【特集記事】B型肝炎ウイルスの再活性化を防ぐために検査を受けましょう

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公開日:2015年9月30日
埼玉医科大学消化器内科・肝臓内科教授 持田 智先生
持田 智 先生
埼玉医科大学消化器内科・肝臓内科教授

若い世代を中心に性交渉を介してHBVの感染が増加

 B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こる病気です。感染者には血液のみならず、精液、体液、分泌物にもHBVが存在する場合があり、これらを介して感染します。次のような場合に感染が起こる可能性があります。

  1. ① HBVに感染している人と性交渉を持った場合
  2. ② 注射針、注射器をHBVに感染している人と共用した場合
  3. ③ HBVに感染している人の血液が付着した針を誤って刺した場合
  4. ④ HBVに感染している母親から生まれた子に対して適切な母子感染予防措置を講じなかった場合
  5. (公益財団法人ウイルス肝炎研究財団のホームページから)

現在の日本では日常生活の場でHBVに感染することはほとんどないと考えられており、HBVに感染している人との握手、入浴、軽いキス、食器の共用などでは感染の心配はありません。

日本のHBV感染者の多くは母子感染(垂直感染)などですが、「B型肝炎母子感染防止事業」(厚生省、1985年)が実施されるようになってから母子感染はほとんどなくなりました。また、1972年に献血のHBs抗原検査が導入され、HBVの遺伝子検査も行われるようになって、輸血による感染例も稀になっています。一方、若い世代を中心に性交渉を介してHBVの感染が増加傾向にあることが注目されています。

HBs抗原が消失しても肝細胞にはHBVのDNAが存在

 B型肝炎の病態を知るためにはHBVウイルスマーカー(HBs抗原・抗体、HBc抗体、HBe抗原・抗体、HBV-DNA)を測定する必要があります。HBVは中心にDNAを持ち、その周りをコア蛋白(HBc)と外殻蛋白(HBs)が覆う構造になっています。

HBs抗原は外殻蛋白の存在を調べる検査法で、B型肝炎の感染の有無がわかります。HBe抗原はHBVが作って血中に出す蛋白質で、ウイルスの遺伝子であるDNAの量や肝炎による遺伝子変異の状況と関連しています。  体内にHBVを持っている人をHBVキャリアといいます。HBVキャリアの経過は、ALT値、HBs抗原・抗体、HBe抗原・抗体、HBVのDNA量の変化によって免疫寛容期、免疫排除期、免疫監視期の3つの病期に分けられます。

免疫寛容期にはHBVは増殖しますが、ウイルスに対する免疫応答がなく肝機能も正常で肝炎は起こりません。この状態は無症候性キャリアと呼ばれています。

免疫排除期になるとALTが上昇し肝炎を発症します。この時期ははじめHBe抗原は陽性ですが、HBVの遺伝子に変異が起こって陰性になり、HBe抗体は陰性から陽性になります。これをセロコンバージョンといいますが、患者さんの多くはウイルス量が減って肝炎が鎮静化します。一部の患者さんではHBe抗原が陽性のまま、あるいはHBe抗原が陰性化してもウイルス量が高値となって、肝炎が続いて慢性肝炎に移行していきます。

免疫監視期では免疫が優位になってHBVの増殖は低下していきます。ALTも正常になって肝炎は治まり、非活動性キャリアといわれる状態になります。なかにはHBs抗原が消失するまでウイルスの活動性が低下する例もありますが、肝細胞にはHBVのDNAが残っています。

がん患者さんの4、5人に1人がB型肝炎ウイルスに感染か

 日本では50歳を越える世代の20%以上がHBs抗原陰性、HBc抗体陽性ないしHBs抗体陽性の既往感染者と考えられています。一方、がんに罹患するのは中高年層が大部分を占めています。このことから、がん患者さんの4、5人に1人はHBVの既往感染者であるとも推察できます。わが国にはそれほど多くのHBV既往感染者が存在しているにもかかわらず感染者自身が気づいていないのが現状です。

また、HBVのキャリアでも肝機能が正常な無症候性キャリアや非活動性キャリアは既往感染者と同様、健康な状態で経過していれば治療の必要はありません。しかし、無症候性キャリアががんになったり、がんが再発したりして抗がん剤や免疫抑制剤などを投与されるとウイルスが再活性化して肝炎を発症することがあります。

そのため、一般的にはHBVキャリアが抗がん剤や免疫抑制剤などの治療を受ける時は、HBVの増殖を抑える核酸アナログ製剤(エンテカビル)の予防的投与が検討されます。

通常、HBs抗原陰性でHBc抗体陽性ないしHBs抗体陽性の人はHBV既往感染とされ、臨床的には治癒の状態と見なされます。

しかし、2000年以降になって、HBV既往感染者に対して抗悪性腫瘍薬のリツキシマブを投与することによって、肝臓に潜んでいたHBVが増殖して血液中に現れ、既往感染者でもHBVの再活性化(de novo B型肝炎)が起こる例があることがわかりました。de novo B型肝炎は通常のB型肝炎に比べて劇症化する頻度も死亡率も高いといわれています。

さらに原疾患(がん)の治療にも影響を及ぼすため、HBVの再活性化を防ぐことがきわめて重要になります。リツキシマブ以外の抗がん剤(表)、免疫抑制剤を既往感染者に投与する場合もHBVの再活性化が起こる可能性があります。

既往感染例における再活性化の頻度は治療法によって異なり、悪性リンパ腫に対してリツキシマブを用いた化学療法では約8%であり、免疫抑制療法、固形癌に対する化学療法ではより低率です。また、通常の化学療法では、既往感染者の再活性化は1~3%程度という報告もあります。

肝炎ウイルスマーカー検査はスクリーニング法として有用

 強力な免疫抑制・化学療法を行う際のHBV再活性化に対する基本的な対策は、日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編「B型肝炎治療ガイドライン(第2.1版)」の「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」に沿って行われます。

「対策ガイドライン」は、免疫抑制・化学療法を施行する際は、肝機能異常の有無にかかわらずHBV感染をスクリーニングする必要があり、全例に対してHBs抗原の測定を必ず行わなくてはなりません。HBs抗原陽性の場合は核酸アナログ製剤を投与しながら治療を行います。

一方、HBs抗原が陰性の場合は、HBc抗体とHBs抗体を測定し、いずれかが陽性の場合は治療終了12カ月後まではHBV-DNAを1〜3カ月の間隔で測定し、DNAが一定量以上になったら核酸アナログ製剤を投与します。なお、化学療法を行っている間に再活性化がみられた場合は、(医師は)治療をすぐには中止せずに肝臓専門医に相談することをガイドラインは推奨しています。

感染が心配なら主治医に相談のうえHBV検査を

dr_mochiduki_02 現在、世界の人口は72億人で、その27%がHBVに感染しているといわれています。HBV感染者は特にアジア、アフリカに多く、日本ではHBVキャリアの数は110万~140万人と推定されています。日本人のHBVの遺伝子型はほとんどがゲノタイプCで、近年、ヨーロッパに多いゲノタイプAが増加傾向にあります。  HBVの既往感染者やキャリアはがん患者さんの中にも多くおられます。特に次の項目が該当する場合は、主治医に相談のうえ、一度HBVの検査を受けることをお勧めします。

  1. ① 不特定多数の方と性的な関係を持った方
  2. ② 家族にB型肝炎の方、またはB型肝炎ウイルス持続感染者(HBVキャリア)がおられる方
  3. ③ 長期に血液透析を受けている方
  4. ④ 妊娠している方(第一子の妊婦時)
  5. ⑤ 不特定の人の血液、体液に触れる機会のある方(保育施設、高齢者施設に勤務する方、警察官、消防士、救急隊員、自衛官など)
  6. ⑥ その他(過去に健康診断等で肝機能検査の異常を指摘されているにもかかわらず、肝炎ウイルスの検査を受けたことがない方等)
  7. (公益財団法人ウイルス肝炎研究財団のホームページから)

表 添付文書上HBV再活性化に関する注意喚起のある抗悪性腫瘍剤(一般名)

  • エベロリムス
  • オファツムマブ(遺伝子組換え)
  • テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤
  • テムシロリムス
  • テモゾロミド
  • フルダラビンリン酸エステル
  • ベンダムスチン塩酸塩
  • ボルテミゾブ
  • メトトレキサート
  • モガリズマブ(遺伝子組換え)
  • リツキシマブ(遺伝子組換え)
  • シロリムス
  • アレムツズマブ
  • ルキソニチリブリン酸塩
  • (日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編「B型肝炎治療ガイドライン[第2.1版]」から)