正しくがんを知ろう-再発・転移性胃がん ガイドライン解説

公開日:2011年06月06日

目次

TNM分類に基づく治療法

以上のTNMのデータを基準に、臨床の現場では下記の流れで治療法が決められます。

##チャート脚注 ※分化型とは、がん細胞の形や並び方が、胃がんや腸の粘膜構造を残したがん。

治療の選択にあたっては、まず遠隔転移があるかどうかで大きな違いがあります。遠隔転移があると、積極的な手術は行わずに化学療法などを選択するのが標準的です。また、遠隔転移がない場合は、深達度によって手術の方法が変わります。深達度が高いほど、大掛かりな手術を行うことになるのです。 それぞれの治療法について順番に解説しましょう。

EMR(内視鏡的粘膜切除術)、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

どちらも口から入れた内視鏡でがん細胞を切除します。リンパ節に転移していない早期のがんに行われる方法です。

リンパ節郭清

がん細胞が転移したリンパ節、あるいは今後、転移しそうなリンパ節を摘出することです。摘出範囲が狭い順にD1、D1+、D2と言います。

普通の手術(定型手術)

胃がんの治療でよく行われる手術で、胃の2/3以上の切除と、D2リンパ節郭清を行います。多くの場合、胃の出口のほうを切除し、残った胃と腸を縫い合わせます。状態によっては、胃をすべて摘出することもあり、その場合は、食道と腸をつなげて縫い合わせます。

非提携手術

胃の切除範囲やリンパ節郭清の範囲が、定型手術と異なる手術のことで、「縮小手術」と「拡大手術」の2つがあります。 縮小手術は、リンパ節郭清の範囲が小さい手術(D1またはD1+)もしくは、胃の切除範囲が1/3以下の手術です。胃を小さく切除することで、胃の出口である「幽門」を残すことができ、食べ物の逆流を防ぐなどのメリットがあります。 一方、拡大手術は、がんが転移した近くの臓器(膵臓、脾臓や大腸、肝臓の一部など)をいっしょに切除(合併手術)したり、予防的に遠くのリンパ節も郭清する(拡大郭清)ことを言います。合併手術は、遠くの臓器に転移がない場合に行われ、一定の効果があると言われますが、拡大郭清はそれほど効果がないとして、最近ではあまり行われていません。

化学療法(薬物治療、抗がん剤治療)

手術ができないほど胃がんが進んでいる場合、肝臓やリンパ節、腹膜などへの転移がなければ抗がん剤を使用します。初回治療としては「S-1」と「シスプラチン」という抗がん剤の併用が推奨されています。二次治療で使う抗がん剤は患者さんによってさまざまで、基本的には初回治療で使わなかった薬剤を単独または併用で使われます。腹膜転移の場合には、「メトトレキサート」と「5-FU」の併用、または「5-FU」の単独、「タキサン系薬剤」などの使用に効果があると報告されています。 しかし、抗がん剤だけで完全に胃がんを治すことは難しく、高齢者や全身状態のよくない患者さんには慎重に検討されます。場合によっては、胃がんを治すことではなく、症状を軽減したり、生存期間を延ばすために使うことになります。

放射線療法

高エネルギーX線を用いて、胃がんの病巣を小さくする治療です。「リニアック」という大型治療機器で身体の外からX線を照射します。効果は手術ほど確実でないため、今のところは痛みを取り除いたり、狭くなったところを広げる目的で行われます。

緩和手術

がんそのものを治す目的ではなく、症状を軽くする手術を「緩和手術」(姑息手術)と言います。たとえば、胃がんの腹膜再発が起こると、小腸や大腸にがんが増殖して食事がとれなくなってしまうことがあります。患者さんに体力があり、生存が期待できる場合は腸管にバイパスを作ったり、狭くなった部分を切除する手術を行います。 ただ、手術によって余計に状態が悪くなるリスクもあるため、緩和手術を行うかどうかは特に慎重に検討されます。

対症療法

身体を温める「温熱療法」などがあります。単独で根治に向かうための効果をあげることは難しく、抗がん剤と併用されます。

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