【最新医療】乳がんの脳転移 早期診断、治療への応用に期待膨らむ

公開日:2015年05月29日
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目次

 国立がん研究センターは、乳がんの脳転移に乳がん細胞が分泌する物質に含まれる特定のマイクロRNAが関与していることを突き止めました。転移の早期診断、新規治療法の開発への応用に期待が高まります。

がん細胞が分泌するエクソソーム内にマイクロRNA

 私たちの体には約60兆個の細胞があり、1つひとつの細胞に核があります。核の中には、遺伝情報が書き込まれたDNA(デオキシリボ核酸)が収められています。DNAはアデニン、グアニン、シトシン、チミンと呼ばれる4種類の塩基からなる2重らせん構造になっており、塩基の配列によって遺伝情報が示されます。

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RNA(メッセンジャーRNA)は、DNAを鋳型として必要な部分を転写して設計図化し、細胞核の外にあるたんぱく質合成の場でたんぱく質を合成します。マイクロRNAは、メッセンジャーRNAと結合または分断することで、タンパク質の合成を阻害する小さなRNAのことです。細胞内には多種類のマイクロRNAが存在し、様々なタンパク質の発現量を調節しています。

 がん細胞が分泌するエクソソームという小胞内にはこのマイクロRNAが含まれていることがわかっています。同センターでは、血清や血漿からエクソソームを見つけ出してマイクロRNAを検出し、その種類(塩基配列の違い)によってどのようながんの発生に関与しているか等の研究を進めています。

特定のマイクロRNAをターゲットにした新薬の開発も

 乳がんは比較的予後の良いがんとして知られる半面、術後10年、20年と長い期間を経て再発、転移することがあります。乳がんの治療法が進歩して長期の予後が得られるようになり、また診断技術の向上によって脳転移が見つかる患者数が今後さらに増加することが予想されています。しかし、乳がんの脳転移のメカニズムは明らかになっておらず、その解明が待たれていました。

脳血管は、血液脳関門のはたらきによって物質が脳実質に入ることを制限・調節しています。同センターでは、乳がん脳転移細胞と血液脳関門の機能をもつ脳血管を人工的に作って調べたところ、乳がん脳転移細胞から分泌されたエクソソームに含まれる特定のマイクロRNA(miR-181c)によって血液脳関門が破壊されることがわかりました。

また、マウスを使った実験で、乳がん脳転移細胞から分泌されたエクソソームは脳に集積し、miR-181cによって血液脳関門が破壊されることが確認されました。こうして、がん細胞は脳の中に容易に侵入し、転移することが推察されました。

さらに、脳転移のある患者さんと脳転移のない患者さんの血液を採取し、血清に含まれるエクソソームを調べた結果、脳転移のある患者さんでは脳転移のない患者さんに比べてmiR-181cが多く含まれていることが判明しました。

進行がんの治療は抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬による化学療法が主体です。新薬の開発によって治療成績は向上しているものの、脳転移に関してはその機序が解明されていないのが現状です。脳転移はMRI、CTなどで診断されますが、症状のない患者さんにこれらの検査を行うことは困難です。

また、抗がん剤は血液脳関門のはたらきによって脳への移行が望めず、脳転移の治療は手術や放射線療法を選択することになりますが、再燃が多く重症化する場合が少なくありません。

同センターの今回の研究成果は、miR-181cを測定することで脳転移の早期発見が可能であることを示唆しています。それによって、手術や放射線治療を早い段階で行うことができます。さらに研究が進めば、miR-181cをターゲットにした新薬の開発にもつながり、将来的に乳がんをはじめ多くのがんの治療成績が向上する可能性があります。

長い期間を経て再発・転移するメカニズムの解明

 同センターは、乳がんが長い期間を経て再発・転移するしくみには、エクソソームと特定のマイクロRNAが関与していることをすでに報告しています。

骨髄にはあらゆる血球細胞になることができる造血幹細胞が存在していますが、その造血幹細胞は骨髄の中で休眠状態となって、必要な時に増殖を再開して血球系の細胞に分化します。がん細胞のルーツであるがん幹細胞も同様に骨髄で増殖せずに休眠状態になり、年月を経て眠りから覚めることがあります。この状態が再発・転移と考えられていますが、そのメカニズムまでは分かっていませんでした。

同センターは、骨髄で間葉系幹細胞*が分泌するエクソソームに含まれる特定のマイクロRNAによって一部の乳がん細胞が幹細胞のような性質を獲得して休眠状態になることを明らかにしました。このことは実際の乳がん患者さんの骨髄において、乳がん細胞が間葉系幹細胞のエクソソームを受け取ることによって休眠状態になる可能性を示唆しています。

こうした研究発表により、実用化されるまでには相応の時間がかかるものの、新薬や新たな治療法の確立に期待が寄せられています。

*間葉系幹細胞:骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能をもつとされる細胞で、骨や血管、心筋の再構築などの再生医療への応用が期待されています。

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