【QOL(生活の質)】リンパ浮腫のケア

公開日:2017年03月31日

手術や抗がん剤治療、放射線治療後に発症する副作用の一つにリンパ浮腫があります。リンパ浮腫はがんの転移を防ぐために手術でリンパ節を切除した際の後遺症や、放射線治療によってリンパの流れが停滞することなどで起こります。完治は難しいのですが、適切なケアを行うことでQOLを改善することは可能です。リンパ浮腫を予防するために心がけるべきことや症状を軽減するケアなどの役立ち情報を紹介します。

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手術や抗がん剤治療、放射線治療後に発症する副作用の一つにリンパ浮腫があります。完治は難しいのですが、適切なケアを行うことでQOLを改善することは可能です。リンパ浮腫を予防するために心がけるべきことや症状を軽減するケアなどの役立ち情報を紹介します。

リンパとは

私たちの体の中には、血管のほかに「リンパ管」と呼ばれる管があり、全身の皮膚のすぐ下に網目状に張り巡らされています。このリンパ管の中には「リンパ液」が流れています。リンパ液の成分は血漿とほとんど同じで、白血球の一種であるリンパ球なども含まれています。

リンパ管は次第に合流して太くなっていきますが、その大きな合流点をリンパ節(またはリンパ腺)といいます。腋の下や首の付け根、足の付け根などには、外から触ってもわかる小豆大のリンパ節があります。

リンパ節は免疫システムの“関所”のような役割を果たしています。リンパ液に細菌などの異物が混ざっていると、リンパ節がそれをすくい取り、リンパ球がこれに抗体を出したり、直接攻撃をしたりして体を守る働きをしているのです。

ところが、この“関所”をすり抜けてがん細胞がリンパ管に入り込み、別の臓器や器官に移動し、そこで増えることがあります。がんの転移です。この転移を防ぐためにがんの手術ではリンパ節を切除しますが、その後遺症として起こるのがリンパ浮腫です。

リンパ浮腫が起こる理由と症状

リンパ節が切除されると、リンパ節の脇にリンパ管のバイパスができて、働くようになります。しかし、細く、働きが弱いため、流れが滞ってリンパ液が皮膚の下にたまり、浮腫すなわちむくみが起こるようになるのです。また、放射線治療でリンパの流れが停滞することでもリンパ浮腫が起こります。

リンパ浮腫が生じる可能性のある場所は、手術によってどこのリンパ節を切除したかによって異なります。乳がんで腋の下のリンパ節を切除した後にリンパ浮腫が起こりやすい部位は腕や前胸部、背部。子宮がん、卵巣がんや前立腺がんで骨盤内のリンパ節を切除した場合には、両脚、ヘソから下のお腹あるいは陰部に起こりやすくなります。

発症時期には個人差があり、手術直後に発症する人もいれば、術後10年以上過ぎてから発症する人もいます。一度発症すると治りにくいので、重症化させないためにも早期発見が大切です。しかし、早期の場合は自覚症状があまりないので気がつかないこともあります。日頃から皮膚の様子や腕や脚の太さの変化などに注意しておきましょう。

■症状とレベル

<早期>
  • ・皮膚が張ってシワが目立たない
  • ・皮膚がつまみにくい
<軽度から中程度>
  • ・腕や脚ががんの治療前と比べて太くなった
  • ・腕や脚が動かしにくい
  • ・重い感じがして疲れやすい
  • ・だるい感じがする
  • ・指で押すと凹んだように痕がついたままで元に戻らない
  • ・静脈の見え方に左右差がある
<重症>
  • ・皮膚が以前よりも硬くなった
  • ・皮膚が乾燥しやすくなった
  • ・毛深くなった
  • ・肘・手首・指・膝・足首などの関節が曲がりにくい

リンパ浮腫のセルフケアと日常生活での注意点

重い荷物を運ぶなど、無理をしすぎるとむくみのきっかけになることがあります。重いものはなるべく持たないようにし、重いものを持たければならない場合は、小分けするなど軽くして持つ工夫をしましょう。

また、注射や血圧測定、鍼治療、マッサージなどの刺激がリンパ浮腫のきっかけになる場合もあります。リンパ節切除を行った側ではなく、反対側(健側)で行うように注意しましょう。

重だるさを感じた時や寝る時には、脚なら足先を、腕なら手のほうを、心臓より高い位置に保つとリンパ液の流れが良くなります。

スキンケアも大事なセルフケアの一つです。リンパ浮腫がある皮膚は傷つきやすい状態なので、傷口から細菌が侵入して炎症を起こしやすくなります。皮膚の清潔と保湿を維持し、ケガや虫刺され、日焼けを避け、感染予防を心がけましょう。

リンパ浮腫が起こってリンパ液の流れが悪い状態で腕や脚のどこかが虫に刺されたり、小さな傷ができたりすると、そこから細菌が侵入し、腕や脚全体に炎症が広がる場合があります。これは細菌感染が原因で生じる皮膚炎で、蜂窩(ほうか)織炎(しきえん)といいます。炎症の兆候が見えたら、すぐに近くの医療機関を受診し、抗生物質の内服または点滴などの治療を受けてください。

リンパ浮腫の治療

むくみに気付いたときには受診しましょう。リンパ浮腫に関する専門的な知識や技術を持つ医師の助言を得ながら、症状に合った治療を行います。治療では、前述したスキンケアなど日常的なセルフケアに加え、用手的リンパドレナージ、圧迫療法、リンパ液の流れを良くする運動を組み合わせた「複合的治療」が推奨されています。ここでは簡単に治療内容について説明します。

用手的リンパドレナージ:
腕や脚にたまったリンパ液を適切な場所に誘導し、リンパ浮腫を改善させる医療用のマッサージ法です。一般的に行われている筋肉をもみほぐすようなマッサージや、美容目的のリンパドレナージとは異なるので誤解をしないようにご注意ください。
圧迫療法:

弾性着衣(弾性ストッキング、弾性スリーブ、弾性グローブ)や弾性包帯を用いてむくみを軽減し、その効果を維持する治療方法です。平成20年4月からリンパ浮腫治療のための弾性包帯、弾性着衣の購入は公的保険適用になり、療養費として支給されるようになりました。
主治医が作成した「弾性着衣等装着指示書」を受け取り、自己負担で購入します。領収書は必ず受け取って保管してください。加入している健康保険組合に「弾性着衣等装着指示書」と「領収書」を添えて申請すると、購入金額の7割が給付されます。詳細は加入している健康保険組合にお問い合わせください。

リンパ液の流れを良くする運動:
適度な運動は、リンパ液の流れを促進します。リンパ浮腫と診断された場合は、弾性包帯や弾性着衣を着用し、圧迫を加えた状態で腕や脚を動かす運動を行います。

再発や転移などでリンパ浮腫を発症した場合

がんの再発や転移で、リンパ浮腫やそのほかの原因による浮腫を生じることがあります。病状の進行に伴うリンパ浮腫は、むくみだけではなく痛みや痺れなどの症状を合併する場合があります。まずは原因となるがんの治療を優先し、痛みなどの症状や全身状態に応じて、医師と相談しながらむくみを改善する治療を行いましょう。

「がん治療とリンパ浮腫」(国立がん研究センターがん情報サービス)(PDF:1.33MB)

ポイントまとめ

  • がんの手術でリンパ節を切除したり、放射線治療などの後遺症として起こるのがリンパ浮腫です。
  • リンパ浮腫の皮膚は傷つきやすいため、注射や血圧測定、鍼治療、マッサージ、ケガや虫刺され、日焼けなどに注意しスキンケアなどのセルフケアを行う。皮膚の清潔と保湿を維持することと、感染予防が大切。
  • 早期の場合は自覚症状があまりなく、気がつかないこともあるため、日頃から皮膚の様子や腕や脚の太さの変化などに注意する。
  • リンパ浮腫の治療法としては用手的リンパドレナージ、圧迫療法、リンパ液の流れを良くする運動を組み合わせた「複合的治療」が推奨されている。

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