第47回 肝癌研究会 「肝臓のがんを探る」 再発・転移に関するレポート

公開日:2011年09月01日

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2011年7月28日~29日に第47回日本肝癌研究会が静岡県静岡市にて開催されました。テーマは「肝臓のがんを探る」です。主催の日本肝癌研究会は内科、外科、放射線科、病理、分子生物、疫学などの専門家が2200名ほど参加している肝がんの基礎と臨床を研究している研究会です。 近年では遺伝子レベルでのがん研究の発展が進んでいます。肝細胞がんの治療でも、遺伝子治療が考えられて臨床の現場で使われるように研究が進められ、実用化されれば肝細胞がんの治療は大きく変わっていく可能性があります。現在の臨床の場で使用されている抗がん剤などの治療薬も、従来とは違った作用を持つものや副作用を軽減されるようなものが開発されてきています。また検査の精度も向上して、肝細胞がんの予後は年々改善していくと思われます。ここでは研究会で報告されたものの中から、再発・転移に関するものをピックアップして最新の研究報告をご紹介いたします。

抗肝炎ウイルス療法の進歩と、新たな再発メカニズムの解明

抗ウイルス剤を使用した研究

九州大学の研究者を中心としたグループが肝細胞がん切除成功を向上させるための要因分析と再発メカニズムの解明に関する研究をシンポジウムで発表しました。 研究の目的は、肝がん外科の技術革新、抗肝炎ウイルス療法が肝細胞がん切除成績に与える影響の検証、肝細胞がん再発のメカニズムを解明することによって新たな再発対策の模索でした。 日本の、肝細胞がんの約80%がC型肝炎ウイルス(HCV)、15%がB型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染に起因すると言われています。抗ウイルス薬は、発癌までの期間や肝硬変への進展を抑制場合も報告されています。 肝臓がんの治療は患者さんの状況によって施術が異なってきますが、切除手術をする場合も、動注化学療法を行う場合も、化学療法が併用される場合がほとんどです。しかし、患者さんによっては、化学療法を行なうとB型肝炎のウイルスが活性化して肝不全になる可能性があります。このためにウイルスを抑える薬が必要になります。現在の肝がんにおける抗ウイルス療法は、主にインターフェロン療法、エンテカビル治療、ラミブジン治療、ラミブジン+アデホビル治療などがあり、ウイルスの増殖を抑えることを目的としています。この抗ウイルス薬の作用に着目し、新たな抗ウイルス薬の開発研究となりました。

マクロファージをターゲットとした治療戦略に期待

2000年以降の肝切除成績は5年、9年生存率が74%、61%と著明に改善しています。10年生存率を目指して治療戦略を構築する時代になりつつあります。長期生存には肝機能良好例の選択、抗ウイルス療法、無輸血手術が重要であることが分かってきています。しかしながら、再発率は高い数値となっているので、新たな治療戦略が必要であると考えられています。 腫瘍局所のマクロファージ(tumor associated macrophage:TAM)によるSignal Transducer and Activated of Transcription 3(STAT3)の活性化が肝細胞がんの悪性化に関与していることも報告されていています。STAT3はサイトカイン等の刺激により活性化し,細胞増殖を促進する。また,近年がんの発育と腫瘍関連マクロファージ(TAM)の関連が報告されています。今回、肝細胞癌におけるSTAT3活性化の意義とTAMの関連を明らかにする研究も進められているので、マクロファージ(TAM)をターゲットとした治療戦略が新たな再発対策に有望であると考えられます。 肝がんの再発メカニズムが解明されることによって、再発の予防や再発後の治療における選択肢が増える可能性が高まり、治療計画もより細かくできるようになります。学会や研究会などでは日々、病院での研究結果が報告されています。

肝細胞がんの再発様式と遺伝子発現パターンから見た再発メカニズムの解明

再発様式の研究

東京医科歯科大学、順天堂大学、東京大学などの研究者を中心としたグループが肝細胞がんの再発様式と遺伝子発現パターンから見た再発メカニズムの解明に関する研究をシンポジウムで発表しました。 肝細胞がんは治癒切除後もしばしば再発が認められています。再発そのものよりもむしろ再発様式がその予後を規定していると考えることができます。この研究グループは、肝細胞がん切除症例を検討し、再発と発がんに関わる分子マーカー(血液、その他の体液や組織中に存在している生体分子のうち、正常または異常な機能あるいは病態や疾患の徴候となるもの。疾患や病態への治療に対して身体がどの程度反応しているかを確かめる目的で用いられます。)を同定したと報告が行われました。この研究グループの研究方法は、肝細胞がんの治癒切除症例を対象として、難治性がんの再発様式を解明して、DNAマイクロアレイ(DNAチップとも呼ばれ、細胞内の遺伝子発現量を測定するために、多数のDNA断片をプラスチックやガラス等の基板上に高密度に配置した分析器具のこと)によって分子生物学的意義を検証しています。

オーロラキナーゼに新たな分子標的治療として有効性が明らかに

オーロラキナーゼとは、細胞分裂を司る酵素群ですが、肝細胞がんの難治性再発の規定因子としてこのAurora kinase B(オーロラキナーゼ)を同定し、新たな分子標的治療として有効である可能性が明らかとなりました。症例によっては非がん部の遺伝子発現パターンが重要であることも分かりました。肝がんは基礎疾患として慢性肝疾患や肝硬変を有していることが多く、いったん根治的に切除しても新規の発癌を起こして再発することも多くありますが、このような症例を多中心性発がんといいます。この多中心性発がんには、非がん部における酸化ストレスの動きがあることが示唆されています。 規定因子の特定には疫学とも呼ばれる統計学の手法を主に使用します。オーロラキナーゼの同定と分子標的薬(キナーゼ阻害薬)の開発にも統計を使った試験などが繰り返し行われています。新たな薬に対する期待に応えながらも、安全性も考慮した開発が進められています。

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