- 再発転移がん治療情報
- 免疫療法
- 【最新医療】がん細胞が免疫から逃れる仕組みを解明 京都大学ほか
【最新医療】がん細胞が免疫から逃れる仕組みを解明 京都大学ほか
目次
京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学の小川誠司教授らの研究グループは、生体に本来備わっているがんに対する免疫監視をがん細胞が回避する新たなメカニズムを解明しました。今後、抗 PD-1 抗体や抗 PD-L1 抗体による免疫チェックポイント阻害薬による治療が有効な患者さんを判別する有用なマーカーになる可能性があるといいます。
生体に本来ある機能でがんを抑制する
生体には、本来がん細胞を除去するための免疫監視のメカニズムが備わっていて、がんの発症が抑制されています。さまざまな免疫担当細胞によってがん免疫は担われていますが、なかでも直接的にがん細胞の殺傷に関わる細胞障害性T細胞(CTL)は、がん細胞に特異的に発現する多様な分子を認識し、がん細胞を殺傷しています。
PD-L1は、がん細胞に発現する代表的な「免疫チェックポイント」分子の1つです。免疫チェックポイントは、免疫が過剰な攻撃をつづけたりしないようにブレーキをかける役割を担っています。がん細胞ではPD-L1がCTLに発現するPD-1分子に作用して、CTLの働きを抑制することでがん細胞が攻撃から逃れることができると考えられています。
抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体は、がん細胞によるこの免疫回避の仕組みを妨げることによって、がん細胞が免疫細胞に認識され、抗腫瘍効果を発揮します。生体にもともと備わっているがん免疫を再活性することによって、抗腫瘍効果を得る治療法なのです。
近年開発されたニボルマブのような抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体が、悪性リンパ腫や肺がん、悪性黒色腫などの多くのがん種に対して臨床効果を示しています。
しかし、がん細胞がどのようにして免疫チェックポイント分子を活性化するかについては、十分にはわかっていませんでした。また、免疫チェックポイント阻害薬は薬価が高額なため、治療効果を正確に予測し効果の期待される症例に選択的に治療を行うためのバイオマーカーの開発が待たれていますが、現時点で臨床的に有用なバイオマーカーは見出されていません。
図:がん細胞の免疫回避の仕組みと免疫チェックポイント阻害薬の標的
がんの免疫回避には、遺伝子の特定領域の異常が重要な役割
研究グループは、33種類の主要ながん種を含む1万例を超えるがん試料のゲノム解析データについて、スーパーコンピュータを用いた大規模な遺伝子解析を行いました。
肺がん、胃がん、食道がん、大腸がん、腎がん、膀胱がん、子宮頸がん、子宮体がん、 頭頸部がん、悪性黒色腫、B細胞リンパ腫など、主要ながん種の多くで、代表的な免疫チェックポイント分子の1つであるPD-L1蛋白をコードする遺伝子の異常が生じた結果、その遺伝子発現が著しく上昇していることが明らかになりました。
PD-L1遺伝子の発現異常は、「3′非翻訳領域」と呼ばれる、蛋白質に翻訳されない部分の異常が原因で起こります。正常な3′非翻訳領域が失われる結果、PD-L1の遺伝子発現が上昇するという、新しいタイプの遺伝子異常です。また、がん細胞を含むさまざまな細胞で、最新のゲノム編集技術を用いてPD-L1の3′非翻訳領域に構造の異常を生じさせることによって、PD-L1の発現が顕著に上昇することが確認されました。
さらに、PD-L1遺伝子が顕著に発現したがん細胞は、免疫による監視を回避して増殖することがわかりました。また、抗PD-L1抗体によって増殖が阻害されたことから、PD-L1遺伝子に異常をもつがんでは、免疫チェックポイント阻害薬による治療が有効である可能性が示唆されました。
治療の効果予測への応用に期待
今回の研究によって、PD-L1遺伝子の異常によりPD-L1の遺伝子発現が上昇し、がん細胞が免疫を回避するというメカニズムが解明されるとともに、 PD-L1 遺伝子の発現調節において、3′非翻訳領域が重要な役割を担っていることが明らかになりました。
PD-L1遺伝子の3′非翻訳領域に異常のあるがん細胞は、積極的にがん免疫を回避しており、抗 PD-1抗体および抗PD-L1 抗体などの免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待される人を判別する遺伝子マーカーになる可能性があります。
今回の研究成果を踏まえ、3′非翻訳領域に異常をもつがんに対して、抗 PD-1抗体および抗PD-L1 抗体を用いた免疫チェックポイント阻害が、臨床効果を示すかどうかを臨床試験によって検証することが今後の課題です。3′非翻訳領域の異常はヒトのがんで最もよくみられる構造異常の一つです。実際に顕著な臨床効果が確認された場合には、この異常をバイオマーカーとして用いた分子標的治療が実現する可能性もでてきます。
関連記事
※掲載している情報は、記事公開時点のものです。