【特集記事】肝疾患の早期発見が肝がんを防ぐ

最先端がん治療紹介の編集方針について

「再発転移がん治療情報」では、がん治療に精通した医師の方へのインタビューや学会、患者会ほか独自の取材を通して、新しいがん治療情報を随時ご提供しております。手術、抗がん剤、放射線治療と言った標準治療の中でも最新の治療法や、免疫療法や漢方など注目の治療法を取り上げていきます。また、このサイトでは特に進行がんやがんが再発・転移された方に有用と思われる情報を掲載していきたいと考えております。
がん治療に関するニュースや情報サイトは他にもたくさんありますが、再発・転移がんに特化したものは少なく、また、毎日更新される膨大な情報をチェックし、ご自身の治療に役立つものをピックアップしていくことは容易ではありません。
本サイトでは、再発・転移がんの治療を対象としたトピックをどなたにも分かりやすくお伝えし、治療を必要とされる患者様へ新しい選択肢をご提供したり、前向きに治療に取り組むお手伝いが出来るサイト作りを目指しております。

公開日:2012年8月31日
財団法人船員保険会せんぽ東京高輪病院長
昭和大学藤が丘病院 消化器内科 客員教授
浄土宗松光寺住職

与芝 真彰(よしば しんしょう)先生

世界消化器学会メンバー、国際肝臓学会メンバー、米国肝臓学会メンバー、日本内科学会認定医/指導医、日本消化器病学会総会専門医/指導医/関東地方会名誉会員、日本肝臓学会総会専門医/指導医、日本肝移植研究会特別会員、日本腹部救急医学会名誉会員(第44回総会会長)、日本門脈圧亢進症学会特別会員/機関誌編集委員、日本成人病(生活習慣病)学会評議員、日本アフェレシス学会評議員、独立行政法人医療機器総合機構専門委員、神奈川ウイルス肝炎セミナー顧問、神奈川肝癌研究会代表世話人、「肝不全と栄養」代表世話人、「臨床医のための肝臓病理」代表世話人、高輪ウイルス肝炎フォーラム代表世話人、東京・神奈川劇症肝炎研究会代表世話人
1970年3月東京大学医学部医学科卒業、1970年5月第49回医師国家試験合格、1970年4月東京大学医学部付属病院第一内科入局、1971年4月三井記念病院内科、1986年4月昭和大学医学部助教授(藤が丘病院内科)、1987年4月東京大学医学部非常勤講師(1992年3月まで)、2001年10月昭和大学藤が丘病院消化器内科教授、2003年5月昭和大学藤が丘病院副院長、2004年5月~平成19年10月昭和大学藤が丘病院長、2009年4月財団法人船員保険会せんぽ東京高輪病院長

肝臓がんの種類と原因〜B型・C型肝炎の特徴

肝臓がんはまず大きく2種類に分けられます。それは肝臓内の中の細胞ががんになる「原発性肝がん」と、他の臓器のがんが転移してくる「転移性肝がん」です。転移性肝がんで一番多いのは消化器系の臓器からで、胃や大腸などの癌が門脈血を通して肝臓に転移することが最も多く見られます。他にも乳癌、肺癌の転移も見られます。ただ肝がんと言えば基本的に原発性肝がんのことを指します。

原発性肝がんはさらに2つに分けられて、肝細胞から出る「肝細胞がん」と胆管細胞から出る「胆管細胞がん」があります。肝細胞がんの原因は、わが国ではほとんどがB型かC型のウィルスの感染です。胆管がんは膵臓から出る膵液が胆管に混入したり、硬化性胆管炎という病気などが原因になると考えられています。

ここでは主に肝細胞がんについてお話しましょう。C型肝炎ウィルスを保有している人(キャリア)は約200万人おり、25%ほどが発がんするといわれています。多いと言われている胃がんでも10万人に50人位ですから、C型肝炎ウィルスを持っている人は高い確率で発がんすることがわかります。C型では肝硬変の人かそれに近い慢性肝炎の人でGOT,GPTの高い人でリスクが高いと言われています。B型のほうはキャリアが約150万人おり、この場合はC型と同様ですが、更にウィルスを大量に保有している人ほど発がんリスクが高いとされています。肝細胞がんは、ウィルスのほかにアルコールアフラトキシンというかびの毒性や、「ヘモクロマトーシス」という先天性の病気が原因のこともありますが、これらは稀です。

我が国の肝がんの原因の人数比を見ると、C型:B型:アルコールや原因不明=7:2:1となっています。日本人は圧倒的にC型が多いわけですが、その背景には1950年代に盛んに行われていた輸血に関係があります。結核の手術で輸血を受けてC型の肝がんになった人が非常に多いのですね。また、フィブリノゲンという血液製剤の薬害によってC型肝炎を発症したケースもあり訴訟になりました。いわゆる薬害C型肝炎です。 ですから、C型肝癌の多いのは、わが国特有の現象で、他のアジア諸国はB型、西欧諸国はアルコールが多いとされています。

国内からC型肝炎がなくなる時代が来る

B型肝炎はワクチン接種で予防することができますが、C型肝炎には未だワクチンはありません。慢性B型肝炎の多くは4歳頃までに感染することで成立します(キャリア化)。このため最高裁判決で、母児感染以外は予防接種が原因とされました。C型は年齢に関係なく何歳で感染しても慢性化します。つまり、どの時点の何が原因になったのか特定できないのです。明らかな薬害ではそれが原因と特定できますが、それ以外は特定が困難なのです。

とはいえ、現在では新規にC型肝炎にかかる患者さんは、ほとんどいなくなりました。C型肝炎ウィルスが見つかって、輸血や血液製剤から排除できるようになったからです。B型はウィルス量が多いため、キャリアとの性交渉などで感染することがありますが、ウィルス量が少ないC型は稀な麻薬の日回し打ちや入れ墨以外は感染ルートがなくなったといってもいいでしょう。おそらく、あと30年も経つと日本からC型肝炎がなくなる時代が来るでしょう。

肝硬変になる前のウィルス駆除と肝機能正常化が重要

慢性肝疾患は発がんしますので、それを阻止することが最も正しい治療方針です。それができなければ、がんの早期発見です。C型では高齢者や肝硬変の方、GOT ・GPTが高いなど発がんリスクがあり、そのような方はこまめに検査を受けることが大切です。超音波検査や画像診断、AFP・PIVKAといった腫瘍マーカーの数値をよく見て、早めに手を打つことにしましょう。

B型肝炎では、一見治っているように見えていても発がんしてしまう場合があるため特に注意が必要です。中国での大規模研究でも、肝機能が正常でも血中ウィルスが多ければ発がんすることが明らかになっています。また、B型肝炎はウィルスを排除できませんから、「バラクルード」という薬でウィルスを抑える治療することが推奨されています。但し、ウィルスの増殖を抑えられたとしても、肝硬変になってしまうと約2割の方は発がんしてしまいます。

C型肝炎の場合も同様で、ウィルスを排除しても肝硬変になると約2割の方が発がんします。C型は、段々病気が進行して肝硬変が近い状態になり、肝がんになりますから、肝硬変になる前にウィルスを排除(SVRという)するか、GOT ・GPTといった肝機能を正常化していくこと(SBRという)が大切です。肝機能が正常であれば、ウィルスを保有していてもほとんど発がんしません。

ラジオ波焼灼療法が第一選択肢になる場合も

いざ、肝がんになってしまった場合の治療法についてお話しましょう。もっとも効果が高いと言われているのは外科手術か、ラジオ波焼灼療法(RFA)です。がんを切除してしまうことが、何より根治に近づくことは疑いがないところです。ただ、開腹手術は患者さんの負担が大きいと同時に合併症のリスクもあります。またがんが大きかったり、数が多かったりすると切除にも限界があります。また再手術も一般に困難です。そこで普及してきたのがRFAです。

RFAとは、電極のついた針をがん刺して周波数の低いラジオ波を流し、100℃前後の熱でがんを焼いてしまう方法です。患者さんの身体的な負担が少なく、効果も高いとして、最近では第一選択肢として採用するケースも増えてきました。
ただ、ラジオ波にも弱点はあります。高熱を利用して上げてがんを焼く仕組みですから、36℃の血液が流れている大きな血管のそばは熱が上がらず効果が発揮できないことがあります。また、がんが大きすぎたり、数が多かったり、場所が中心部の場合もラジオ波の苦手とする症例です。通常は単発なら5cm、多発の場合は3cm×3個が目安であるといわれています。がんの部位や数などに応じて適した治療法を選ぶことが大切です。

肝がんで頼れる化学療法・免疫療法

肝がんが難しいといわれるのは、最初のがん治療に成功しても再発するところです。「5年生存率」ががん治療の指標になるように、多くのがんは手術から5年が経過すれば、ほぼ治ったものとみなされます。ところが肝がんは大体1年くらいで、再発することが多いのです。

再発の阻止に関しても、やはりC型ではウィルスの排除が原則になります。B型肝炎の場合もパラクルートでウイルス増殖を抑えることよって、再発率はかなり抑えられることになります。残念ながら再発してしまった場合は、RFAの再治療の他に、使った「肝動脈科学塞栓術」(TACE:Transcatheter arterial chemoembolization)という治療を行うことが多いのです。TACEは、塞栓物質と薬剤を混ぜたものを、細いカテーテルを使ってがんに近い肝動脈に投与する方法です。がんに栄養や酸素を送っている血管を物理的に塞ぐことと薬剤の効果で、やがてそのがんは壊死するという仕組みです。TACE単独かRFAと組み合わせた複合治療として効果をあげます。

TACEの効果が不十分な場合や腫瘍が更に拡大した場合は、「動注療法」といって抗がん剤を動脈から直接流す治療法が行われます。点滴や内服などによる抗がん剤投与に比べ、動脈に直接投与するわけですから少ない使用量で高い効果が期待することができますが実際は限界があります。
これらの治療法効かない場合は、分子標的薬の「ソラフェニブ」を使うことがあります。ただ、この薬は副作用が強く、肝機能を悪化させて肝不全を起こすリスクが高いため、慎重に使用しなくてはなりません。効果としても根治できるわけではないので、継続して使うというよりは術前や術後の化学療法として使用したほうがよい場合もあります。

その他の治療法としては、最近盛んになっている免疫療法があります。現段階では公的保険の承認がとれていませんが、治療に取り入れる患者さんは増えていますし、実際に効果が認められた症例もあります。私はこれまでの経験から肝臓がんでも生存期間を延ばす効果はあると思います。ただ、長期にわたって継続すると癌細胞表面の抗原性が変異して効果が低くなる可能性もありますから過度な期待はできません。今後はもっと大規模研究を行い、どのくらい効果があるかを科学的に証明することが課題になるでしょう。

一日一日を大切にし、自分の「生」に責任を持つ

私は港区高輪にある浄土宗松光寺の第20世の住職もしています。医師であり僧侶でもある私が言えることは、「常に死を意識して生きなさい、それによりその日1日、1日を大事にしなさい」ということです。それが、仏教が教えていることです。加えて、自分の身体が何を言っているのかに耳を澄ませることです。人間の身体はなにか異状があれば必ず何かメッセージを発しています。その声を聞きとって、すぐに検診したり治療したりすることが自分の生に対して責任を果たすことだと、私は考えています。要するに早期発見、早期治療です。手遅れの人はせっかくの自分の体から発する信号に鈍感だったり、無視している人が多いように思います。

多くの患者さんは、医療に対してあまりに期待しすぎている面があります。医師に「お願いします」と体を預けてくれるのは良いのですが、言葉を変えれば医療に過度に依存しているとも言うことができます。医療は万能ではありません。もう少し、自己の生に対して自己責任をもつことも必要だと思います。
かつて、人間は誰しも自然に死を迎えていました。だいたい8割の高齢者は自宅で亡くなっていましたが、それほど昔ではないんですよ。私の祖母も自宅で亡くなりました。開業医だった父親が看取りましたが、終末の際も今のように高度な医療は行いません。ただ見ているなかで祖母は苦しみもせず静かに自然に亡くなりました。

日本はあまりにも恵まれて、自然死がどんどん減ってしまいました。さまざまな医療で病気が治るのは喜ばしいことです。しかし、もう回復する可能性がない患者さんにとっては胃瘻や延命装置をつけて生かされることは果たして幸せなのか、問い直してみる時代に来ているのではないでしょうか。日本人は無理に作られた長寿記録を誇るより、本当はどう生きたいのか、どんな最期を望んでいるのか、もっと自分自身の真実の声を聞くことが大事です。この世の生にこだわるより、来世を信じて尊厳ある死を迎える選択も認められてよいと思います。生きていることにも、死ぬことに対しても自分で責任を負う。そうした日ごろの心掛けにこそ、人間本来の美しさが宿るのではないでしょうか。