【特集記事】がんの治療効果を高める鍵:免疫抑制の改善

公開日:2013年12月30日
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目次

はじめに

 ヒトの体内では日々数千個のがん細胞が生まれ、そのほとんどはヒトが本来備えている防御機能“免疫”が働くことで、いわゆる「がん」にはならないことが知られています。この免疫が適切に働くことががんの治療、さらには再発・転移を防ぐのにも重要であると言われています。

 免疫を高めてがんに対処することは非常に大きな期待が持たれていますが、一方でがん患者さんの体内では免疫が働くのを阻害する免疫抑制が存在することも明らかになってきました。がんに対処するため、免疫を上手にコントロールする方法はあるのか。臨床現場で長年がんに対する免疫の研究をされてきた柴田先生にお話を伺いました。

がんに対する免疫力を弱める「免疫抑制細胞」

 近年がんと免疫に関する研究が進み、がん細胞を攻撃する免疫細胞が、がん患者さんの体の中にも確かに存在することがわかってきました。そこで、このがん細胞を攻撃する免疫細胞を増やして、がんを抑え込む治療方法として、がんワクチン療法などの新しい免疫療法も開発されています。

 しかし、これまでのところこれらの免疫療法は十分な治療効果が示されているとまでは言えないのが現状です。わたしたち専門家は、このように十分な効果がみられないのは、そもそも患者さんの体内は、がんに対する免疫が働きにくい状態「免疫抑制状態」になっているからだと考えています。

 この免疫抑制状態を引き起こす主な原因として注目されているのが、「免疫抑制細胞(制御性T細胞や骨髄由来免疫抑制細胞)」と呼ばれる細胞です。免疫抑制細胞はがん細胞を攻撃する免疫細胞が増えたり活性化するのを抑えて、がんに対する免疫力を弱めてしまうのです(図1)。患者さんの体内にある免疫抑制細胞の量が、患者さんの生存率と関連があるという研究成果も報告されています。

特集記事201401_図1

免疫抑制細胞が少ないと生存率が高い

 わたしたちも、この免疫抑制細胞に注目し、様々ながん患者さんの抹消血液中の免疫抑制細胞の割合と予後との関係について研究を進めてきました。その結果、大腸がんなど多くの固形がんの患者さんで免疫抑制細胞の割合が多くなっていることを明らかにしてきました。

 また、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、胃がんの患者さんについての研究結果を報告しました。この研究では、胃がんステージIVの患者さんの2年生存率が、免疫抑制細胞の割合が少ない患者さんで良かったということがわかり、学会に参加していた多くの医師がわたしたちの研究成果に強い興味を示してくれました(図2)。免疫抑制細胞の数が少ない方では、がんを攻撃する免疫細胞もきちんと増えて働き、生存率が良くなったのだと考えています。

特集記事201401_図2

免疫抑制状態を改善して、本来備わっている免疫力を高める医薬品の開発が進んでいる

 がんの治療成績を高めるためには、できるだけ免疫抑制状態を改善して、免疫細胞がきちんと働ける状態にすることが大切と考えられます。この考え方に基づいて、新しい医薬品の開発も進められています。そのなかで2011年にイピリムマブという抗体薬が、進行期の悪性黒色腫の生存率を高める薬として米国で承認されました。

 この薬は、免疫抑制細胞を直接減らすわけではありませんが、がん患者さんの免疫抑制状態を改善することで、うまく働けなくなった免疫細胞の働きを取り戻す作用を持っています。そして、働ける状態に回復した免疫細胞ががん細胞を攻撃することで、生存率が高まると考えられているのです。同様な薬として他にも、PD-1やPD-L1抗体という抗体薬で、非小細胞肺癌・腎細胞がんなどを対象とした第1相試験も行われています。

 現在のところ、こうした薬は日本では承認されていません。また、仮に日本で承認されたとしても、しばらくは限られたがん種の患者さんにしか使用することができず、かつ高額の費用を要してしまう可能性があります。

免疫抑制細胞を少ない状態に保つシイタケ菌糸体

 抗体薬以外にも免疫抑制を改善する天然由来の有用成分として研究が積み重ねられているものがあります。“シイタケ菌糸体抽出物”です。シイタケで普段食べる部分は子実体(しじつたい)と呼ばれますが、この子実体より下に生えている肉眼では白い糸状に見える部分を菌糸体(きんしたい)と呼びます。菌糸体が栄養を溜め込み成長がピークに達すると、シイタケは子実体を作り出すので、菌糸体は子実体の母体のようなものと言えます。

 シイタケ菌糸体抽出物(以下、「シイタケ菌糸体」と記載)は、シイタケ菌糸体を固形培地で長期間培養して、エキスを抽出したもので、β―グルカンの他、α―グルカン、アラビノキシランなど様々な免疫調節物質を含んでいることが知られています。 このシイタケ菌糸体をがん細胞を移植したマウスに投与すると、シイタケ菌糸体を投与しなかったマウスでは、免疫抑制細胞(制御性T細胞)が増加したのに対し、シイタケ菌糸体を投与したマウスでは、免疫抑制細胞が少ない状態に保たれて、がんの増殖も抑えられたという結果が報告されています(図3)。

 また、がんの再発予防ステージのがん患者さんにシイタケ菌糸体を摂取してもらい、摂取前後の免疫状態を測定したところ、免疫抑制状態が改善したという研究結果も報告されています。 シイタケ菌糸体などで患者さんの免疫抑制状態を改善できるようになれば、抗がん剤・手術・放射線治療を受ける患者さんにとってもメリットがあると考えています。

特集記事201401_図3
シイタケ菌糸体についての詳しい情報はこちら

取材にご協力いただいたドクター

柴田教授

柴田 昌彦 教授

埼玉医科大学国際医療センター
消化器病センター
消化器腫瘍科

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