【最新治療 II 】ホリスティック医学によるガンとの向き合い方

公開日:2014年01月31日

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人間まるごとを捉える医学

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 「がんのように、人間まるごとに関わる病気に対しては、体だけを見る今の医学では不十分。

『人間まるごとを捉える医学』を執り行わなくては」そうした想いから、理想とするホリスティック医学を目指し、30年以上も前に実践の場として帯津三敬病院(※)を開設した帯津良一氏。以来、多くの医療関係者や患者の方から賛同を得ながら、氏の目指すホリスティック医学は形作られていきました。

ではホリスティック医学とは一体どのようなものなのか。以下にご紹介していきたいと思います。

(※)帯津氏が東京大学医学部卒業後、消化器がんの研究で有名な東京大学医学部第三外科、がん診療に特化した都立駒込病院の外科医長などを経たのち、理想のがん治療を目指して開設。

ホリスティック医学は東洋医学的な全体性を重視する

 ホリスティック(Holistic)とは、ギリシア語の「holos」(全体、全体的、全体性)を語源とした言葉であり、同じ語源から派生した言葉には、「whole」(全体)「heal」(治癒)「Health(健康)「holy」(聖なる)などがあります。

 言葉としては、1926年にジャン・クリスチャン・スマッツという思想家が発表した著書「ホーリズムと進化(Holism and Evolution)」の中で、著者の造語として初めて使われています。意味合いとしては、もともとは「ホーリズム(holism)的な」という形容詞として生まれましたが、その後一般には哲学用語として「全体論」と訳されています。

 現在、「ホリスティック」は「全体」「関連」「つながり」「バランス」などの意味をすべて包含した言葉として解釈されており、的確な訳語がないため、そのまま「ホリスティック」という言葉が使われています。

 しかし、意味する内容は決して新しく輸入された考えではなく、もともと東洋に根づいていた包括的な考え方に近いものといえます。そこでホリスティックの考え方に基づいた「ホリスティック医学の定義」にも東洋医学的な側面が多く含まれていることが見て取れます。

■ホリスティック医学の定義
①ホリスティック(全的)な健康観に立脚する
人間を「身体・心・気・霊性」等の有機的統合体ととらえ、社会・自然・宇宙との調和にもとずく包括的、全体的な健康観に立脚する。

②自然治癒力を癒しの原点におく
生命が本来自らのものとしてもっている「自然治癒力」を癒しの原点におき、この自然治癒力を高め、増強することを治療の基本とする。

③患者が自ら癒し、治療者は援助する
病気を癒す中心は患者であり、治療者はあくまでも援助者である。治療よりも養生が、他者療法よりも自己療法が基本であり、ライフスタイルを改善して患者自身が「自ら癒す」姿勢が治療の基本となる。

④さまざまな治療法を総合的に組み合わせる
西洋医学の利点を生かしながら、日本を始め、中国、インドなど、各国の伝統医学、心理療法、自然療法、栄養療法、食事療法、運動療法、民間療法などの種々の療法を総合的、体系的に組み合わせて、最も適切な治療を行う。

⑤病への気づきから自己実現へ
病気を自分への「警告」ととらえ、人生のプロセスの中で、病気をたえず「気づき」の契機として、より高い自己成長・自己実現を目指していく。

トータルに人を診るから個別化されていく

 ここまでの説明を簡単にまとめると、ホリスティック医学とは、 「臓器や器官などを単なるパーツと認識せず『人間まるごと』を捉え、単なるエビデンスの有無だけに囚われず、効果を挙げている各種治療法が有用と判断できるのであれば採り入れ、患者が主役となって自らの自然治癒力を高める治療を推進するための根本的な医学メソッド」 とも言い表せるでしょう。

 ホリスティック医学には、特定の治療法やこれさえやればよいといったものはありません。単にいろんな療法を寄せ集めればいいというものではなく、一人ひとりの心身の状態や、患者自身の意思(人格)を尊重しながら、精神的な気づきや充足感などについても配慮された治療法を選ぶことが重要です。

 つまり患者さんはもちろん、医療者にとっても、何が「ホリスティック」であるのかは、個々で違って当たり前のこと。自分らしい生き方を模索し続けるのと同じく、自分にとっての「ホリスティック」とは何かを問い続け、自分らしい医療を自らが選択していくことにほかならないのです。

 実際、帯津氏の病院を訪れる患者さんでも、初めてがんになった患者さんと、再発転移の患者さんでは、がん自体の状態はもちろん、がんへの意識や人生観ほかさまざまな状況が異なるといいます。そこで帯津氏が行うのは「完全オーダーメイドの治療戦略立案」。新たに入院される患者さんとはゆったりとひざ詰めで、これまでの経緯から人生観ほか、さまざまなことをとことん話し合い、お互いに納得のいく治療方法を決めるそうです。

 人間まるごとを捉える真のオーダーメイド医療だけに、その実現にあたって人間まるごとと向き合うのは必然。こうした人と人の結びつきを強化することも、ホリスティック医療の実践では欠かすことのできない要点となります。

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