【特集記事】認知度の低い、眼にできるがん

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公開日:2016年12月30日
金子 明博 先生

眼のがんの専門家は少ない

 私は33年間にわたり、国立がん研究センターで眼の腫瘍に関する診療と研究をしてきました。そこで多数の患者さんの治療をし、眼のがんに関するほとんどの研究会や国際学会に参加しました。それらの経験を通して、眼のがんは発生頻度が少ないため、一般の眼科医も含めて日本人には十分な情報が伝達されていないことを痛感しました。

眼のがんは非常に希少で、1975年のデータによると、年間死亡者数は54人となっていますが、顔の中心にある眼は、機能と形態の両方を考えた治療が重要です。

また、眼のがんには形成外科、脳神経外科、放射線科、血液内科などの眼科以外の診療科の医師も診療に携わる場合が多いのですが、それぞれの専門領域の観点からしか治療しないため、必ずしも最適な治療法が選択されていない場合もあります。

眼のがんが発生する部位は、眼(がん)瞼(けん)、結膜、眼球内、眼窩内に分かれます。発生部位によって、予後や治療方法が変わります。希少疾患で情報の少ない眼のがんについて説明します。

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眼瞼(まぶた)にできるがん

 眼にできるがんの中で一番多いのが皮膚がんの一種の眼瞼がんです。基底細胞がん、脂腺がん、扁平上皮がんがあります。基底細胞がんは転移することは珍しいのですが、周囲に浸潤して、頭の骨や鼻まで広がり、出血や呼吸困難等で死亡することもあります。

涙の蒸発を防ぐ目的で脂肪を分泌する腺組織から発生するのが脂腺がんです。ほかの眼瞼がんよりも悪性度が高く、所属リンパ節である耳前リンパ節や下顎リンパ節に転移することが知られています。眼にできる良性腫瘤と間違われることがあり、50歳以上の患者さんの場合は悪性腫瘍かどうか調べるために生検した組織を病理検査に出す必要があります。

眼瞼にできるがんは、外科手術によって切除するのが一般的です。がんが広がっていない場合には、眼球を残す治療法を選択します。がんを切除した後は、外見を整えるだけでなく、もとの機能を取り戻せるように再建術を行います。

再発した場合には再手術や放射線治療が検討されます。この放射線治療では、鉛の保護板を眼瞼の裏に入れて眼球を保護しながら、電子線を照射する必要があるため、特殊な機器が必要で、できる施設は限られています。高齢などの理由で手術が行いにくい場合や、腫瘍が大きく、複雑な形成手術が必要な場合にも電子線による治療を勧めています。

結膜(まぶたの裏側と眼球の表面)のがん

  眼球の表面の白目からは扁平上皮がんが発生します。黒目と白目の境界から発生することが多く、角膜の表面には薄い白色の半透明な膜が広がり、次第に盛り上がります。治療法は顕微鏡下で切除し、冷凍凝固を切除面に加え再発を防ぎます。抗がん剤であるマイトマイシンCの点眼も有効な場合があります。

結膜には悪性黒色腫(メラノーマ)が発生することがあります。先天的にメラノーマが起こりやすい性質がある前癌状態から起こる場合と、突然新たに発生する場合の二通りがあります。前者の場合は、加齢と共に色が濃くなり、結膜の広い範囲で多数の場所から発生します。手術で切除して結膜や羊膜を移植することもできますが、広範囲に広がる場合は困難です。

切除と冷却した金属棒を当ててがん細胞を死滅させる冷凍凝固法が行われますが、それだけでは不十分なので、抗がん剤のマイトマイシンCを点眼します。がんが小さければ、炭酸ガスレーザーを照射して腫瘍を蒸発させることで、眼球を温存する治療方法もあります。場合によっては外来で治療もできますし、視力の温存も期待できます。

結膜の悪性リンパ腫は、「サーモンピンク様」といわれる肌色の腫瘍が特徴的でほとんどの場合、外見から診断できます。治療は、表面の腫瘍を切除して、病理検査を行い、悪性度を調べます。低悪性度で、症状がなければそのまま放置しても問題はありません。

眼の部分にだけ腫瘍がある場合には放射線治療が効果的ですが、角膜上皮障害、ドライアイ、白内障などの副作用が起こる場合があります。検査の結果、眼の部分以外に腫瘍が見つかった場合は、全身のリンパ腫として治療を行う必要があります。

眼球内(強膜、ぶどう膜、網膜)のがん

 眼球内にできる腫瘍としては、網膜から発生する網膜芽細胞腫が有名です。0~5歳くらいの子どもに年間80人程度発症します。眼が白く光ったり、斜視(片方の眼の視線がずれている状態)を起こしたりします。

治療は進行している場合は眼球を摘出する外科手術が必要ですが、視力の温存が期待できる場合には化学療法や局所化学療法を組み合わせます。局所化学療法とは、眼球に続く動脈に少量の抗がん剤を注入する方法です。この治療法でがんが小さくなった場合には、レーザー凝固や冷凍凝固法が行われます。また、小線源治療といって、放射線を発生する金属を眼球壁に留置して治療を行うこともあります。

ぶどう膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)にはメラニン色素を産生する細胞があるため、悪性黒色腫(メラノーマ)が発生します。国内では年間50人程度発症していると推定されている成人のがんです。人種間の差が大きく、白人では日本人の20~30倍多いといわれています。

発症初期には自覚症状は少ないですが、進行すると視界が欠ける、ぼやける、ゆがむなどの症状が起こります。小さい場合にはレーザー凝固や局所切除で取り除きます。対象となる大きさに限りはありますが、先進医療として重粒子線照射が行われています。がんが進行し、大きくなった場合には、眼球を摘出し、外見を考慮して、義眼を使用します。

眼窩(眼球を取り巻く骨に囲まれた空間)のがん

 眼窩内にはさまざまな組織があるため、多種多様のがんが発生します。眼窩は前方を除いて周囲が骨で囲まれているため、眼球が飛び出す眼球突出、眼球の動きが腫瘍で妨げられて物がずれて二つに見える復視、視力低下、眼痛などの症状が起こります。

良性の腫瘍が多く、悪性腫瘍を鑑別することが重要です。悪性腫瘍は、小児期では横紋筋肉腫、成人ではリンパ腫が多く、特に高齢者では悪性の場合が多いことが知られています。成人で見られる涙腺がんは悪性度の高い眼窩のがんです。

良性腫瘍は原則として手術的に腫瘍を全て取り除きますが、眼窩内は筋肉、神経、血管が狭い空間に多く存在しているため、これらに障害を与えずに腫瘍を丸ごと取り除くには高い技術が必要となります。手術による後遺症として復視、眼瞼下垂、視力低下などが起こります。

横紋筋肉腫やリンパ腫などの悪性腫瘍は抗がん剤や放射線の感受性が高いため、腫瘍の一部を切除して病理診断をしてから、非手術的な治療を行います。涙腺がんは放射線の感受性も抗がん剤の感受性も低いので手術による摘出が行われますが、治療成績が良くないため、再発時に重粒子線照射を行う方法が試みられています。しかし後遺症として、眼球に生じる血管新生緑内障などがしばしば認められます。

眼のがんの最新治療

 眼を全摘した場合に、外見上を健常人と同じように見せる、義眼台を埋め込みますが、義眼台は日本では保険適応になっていません。アメリカでは可動式の義眼台が開発されていて、自然に義眼が動きます。

台湾や韓国などのアジアでもこの義眼が使われているので、日本はこの分野に関しては遅れています。患者さんが希望する場合はアメリカから個人輸入して使用しています。費用はおおよそ10万円程度です。

最新の薬物治療としては、メラノーマに対して承認されている、ニボルマブが注目されています。ぶどう膜にもメラノーマが発症します。日本人よりも白人に多いがん種なので、まずは欧米を中心に研究が進んでいくのではないでしょうか。

ただし、患者さんの少ないがんなので、治験に必要な患者さんを集めることができないため、薬の開発がなかなか進まないという現状があります。

また、ぶどう膜のメラノーマに関しては、遺伝子検査をすることで、転移を起こすタイプなのか、そうでないのかがわかります。転移しないタイプだと、予後が非常に良好とわかっています。

ただ、転移するタイプだと予後が悪いことはわかるのですが、早期の介入で予後にどのような影響を与えるか不明で、まだ研究段階です。しかし、将来への心構えとして、転移するがんなのか、そうでないのかを知りたい患者さんもいますので、その場合には遺伝子検査しています。将来的には、遺伝子検査をして転移をすることがわかっている人を集めた治験も展開されると思います。

眼にがんができたら、まずは眼科に

 眼は、目立つ場所にあり、外見から判断できるがんが多いのが特徴です。眼にできる、「ものもらい」などのできものとの鑑別は必要ですが、比較的診断のしやすいがんです。そのため、眼に違和感があったり、腫れたり、できものがある場合には、なるべく早く眼科を受診するようにしましょう。

眼のがんの治療までできる眼科は少ないですが、大学病院や国立がん研究センターなどの高度な医療を提供している病院に紹介してもらうことで、治療を受けることができます。

ただし、患者数が少ないことから、眼の腫瘍を専門とした医師の数も限られているので、国立がん研究センターやがん研究会有明病院など、経験豊富な医師がいる場所で治療を受けることをお勧めします。地方の場合は、県立がんセンターでも眼科がない場合があるので、不安ならがん相談支援センターなどで情報を集めるといいと思います。

患者さんに知っておいてほしいこと

akiramenai_gk201701_dr02 眼のがんはあまり痛みがないことから長い期間放置されることがあります。しかし、悪性だった場合は放置されるとそれだけがんが進行してしまいます。眼に違和感がある場合は、なるべく早く眼科を受診し、早期発見できるようにしてください。

早期発見できれば予後も良く、治りやすいのも眼の腫瘍の特徴です。また、子どもに発症する網膜芽細胞腫は、認知度は低いですが、眼が白く光るなどの特徴的な症状があります。放置をすれば眼球の摘出が必要となることもあるので、この病気に関しても知っているのと知っていないのでは治療結果が全く違います。

※掲載している情報は、記事公開時点(2016年12月30日)のものです。