで高額な治療費がかかったとしても、月8~9万円程度で済むようになっています。

被保険者の所得区分 自己負担限度額(1月当たり)
70歳未満 上位所得者
(標準報酬月額53万円以上)
150,000円+(医療費-500,000円)×1%
(多数該当 44,400円)
一般
(上位所得者、低所得者以外)
80,100円+(医療費-267,000円)×1%
(多数該当 44,400円)
低所得者
(被保険者が市町村民税非課税等)
35,400円(多数該当 44,400円)
70歳以上・入院含む 現役並み所得者
(標準報酬月額28万円以上等)
80.100円+(医療費-267,000円)×1%
(多数該当 44,400円)
一般(現役並み所得者、低所得Ⅰ・Ⅱ以外) 44,400円
低所得Ⅱ
(被保険者が市町村民税非課税等)
24,600円
低所得Ⅰ
(地方税法の規定による市町村民税に係る所得がない)
15,000円
70歳以上・外来のみ 現役並み所得者
(標準所得月額28万円以上等)
44,400円
一般(現役並み所得者、所得Ⅰ・Ⅱ以外) 12,000円
低所得Ⅱ
(被保険者が市町村民税非課税等)
8,000円
低所得Ⅰ
(地方税法の規定による市町村民税に係る所得がない)
8,000円

4月に制度改正が行われるまでは、患者さんが自己負担分全額をいったん窓口で払い、2~3ヵ月後に限度額を超えた分が戻ってくる仕組みでした。一時的にせよ、多額の費用を立て替えることは患者さんの負担感が大きく、問題視されていました。それが、事前に手続きをすることで、窓口で支払う額が限度額以内で済むようになったのです。入院・外来どちらの治療も対象です。

まずは「限度額適用認定証」の申請を

手続きをするには、まず自分が加入している健康保険事業者(保険者)に「限度額適用認定申請書」を提出します。協会健保の場合、1週間ほどで「限度額適用認定証」(認定証)が発行されますから、それを医療機関に提出すれば手続き完了です。病院のソーシャルワーカー等に治療費の概算額を聞いて、限度額を超えそうだとわかったら、早めに「限度額適用認定証」の手続きを済ませるといいでしょう。

この制度は、医療機関で支払う治療費のほか、薬局で支払う薬剤費にも適用されます。がん治療の内服薬は非常に高額なものもあるため、薬局にも「限度額適用認定証」を提出しておきましょう。また、複数の医療機関にかかっている場合や、同じ公的保険に加入している家族の治療費も対象になります。各々の医療費が1医療機関あたり2万1000円を超え、すべてを合算して自己負担限度額を超えれば超過分が返還されます。
逆に言うと、たとえ限度額以上であっても、1医療機関あたりの支払いが2万1000円に満たない場合は制度対象外となります。複数のクリニックを受診している場合は気をつけましょう。

がん保険の新サービスに注目

ただ、高額療養費制度は、あくまで公的保険事業者が運営する制度です。自由診療や先進医療など公的保険の対象となっていない治療法は、民間のがん保険等で対応することになります。
がん保険といえば、がんと診断されたときにまとまった金額が降りる「がん診断給付金」や、入院日数に応じて支払われる「がん入院給付金」、がんが原因で亡くなった際の「がん死亡保険金」などを謳った商品のイメージが強いかもしれません。しかし、最近では通院治療の保障を手厚くしたり、放射線や抗がん剤を対象とした給付金が降りる商品も増えてきました。厚生労働省が定めた先進医療をカバーする「がん先進医療給付金」のついた商品もあります。

様々な保険商品があるなか、注目したいポイントは下記の通りです。

●診断給付金の支払い回数
診断給付金の支払いは1回のみの商品と、複数回の商品があります。後者の場合は、がんの再発や新たながんが見つかった時も対象となります。ただし、2年に1回までなど限度が設定されているケースがあります。

●自由診療や先進医療のカバー範囲
自由診療や先進医療も対象となっていても、治療を受ける医療機関が大学病院や保険会社が指定した協定病院に限られている場合があります。

●がん経験者でも加入できるか否か
ほとんどのがん保険は、残念ながら一度でもがんを患った人は加入できない条件になっています。わずかながら、がん経験者が加入できる保険もあり、中には乳がん経験者専用の商品もあります。ただし、治療から10年以上経過していることが条件だったり、保険料が高額だったりする傾向があります。

●自分の年齢と照らし合わせた保険加入の必要性
70歳以上になると高額療養費の自己負担限度額が下がるため、高い保険料を払って民間保険に入る意義がない場合もあります。

以上のことから、まずは公的医療保険制度の負担額を減らす手続きをし、そのうえで可能であれば保険を見直すことが大切といえるでしょう。がんと闘うためには、経済的負担を少しでも減らす工夫が欠かせません。保険制度の話は難しいと思うかもしれませんが、少しでも安心してがん治療を受けるための大切なステップと言えます。制度や治療費の件でわからないことがあったら、医療機関の患者相談室や医療ソーシャルワーカーに相談してみるのもよい方法です。

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