【最新医療】がん患者を支える「医工連携」

公開日:2013年08月01日

東京放射線クリニックは、IMRT、SBRTなどの高精度放射線治療を中心に転移・再発したがんの治療に取り組み、初診から治療開始まで1~2週間程度と早期に治療が開始できることも特徴です。一人一人の患者さんに十分な時間をかけ、患者様のご希望に可能な限り応じたきめ細やかな医療の提供を目指しているクリニックです。

目次

患部に貼るだけでがんが死滅するシート

ikourenkei今年6月、(独)物質・材料研究機構の研究チーム(荏原充宏主任研究員)は、がん細胞を死滅させるメッシュシート(不織布)を開発しました。このメッシュシートは、500ナノメートル(ナノは10億分の1)の微細繊維で編まれており、繊維そのものに、抗がん剤と、発熱作用のある微粒子が含まれています。患部に張って磁場をかけると抗がん剤がしみ出し、発熱します。つまり、がん治療における化学療法と温熱療法の両方を同時に行うことができるのです。

研究チームは、皮膚がんの一種である悪性黒色腫のがん細胞を用いて実験しました。直径1センチメートルのメッシュシートを、がん細胞を培養したシャーレに入れて観察。3日目から1日おきに5分間、電流を流したコイルの中にシャーレを入れて磁場をかけました。すると、なにもしないシャーレで培養したがん細胞は3日目から2日間で1.5倍に増加したのに対し、メッシュシートを入れた方のがん細胞は8割も減少しました。

今後、動物実験で安全性と有効性を確認したあと、臨床試験を実施する計画で、再発・転移の防止に役立つことが期待されています。

大学発ベンチャーも積極的に参入

このように、医学と工学が一緒になって研究開発にあたることを「医工連携」(いこうれんけい)と言います。最近は、この医工連携によってがんの治療方法を開発するケースが増えてきています。今回のメッシュシートのほかにもさまざまな研究がなされており、東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センターでは、抗がん剤を効率的に患部に運ぶ新規薬物送達システム(DDS)を開発しています。薬剤などを特定の部位に選択的に届け、光の刺激などによって効果を発揮する仕組みです。

また、いわゆる大学発ベンチャーによる医工連携も進んできています。愛媛大学医学部・工学部の研究者らが設立した(株)アドメテックは「誘導加熱」という熱療法を開発しました。がん細胞は低い温度を好み、約43度で自然消滅(アポトーシス)しますが、その性質を応用した治療法です。「誘導焼灼装置(仮称)」と呼ばれる機器を用いて約50℃~60℃の熱をゆっくり患部へ浸透させ、精密な温度制御を行うことによって治療効果を発揮するとされています。

もともとは肝がんの治療のために始まった研究ですが、今後は子宮頸がんの新しい選択肢となる可能性があると言われています。患者さんのメリットとして、副作用の強い薬を使わず、人体に無害な治療剤と熱を使用するため、繰り返し治療を行うことができます。また、比較的シンプルな装置を用いることから、治療費の負担も軽く済むことが予想されています。

医工連携は日本再生戦略の1つ

このような医療と工学が連携した開発「医工連携」は、国も力を入れています。 政府が定めた「日本再興戦略」(成長戦略)では、健康長寿産業を戦略的分野の1つに位置付けており、その中でも医療機器産業と医薬品は「1丁目1番地」と言われるほど重要視されています。

7月には厚生労働省が、医療機器産業の中長期的な将来像を示す「医療機器産業ビジョン2013」を発表しました。国内には、十分な技術力があるにもかかわらず、まだ医療ニーズに活かされていない医療機器・医療材料が数多くあります。それをいかに速く実用化するかは大きなテーマとなっています。厚労省のビジョンでは、医工連携などを後押しするために、基礎研究から保険適用に至るまでの、各ステージへの切れ目のない支援施策を検討・実行するとともに、薬事法の改正法や再生医療等安全性確保法の実現など法整備を進める方針が示されています。

特に、がん領域については、早期発見に寄与する革新的な診断方法(診断薬、診断機器及び検診方法)の開発・普及を促進すること。革新的外科治療や放射線治療によって、低侵襲治療や患者のQOL(生活の質)向上につなげることを強化する方向性が明示されています。今後は再発・転移に関しても画期的な治療法や、治療のための機器が開発されるかもしれません。

現場の医師は最新情報を知らないケースも

なお、患者さんとして覚えておきたいのは、こうした医工連携の進歩について、臨床医が詳しくないケースがある、ということです。もちろん医学部在学中に治療機器についての基本は学びますが、卒業後、どこまで最新情報を収集するかは個々人の医師に委ねられています。現在、臨床の第一線で活躍する医師は、医学部を卒業して10年、20年と経過しています。最新情報をチェックし続けられていなくてもなんら不思議はありません。まして工学業界など医学以外の領域に関する情報は、臨床医の元には届きにくい場合があります。

したがって、新しい技術開発については、患者さん自身がチェックしておくことが大切です。もし、気になる情報があったら主治医に尋ねてみてもよいでしょう。常に新たな情報を収集することで、がんの治療をあきらめずに済む道が見えてくるかもしれません。

取材にご協力いただいたドクター

田口 淳一先生

田口 淳一 (たぐち じゅんいち) 先生

一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 代表理事
東京ミッドタウンクリニック院長
日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック 総院長
東京ミッドタウン先端医療研究所 所長

主な資格など
日本内科学会総合内科専門医
日本循環器学会循環器専門医
日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
日本人間ドック学会 遺伝子検査に関わる検討委員会 委員長
東京医科大学 客員教授
日中医学交流センター 理事 他

放射線治療の基礎知識

放射線治療装置としては、高エネルギーX線を発生させるリニアックと呼ばれる装置が一般的です。
放射線治療の照射方法では、体の外から放射線をあてる外照射が一般的です。照射中(治療中)に痛みはありませんが、数分間は動かずにじっとしていることが必要です。ほかには、放射性物質を体内に挿入する方法や、飲み薬や注射で投与する内部照射があります。

関連記事

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。