【トピックス】日本がんサポーティブケア学会第2回学術集会レポート―がん患者さんの心身支える治療・ケアの研究成果が集結

公開日:2017年10月31日

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抗がん剤による神経障害、皮膚障害管理の手引きまとまる

日本がんサポーティブケア学会の第2回学術集会(会長:埼玉医科大学国際医療センター乳腺腫瘍科・佐伯俊昭氏)が、10月27日、28日、さいたま市の大宮ソニックシティで開催されました。メインテーマは「がん患者の心と体を支える力を養う」で、「痛み」「神経障害」「皮膚障害」「サイコオンコロジー」「漢方」など16部会に分かれて研究成果が報告されました。

がん薬物療法の進歩によってがんの治療成績は向上しています。また、抗がん剤の副作用に対しても、例えば、悪心嘔吐には制吐剤、血球減少には造血因子などのように、多くは対処が可能になってきています。しかし、しびれなどの末梢神経障害に対する有効な薬物治療は確立されていません。

同学会神経障害部会の平山泰生部会長(東札幌病院血液腫瘍科)らの調査で、神経障害に対して抗けいれん薬が最も多く処方され、ほかにビタミンB12、漢方薬、抗うつ薬、消炎鎮痛薬、オピオイドなどが使われていることがわかりました。

従来、化学療法による末梢神経障害の予防と治療の指針の拠りどころとなっている、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドライン(2014年)にはこれらの薬剤は記載されておらず、平山部会長らは日本の状況に合わせた臨床指針の必要性を訴えてきました。

このほど、『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き2017年版』が上梓され、同学術集会で報告されました。「抗がん剤の副作用として神経障害は重大な問題であり、手引きは混乱する臨床現場の指針となりえるでしょう」と平山部会長は述べました。

平山 泰生 部会長

さまざまな臓器のがんに対して、近年、多種類の分子標的薬が適応になっています。そのため、従来の殺細胞性の抗がん剤で起こる脱毛、悪心嘔吐などとは異なる副作用が頻繁に報告されるようになりました。その代表が皮膚障害であり、多くの患者さんが苦しめられています。皮膚障害の症状マネジメントが必要であり、その対策が進められています。

同学会皮膚障害部会の山﨑直也部会長(国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科)は『がん化学療法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメントの手引き』が年内の発行を目指して進められていることを報告しました。

手引きには分子標的薬のほか、免疫チェックポイント阻害薬の副作用による皮膚障害についてもページが割かれています。免疫チェックポイント阻害薬によって白斑が生じることが指摘されていますが、白斑が生じた症例は白斑が見られない症例に比べて予後が良好であるという研究結果が報告されています。

山﨑部会長は「患者さんの苦痛を軽減させるとともに、こうした知見を踏まえた治療への取り組みも必要になります。知識の積み重ねが患者さんのQOL向上につながることを期待しています」と述べました。

手引きはビジュアルを重視して編集され、医師だけでなく、多職種にもわかりやすい作りになっているといいます。

山﨑 直也 部会長

「支持療法」から「支持医療」へ

同学術集会では支持療法に関して140を超える研究成果が報告されました。

市民公開講座「がん患者さんの心と体を支える」も同学術集会の大きな特徴の1つ。これは同学会のミッションとして患者(家族)教育を重視して行われたものです。

講座は、「がん治療中がん治療後のサポートケアの重要性」(埼玉医科大学国際医療センター緩和医療科・高橋孝郎氏)、「就労を含む社会参加について」(国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部・高橋都氏)、「家族へのサポート」(埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科・大西秀樹氏)の3つの講演で構成されました。参加者を募集したところ定員90人に対して180人が応募。急きょ会場の設営を調整することで100人が聴講しました。

佐伯会長は、「がん患者さんが必要としているサポートは多種多彩であり、科学的評価の難しい領域もありますが、がんに苦しむ患者さんを支えたいという気持ちと、そのために日夜努力している医療者の姿が伝わってきます。今後、包括的で質の高い支持療法の実現を目指していきたいと考えています」としています。

佐伯 俊昭 会長

supportive care(支持療法)とは「がん随伴症状の管理、およびがん治療の有害事象の発生予防と管理」を目的に行われる治療法です。日本では支持療法については日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本放射線腫瘍学会をはじめとするがん治療関連学会、日本緩和医療学会、日本サイコオンコロジー学会などの緩和医療領域の学会が支持療法に関する学術活動も行っていますが、日本をはじめとする東アジア地域には支持療法のための学会はこれまでありませんでした。

そこで、多職種が参画するチーム医療のもと、がん治療を安全で効果的に実施するための支持療法を発展させ、学際的・学術的研究を推進し、その実践と教育活動を通して国民の福祉に貢献することを目的として日本がんサポーティブケア学会が2015年に設立されました。

同学会の田村和夫理事長(福岡大学医学部総合医学研究センター)によると、米国のMD Anderson Cancer Centerで行われたアンケート調査で、がん専門医、看護師はpalliative care(緩和医療)という言葉に対して、終末期の医療で希望を失わせる語感を持っていることが明らかになりました。

また、「患者の紹介先としてpalliative care科とsupportive care(支持医療)科のどちらを選ぶか」との質問に、「がん治療が可能な時期の患者はsupportive care科に紹介する」という回答が多く、実際、診療科の名称をpalliative care科からsupportive care科に変更したところ患者数が増えたという報告もあります。

田村 和夫 理事長

田村理事長は、従来日本で使われてきた用語の「支持療法」について整理する必要があると指摘。「supportive careはがんと診断されたときから終末期まで、さらに遺族のグリーフケアまで含めた広い範囲をカバーする意味があり、日本語で支持療法と訳されます。

しかし、治療法だけでなく、心身の異常・症状把握、がん治療に伴う副作用の予防、診断・治療、システムの確立といった診療内容・体制まで含む言葉としては「支持医療」がより適切であり、今後は支持医療の普及を図っていきたい。同学会の使命として今後もがん患者のQOL改善、延命、治癒を目指していきます」と言及しました。

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