【最新医療】プレシジョン・メディシンへの期待――肝がんの発がんメカニズムを解明

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公開日:2017年4月28日

長年不明だった肝臓がん発症メカニズム

日本では、年間約4万人が肝臓がんと診断され、約3万人が亡くなっています(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」)。特に、日本や中国を含むアジア地域とアフリカ地域で発症頻度が高く、世界全体の部位別がん死亡率では第3位になっています。

主な原因はB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの持続感染で、その結果として慢性肝炎、肝硬変を経て肝臓がんが発生します。しかし、肝臓がんの発がんメカニズムは複雑で明らかにされていませんでした。

近年行われたがんの全遺伝子解析の結果、C型肝炎ウイルスが原因で発症する肝臓がんに特異的な遺伝子としてARID2が発見されました。ARID2は、クロマチン制御に関わる遺伝子として知られています。

高等生物のDNAはヒストンというたんぱく質とくっつき、クロマチン構造を作っています。クロマチン構造とはDNAとたんぱく質が一緒になって存在する特定の構造です。RNAの転写やDNAの複製はクロマチン構造によって制限され、これをクロマチン制御と呼んでいます。

ARID2の発見後に行われた大規模解析によって、約20%の肝臓がんにこの遺伝子を含むSWI/SNF複合体に変異があることがわかりました。SWI/SNF複合体はクロマチン構造を変化させ、DNAを複製させるための物質などをDNAにアクセスできるようにします。

新たにがん抑制遺伝子を発見

そんななか、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子腫瘍医学分野の田中真二教授らの研究グループは、ヒト肝臓がん細胞のARID2遺伝子の機能を失わせると、腫瘍を形成する能力が高まることを発見しました。

つまり、ARID2ががん抑制遺伝子であることがわかりました。どの遺伝子がどれくらい働いているかを調べると、ARID2を失った肝臓がん細胞は紫外線(UV)によってDNAが損傷した時に修復する働きが悪くなっていることがわかりました。

実際にUVを照射すると、ARID2を失った肝臓がん細胞はUVの感受性も高いことがわかりました。さらに、DNAの損傷を修復する機能の異常によって、ベンゾピレン・塩化鉄などの発がん物質への感受性も上がります。

また、パブリックデータ(一般に公開されているデータ)の解析でARID2遺伝子の変異で肝臓がんになると、体細胞の遺伝子にも変異の数が多くなることがわかりました。

これらの結果から、ARID2遺伝子の変異によって損傷したDNAを修復する機能に異常をきたして、高頻度に遺伝子変異を起こしている可能性が示唆されました。同じ仲間の遺伝子であるARID1も同様に、DNA損傷の際の修復に関与することが明らかになり、こうしたメカニズムはSWI/SNF複合体に共通する可能性があるといいます。

今回の研究によって、長らく不明だったARID2遺伝子の変異によって起こる肝臓がんのメカニズムの一端が世界で初めて明らかになりました。

近年、多くのがん種で免疫チェックポイント阻害剤が注目されています。一般的に遺伝子変異の頻度が高いほど免疫チェックポイント阻害剤が効果的であることが知られています。

高頻度遺伝子変異がんは免疫チェックポイント阻害剤のターゲットとして注目されていて、今後の肝臓がんのプレシジョン・メディシン(精密治療)への展開が期待されています。研究グループは「今回の研究成果は、肝臓がんの病態解明につながる重要な発見であり、ほかのがんでも新規治療法の開発に応用される可能性もある」としています。

なお、研究結果は2月24日付けの英国科学誌「Journal of Hepatology」に掲載されています。

研究成果の概要(東京医科歯科大学プレスリリースより)

※掲載している情報は、記事公開時点(2017年4月28日)のものです。