がんの転移 最新の研究レポート2

公開日:2012年03月01日

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細胞のサイクル

人間の体は細胞からできています。がんは、普通の細胞から発生した異常な行動をする細胞です。細胞は、その性状や生体内での役割に応じて、それぞれ決まった周期で細胞分裂を繰り返し増殖しています。一つのサイクルである分裂増殖の周期を細胞周期と呼びます。例えばいくつかの種類のヒト培養細胞の細胞周期は約24時間といわれています。この細胞のDNAなどに傷がついたりすると、この周期が長くなることが分かっています。また、DNAに傷がつくような遺伝子異常が起きると、それを検知して細胞周期を一旦停止させる機能が存在することも分かっています。この遺伝子異常を監視し細胞周期を止める機能のことを細胞周期チェックポイントといったりします。この機能は細胞自体が持っているものです。また、一回の細胞分裂の周期の中に、複数のチェックポイントが存在することが知られており、G1/Sチェックポイント、S期チェックポイント、G2/Mチェックポイント、M期チェックポイントの4つが比較的よく研究されて分かっています。このサイクルを監視する機能の異常が、がん発生の主要な原因のひとつといわれています。

図1: 細胞周期チェックポイント

















正常な細胞は、体や周囲の状態に応じて増殖をしたり、増殖を停止したりします。例えば腕などに怪我をした場合は、皮膚の細胞が増殖して傷口を塞ぎます。傷口がふさがれば、細胞はそれを認識して、増殖を自ら停止します。しかし、がん細胞の場合はその制御をすることができずに、増殖し続けてしまいます。体内で増殖が起き続けると、周囲の大切な組織が壊れるような影響がでてきます。
始めにできた箇所のがんを原発巣と呼びますが、その原発巣からリンパ節などを流れて、違う箇所に新しく”がん”を形成することを転移といいます。転移したばかりのがん細胞は小さすぎるので、なかなか診断をすることが難しいのが現状です。診断ができない状態ですと、手術などをすることは難しく、転移したがんに対しての治療は基本的に抗がん剤などを使った化学療法が中心となります。化学療法の他には、放射線療法や免疫療法、乳がんなどではホルモン療法が行われますが、最近では新しい考え方もでてきています。細胞のサイクルを特定して、がんの成長に必要なサイクルの活動を停止させるような考え方です。

がん細胞:増殖を半減させる酵素特定 東大・児玉教授らチーム

がん細胞の増殖速度を半分に抑える酵素を、東京大先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授と大沢毅・特任助教(システム生物医学)らのチームが特定したとメディアで発表がありました。この酵素は、ほとんどのがん細胞にあり、がん細胞は、正常細胞に比べるおと、低酸素や低栄養状態になりやすいという特性があり、新しい血管を作って栄養を確保しています。血管新生阻害薬などの新しい考え方の薬はこの新生を阻害することを目的として投与されています。児玉龍彦教授と大沢毅らのチームでは、人やマウスのがん細胞の栄養状態をさらに悪化させ、細胞内の成分を調べたところ「ヒストン脱メチル化酵素」と呼ばれる酵素が生じていることを突きとめました。
マウスの実験にて、子宮頸(けい)がんや皮膚がんなどさまざまながん細胞にこの酵素を注入したところ、この酵素が血管の伸びを鈍らせることが判明しました。酵素を加えた細胞は、酵素を加えなかったがん細胞に比べ、増殖の速さが半分から1/5程度に抑えらました。汎用性のある研究につながる可能性もあり、応用範囲の広い新薬になっていくと期待されています。

ニセモノの薬が出回る

新しい薬が開発されると、患者さんの期待は高まります。そういった新薬の効果に期待をする患者さんやそのご家族を対象にして、アメリカではニセモノも薬の流通が問題になっています。スイスの製薬会社ロシュ(日本では中外製薬)は、取扱い製品であるアバスチン(ベバシズマブ)のニセモノがアメリカで出回っているとして注意を呼びかけています。ロシュがすでに流通している一部をテストしたところ、有効成分が含まれていないものが見つかったそうです。アメリカではインフルエンザ治療薬のタミフルなどもニセモノが流通したこともありました。日本では、ドラッグラグの問題から個人輸入をしてお薬を使う場合もあると思われます。入手する先には十分気をつけた方がよさそうです。アバスチンは、血管の新生を抑制して、がん細胞への栄養を絶つ事によって増殖を防ぐタイプの薬です。日本では2007年(平成17年)に「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」の治療薬として製造販売承認を受けました。欧米では、2004年にFDA(米国食品医薬品局)が転移性大腸癌の治療薬として承認し、2005年にはEMEA(欧州医薬品局)も同適応に対して承認しました。

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