【最新医療】免疫医療の進歩を知る

公開日:2013年08月30日

目次

免疫療法には4つの目的がある。

現在のがん治療の3本柱である手術療法、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法を組み合わせて、患者さんの目的に合わせて症状をコントロールしていくことを集学的治療と呼んでいます。そして近年では、この手術療法・放射線療法・薬物療法に加えて免疫療法をプラスして選択肢を広げることができるようになってきました。がんに対する免疫療法は、身体の機能である免疫細胞の働きを利用してがん細胞を攻撃する治療法です。これまでの集学的治療を補完する役割として期待されています。免疫療法の目的は化学療法と同じように

 ・がん細胞を死滅させて治癒を狙う
 ・手術後の再発を抑制する
 ・手術前に投与してがんを小さくする
 ・がんの進行を遅らせる

の4つに絞ることができるでしょう。化学療法で使われる抗がん剤と比較してみると、免疫療法は自分の身体にもともとから存在している自己免疫細胞を使うために副作用が少ないと報告されています。

免疫療法はがん細胞を集中的に攻撃できる時代に突入

がんに対する免疫療法は1960年代後半から研究が始まり、その後は第1世代(1970年代)の細菌・キノコ由来の免疫療法剤、第2世代(1980年代)のサイトカイン療法、細胞を治療に応用した第3世代(1980年代)の活性化リンパ球療法(NK細胞療法などの非特異的免疫療法)、そして第4世代(1990年代)のがん免疫細胞療法である樹状細胞療法をはじめとする特異的免疫療法などがあります。第3世代までの免疫療法は、非特異的免疫療法といわれ患者さんの免疫力の底上げをするものでしたが、第4世代の樹状細胞ワクチン療法などは、特異的免疫療法といわれ、がん細胞に絞って集中的に攻撃することが研究されています。

樹状細胞ワクチン療法

免疫療法02人間の免疫システムは「自然免疫」と「獲得免疫」の2段階に分けて捉えることができます。自然免疫とは人間が生まれながらにもっている目・鼻・口などの粘膜や皮膚のことです。鼻水やたんなどの粘膜が外から入ってくるワルモノを排除する仕組みになっています。しかし自然免疫だけではワルモノを全て退治できるわけではありません。自然免疫で退治できなかったワルモノは獲得免疫によって退治するような仕組みになっています。

獲得免疫の仕組みは樹状細胞と呼ばれる“見張り役”がワルモノを見つけると、“攻撃部隊”であるT細胞などに発見を知らせます。知らせを受けた攻撃部隊はワルモノを撃退するように働きます。このような仕組みをがん治療に応用したものが特異的免疫治療である樹状細胞療法なのです。実際の治療では、まず患者さんから採血して樹状細胞を生成します。生成した樹状細胞にがん組織(抗原)を認識させリンパ球に覚え込ませます。

こうすることで、特異的に狙ったがん細胞だけを攻撃することができるようになります。(がん組織の抗原を特定するためには、手術の時などにがん細胞を採取しておく必要があります。)自分自身の免疫力を高めることが治療方法となっているので、現在は重い副作用は報告されていません。さらに、現在、標準的に行われている治療とも併用が可能となっています。

WT1ペプチド

樹状細胞療法では、その樹状細胞に攻撃指標であるがん組織(抗原)を覚えさせる必要があるために、事前に手術などでがん細胞を採取してとっておくことが必要だったり、病状の進行により手術ができない状況だったりすると、治療ができないことがありました。これを解決するために、人工的にがん抗原を合成するがんペプチドの種類が発見されていきました。

中でも、大阪大学大学院教授である杉山治夫先生などの研究により「WT1ペプチド」と呼ばれる人工抗原の存在は世界でも有数ながん抗原として研究がつづけられていて、臨床にも応用されるようになっています。WT1ペプチドは、ほぼすべての固形がん・血液がんで発現していることが明らかになっています。WT1ペプチドを樹状細胞療法に用いることで、自己がんの細胞採取ができなかった患者さんに対しても樹状細胞療法を行えるようになりました。

効果と費用をよく検討しましょう。

免疫療法の研究は様々な臨床での結果(データ)を集めている段階と言えます。免疫療法をおこなっている各クリニックでは個々の症例として腫瘍が小さくなったり、目に見えなくなるまで小さくなることもあるのですが、免疫がどのように作用したかが解明されて、他の人にも同じように作用するように再現性を高めるには至っていません。

しかし、がん抗原の発見は大きな進歩といえ、この抗原(狙える的)によってがん細胞だけを集中的に攻撃することができるようになってきました。今後の研究では解明が進むことが期待されています。現在の免疫治療では、集学的治療によって手術療法・放射線療法・化学療法と組み合わせることで効果を高めることが期待されていますので、免疫療法を受ける際には医師と効果と費用など十分に相談をして進めましょう。

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