肝胆膵がんの再発・転移には、集学的治療でアプローチ

最先端がん治療紹介の編集方針について

「再発転移がん治療情報」では、がん治療に精通した医師の方へのインタビューや学会、患者会ほか独自の取材を通して、新しいがん治療情報を随時ご提供しております。手術、抗がん剤、放射線治療と言った標準治療の中でも最新の治療法や、免疫療法や漢方など注目の治療法を取り上げていきます。また、このサイトでは特に進行がんやがんが再発・転移された方に有用と思われる情報を掲載していきたいと考えております。
がん治療に関するニュースや情報サイトは他にもたくさんありますが、再発・転移がんに特化したものは少なく、また、毎日更新される膨大な情報をチェックし、ご自身の治療に役立つものをピックアップしていくことは容易ではありません。
本サイトでは、再発・転移がんの治療を対象としたトピックをどなたにも分かりやすくお伝えし、治療を必要とされる患者様へ新しい選択肢をご提供したり、前向きに治療に取り組むお手伝いが出来るサイト作りを目指しております。

公開日:2011年8月1日

取材・文:石塚 集

医療法人社団 ミッドタウンクリニック
東京ミッドタウンクリニック

理事長  草野敏臣 先生
1975年長崎大学医学部卒業。国立がんセンター外科レジデント、国立長崎中央病院外科医長、琉球大学医学部第一外科助教授、米国カルフォルニア大学サンフランシスコ校外科客員教授を経て、2010年東京ミッドタウンクリニック常任理事。2011年から現職。日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、米国外科学会専門医、米国消化器内視鏡外科学会専門医

肝胆膵がんの診断・治療の過去と現状

私は長年にわたり、外科医として肝胆膵領域のがん治療に携わってきました。この領域のがんは、非常に早期発見が難しく、診断がつきにくいものです。肝がんの場合は、診断方法の進歩や手術治療、塞栓療法、ラジオ波焼灼や肝臓移植に至るまで各種治療法があり、集学的がん治療として比較的進歩していると言えます。しかし、膵がんや胆道がんは、過去の治療の歴史を振返っても、手強い相手と言わざるを得ません。特に膵がんに対しては、手術で取り除くだけでは、治療成績の改善にはつながりません。昭和50年代、厚生労働省の「対がん10カ年総合戦略」に早期膵がんの発見・診断に関する研究班がありました。そこに私も関わっていたのですが、プロジェクトの結論は「早期膵がんの診断は不可能」というものでした。研究班の目的は、のちに「小膵がんの診断」に変更されるほど、早期発見は難しいのです。

また、膵がんの手術の権威である羽生富士夫先生(東京女子医科大学名誉教授)は、現役を退官される時、約1200例の膵がん手術を行った結論として、膵がんの外科治療成績は30年程前と比較してもあまり改善されていないと総括されました。

一方、外科治療に限らず、他の療法も様々な方法が発表されていますが、標準治療になる程の優意性をもった治療はまだまだです。私も、肝胆膵領域の集学的治療として、これまで様々な臨床研究を行なってきました。いくつか私の経験を紹介しますと、肝がんの門脈や静脈に進展した腫瘍栓を「ピシバニール」という薬剤を肝動脈から注入し腫瘍栓を溶かした後切除する術式の開発や、小児がんである巨大肝芽腫を化学療法で小さくしてから手術を行なってきました。また、胆道がんに対しては、主病巣の近くを走行する肝動脈を切除し再建する術式の提唱や局所再発症例にレーザー治療を行う方法を報告してきましたが、他施設で追試をしていただけるような治療法にはなり得ませんでした。

今年2011年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、膵がんの化学療法について複数発表されています。その中で、切除不能な膵がんに対して期待されている治療の一つに、「ゲムシタビン」と「S1」の併用※があります。これは患者さんのQOLを維持しながら痛みの軽減にも効果があり、今までの化学療法と比較して効果が期待できるのではと注目されている治療でした。しかし結果は残念ながら、ほかの薬剤の組み合わせの治療成績と比較し、統計的な優意差はないことが示されました。さらに治療開始から12ヵ月の生存期間は40%以下で、標準的治療にはならないと明示されています。

現在でも膵がんの診断に関しては、遺伝子診断を用いても、早期発見が厳しい状況が続いています。従って、早期発見が難しく治療も困難である膵がんの治療は、手術やこれまでに施行されてきた化学療法には限界があり、早期発見・診断も含め革新的な治療法の開発が求められます。

※(癌Experts 学会スペシャル:第47回米国臨床腫瘍学会より
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/asco2011/201107/520803.html)

これからのがん治療への期待(テーラーメイド治療の方向へ)

これまでの薬物治療の場合、全ての対象者に効果を期待したいわけですが、実際は患者さんによっては効く人もいれば効かない人もいて個人差があり、また副作用が出るという問題があります。そこで、たとえば投与予定の抗がん剤が個人に有効に作用するかどうかを、遺伝子学的に検索した後投与する治療法の開発など、個別化医療、つまりテーラーメイド医療の方向性に向かっていくことが十分考えられます。そのテーラーメイド治療の一例が、当先端医療研究所で行なっている樹状細胞を用いたがんワクチン免疫療法です。この免疫療法は、患者さんの個別の細胞を用いて治療を行うため、副作用が少ないという特長があります。現在のところ、免疫療法を受けられる施設は限られていますが、今後、症例が蓄積されその治療成績の有効性が科学的な根拠に基づくデータとして示されることができれば、本法は更に普及していくことでしょう。

「がん」の診断に関しては、血液中や肝組織の「p53自己抗体」を測定し、早期がんの発見や肝転移の予測に役立てる方法が既に実施されています。しかしながら、これらの方法を駆使しても、膵がんに関しては、早期発見が厳しい状況が続いています。米国では、家系的に膵がんのリスクが高い場合、あらかじめ膵臓を全摘出する予防手術も行われていました。しかし、予防のためとは言え膵全摘術は、手術自体のリスクが高い上に術後の生活の質に重篤な障害が生じるため、現状では実施されていません。

膵がんに関して明るい話題として、膵がん病理学の世界的権威として知られるRalph Hruban氏(米国ジョンズ・ホプキンス大学教授)は、「遺伝子変化を追うことが膵がん克服の道である」と発言しています。遺伝子の変異を見つけることで早期発見・早期治療に結びつけようという取り組みを始めました。この方面の進歩に期待したいものです。

おわりに

肝胆膵領域のがん治療について私見を述べさせていただきました。がん治療は日進月歩で、3年前の情報はすでに古くなってしまうほどです。今後は、革新的な遺伝子診断やがんワクチン免疫療法などあらゆる方向からアプローチする「革新的な集学的がん治療」が開発されることを期待する次第です。

※掲載している情報は、記事公開時点(2011年8月1日)のものです。