【特集記事】がんだけが持つ目印を利用する免疫療法「ネオアンチゲンがん免疫療法」とは?

公開日:2019年05月31日
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田口純一先生

遺伝子解析技術や免疫学の進歩によって、がん治療の分野でも新しい治療法の研究・開発が進んでいます。人が持つ免疫機能を利用してがんを治療しようとする「がん免疫療法」もそのひとつです。免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法などが日本でも承認される中、がん細胞だけが持つ目印を利用する、「ネオアンチゲンがん免疫療法」の研究・開発が、世界各国で進展しています。

このネオアンチゲンがん免疫療法について、がん免疫療法や個別化医療(プレシジョンメディシン)に取り組んでいる東京ミッドタウン先端医療研究所の田口淳一先生にお話しを伺いました。

目次

オプジーボによって証明された、がんを排除する免疫の働き

人間が本来持つ免疫の力を利用してがん細胞を攻撃する薬として承認されている、免疫チェックポイント阻害薬の1つ「オプジーボ(一般名:ニボルマブ)」。私たちの血液中の免疫細胞は、本来、がん細胞を攻撃して排除しようとする力を持っていますが、がん細胞は自分の身を護るために、免疫にブレーキをかけて巧みにその攻撃から逃れようとします。

オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞から発せられる「攻撃しないでいい」という信号を遮断して、がん細胞を攻撃するT細胞(免疫細胞のひとつ)などのリンパ球の本来の働きをサポートする薬剤であり、薬剤自体にがんを攻撃する力はありません。つまり、オプジーボががん細胞に効果を発揮するということは、人の体にもともと備わっている免疫細胞ががん細胞を攻撃するという機能があるからこそ、この薬の治療効果が期待できるということに他なりません。

免疫とは、自分の体には本来存在しないもの(異物)を見分けて排除しようとする仕組みです。がん細胞に対して免疫が働くということは、免疫細胞ががん細胞を「異質なもの」と認識したことになります。がん細胞も元々は自分の細胞ですが、元の自然な細胞と異なる点があるため、免疫細胞の攻撃対象になるのです。つまり、正常な細胞のときにはなかったものが、がん細胞になることで新たに発現したことを意味します。

ネオアンチゲンは、がん細胞にしか存在しない目印

ネオアンチゲンは、がん細胞にしか存在しない目印

現在行われている樹状細胞ワクチン療法などの免疫細胞療法は、がん細胞の表面に現れる、がんの目印となるタンパク質(抗原といいます)を標的に、T細胞をはじめとしたリンパ球にがんを攻撃させることを目指した治療です。

樹状細胞ワクチン療法をはじめとした免疫細胞療法で目印として利用している抗原は、当施設でも採用しているWT1ペプチドなどの人工的な抗原や、がん種ごとに異なる抗原を利用しています。例えば「CEA」や「PSA」といった、がん検診などでも使われる腫瘍マーカーもがん抗原の1つです。ただし、こうした抗原はがん細胞に多く発現するものの、正常な細胞にもわずかながら発現する抗原(共通抗原といいます)です。

例えば、消化器の病気や糖尿病、尿管結石が流れた場合などにもみられることがあります。尿管の細胞が傷ついただけで膵臓がんのマーカーであるCA19-9が一時的に大きく上昇したという事例もあります。これまでがん抗原と呼んでいたこれらの共通抗原は、正常な細胞にも何らかの炎症反応などで発現する場合がある、いわば「仮の目印」といえます。

一方、ネオアンチゲンはがん細胞にしか現れないことがわかっています。日本語では「新生抗原」「腫瘍特異的変異抗原」などとも呼びますが、これは、正常な細胞が、がん細胞になる過程で生じる遺伝子変異によって新たに生まれた抗原(変異抗原)のことで、がん細胞のみにみられる抗原です。

がん細胞は多くの遺伝子変異を伴っている細胞で、遺伝子変異が多ければ多いほどネオアンチゲンも増えると考えられています。ネオアンチゲンがん免疫療法は、がん細胞にしか表出しないこの新生抗原=ネオアンチゲンを免疫細胞に人工的に認識させて、働きを高めることでがん細胞のみを治療することを目指した免疫療法です。正常細胞が持っていない目印を標的とするため、理論上はがん細胞だけを攻撃することが期待できるため、副作用を抑えた治療を目指せます。

各国が開発にしのぎを削る、ネオアンチゲンを標的にしたがん治療

ネオアンチゲンがん免疫療法は、日進月歩のがん治療において、今後期待されるジャンルです。がんゲノム研究の進歩に伴い遺伝子変異について理解が進んだここ4~5年で各国での研究・開発も盛んになってきました。オプジーボをはじめとした免疫チェックポイント阻害薬の登場もインパクトがあったと思います。

ネオアンチゲンがん免疫療法は、個々の患者さんのがん細胞に生じた遺伝子変異から、ネオアンチゲンを特定することから治療が始まります。取り出した患者さんのがん組織を調べ、正常ではないタンパク質が見つかれば、その中からがん抗原となるネオアンチゲンを特定します。ただし、候補となる異常なタンパク質は数千種類にも及ぶことがあり、当然ながら目で見てわかるはずはなく、特定するには多大な労力を要します。そこで現在、多くの医師・研究者がAIを使い、標的となるネオアンチゲンを予測する仕組みを開発しています。まだ研究段階ではありますが、今後、特定の精度は上がっていくでしょう

ネオアンチゲンを特定することができれば、治療や検査への応用も期待できると思います。例えば樹状細胞ワクチン療法と組み合わせ、がん抗原(ネオアンチゲン)を覚えさせた樹状細胞にリンパ球を教育させて、がん細胞を攻撃するという治療法なども考えられます。あるいは、ネオアンチゲンに反応するT細胞が患者さんの中にあれば、それを解析して遺伝子改変T細胞を人工的に作って投与する、いわゆる「CAR-T細胞療法」への応用も有効かもしれません。これ以外にも、ネオアンチゲンをターゲットにした様々な治療法の開発に各国がしのぎを削っており、アメリカや中国ではすでに治験を開始しているものもあります。

ネオアンチゲンがん免疫療法の今後の課題

ネオアンチゲンがん免疫療法の今後の課題

ネオアンチゲンがん免疫療法は、がん細胞にしか現れないがん抗原を攻撃対象にしますから、理論上、抗原の量が多いほど治療は効果的だと考えられています。例えば、皮膚のがんである悪性黒色腫(メラノーマ)はネオアンチゲンの総量が多いことがわかっており、こういったがんを中心に幅広く活用できるよう、これからもさまざまなアプローチが求められるでしょう。

問題は他にもあります。実は、同じ患者さんのがんであっても、がん細胞の性質はひとつだけではないということです。仮に3か所でがんが生じたとすると、それぞれが同じ性質を持ったがん細胞とは限らず、どこか1か所から採ってきたがん組織を使ってネオアンチゲンがん免疫療法を実施したとしても、ある部分には効いても他では効果がないという可能性がありえます。

私どもは、血液や唾液、尿などから、がんの遺伝子を解析し、治療法の選択に役立てる「リキッドバイオプシー」も行っていますが、血液中に流れているがん細胞全体を見ても、性質の違うがん細胞がいつも数種類見つかり、ひとつであることはレアケースです。

また、化学療法ががん細胞の性質を変化させることも分かっています。抗がん剤が効かないタイプの細胞が残ったり、抗がん剤に耐えうるような新たな遺伝子変異を起こした細胞が増殖したりすることが理由です。

そのため、化学療法と併用する場合は、がん細胞の変化を確認しながら治療を行うなどの検討も必要になるかと思います。将来的には、前述のリキッドバイオプシーを使ってがん細胞を解析し、変化が生じていた場合に新しい組織を使って治療を行うといった治療スキームも考えられると思います。

一方、手術や放射線治療ではがん細胞の性質変化は起こりにくいことがわかっており、手術や生検で採ったがん組織を使って、治療の直後に再発予防を目的としてネオアンチゲンがん免疫療法を取り入れる方法なども考えられます。
どのように治療に応用するかの検証は、まだまだ必要だと思います。

他の医療・研究機関との連携が実用化に向けてのカギ

ネオアンチゲンがん免疫療法の実用化に向けて重要なことは、ひとつの組織・機関ではなく複数が協力し、共通の方法でデータをひとつに集め、効果の判定を行うことです。

ネオアンチゲンをターゲットにしたがん免疫療法はこれからの治療法ですが、理論的には有効性が期待できる治療法です。今後、当施設でも研究を進めていく予定ですが、外部と連携をとりながら共通の方法で治療を行い、コンソーシアムとしてデータを蓄積しながら治療確立に向けて取り組んでいきたいと考えています。

ポイントまとめ

  • ネオアンチゲンとは、がん細胞だけが持つ目印で、治療に応用することで、理論上がん細胞だけに治療する期待できる。
  • ネオアンチゲンの特定にはがん組織が必要で、手術や生検などでがん組織が採れるかが課題。
  • 実用化に向けて重要なことは、複数の組織・施設が共通の方法で治療を行い、データをひとつに集め、効果の判定を行うこと。

取材にご協力いただいたドクター

田口 淳一先生

田口 淳一 (たぐち じゅんいち) 先生

一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 代表理事
東京ミッドタウンクリニック院長
東京ミッドタウン先端医療研究所 所長

主な資格・略歴など
日本内科学会総合内科専門医
日本循環器学会循環器専門医
日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
東京医科歯科大学 難治疾患 研究所 非常勤講師
日本人間ドック学会 遺伝子検査に関わる検討委員会 委員長
東京医科大学 客員教授
日中医学交流センター 理事 他

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