【最新医療】樹状細胞の源となる細胞の発見で、免疫治療の促進に期待

公開日:2013年05月31日

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500~1000個の樹状細胞を生み出す細胞

201306_02がんの免疫療法は日進月歩の進化をたどっています。今年4月、東京医科歯科大学難治疾患研究所の樗木(おおてき)俊聡教授は、がんワクチンなどの開発に用いられる「樹状細胞」を生む新たな細胞「形質細胞様DC多産型 前駆細胞」を発見しました。
樹状細胞は、司令官のような役割を持ちます。病原体と戦う免疫細胞に抗原(病原体の目印)を教えて、活性化させてくれるのです。樗木教授が見つけた「形質細胞様DC多産型 前駆細胞」は、その樹状細胞の「親」となる細胞です。
樹状細胞には、「従来型樹状細胞」と「形質細胞様樹状細胞」の2種類があります。どちらも免疫細胞の調節に大切ですが、とりわけ形質細胞様樹状細胞は高い機能を持っています。ウイルス排除などに重要で、がん治療にも用いられるI型インターフェロン(たんぱく質の一種)を大量に生み出す特徴があるのです。
これまでの研究でも、従来型樹状細胞を量産する細胞は見つかっていましたが、今回見付かったのは形質細胞様樹状細胞を作り出す能力に優れた細胞で、東京医科歯科大学の発表では「形質細胞様DC多産型」前駆細胞と呼んでいます。1個から500~1000個の樹状細胞を生み出すことができるため、がんや感染症、自己免疫病に対する新たな予防法・治療法の開発に弾みがつくことが期待されています。

3種類の樹状細胞療法の違いとは

現段階でも、樹状細胞を用いたがん治療は行われています。特に注目されているのが、「樹状細胞ワクチン療法」です。培養した樹状細胞を患者さんに注射し方法で、全国のクリニックで自由診療として提供されているほか、複数の大学で臨床研究が進められています。

樹状細胞ワクチンには、下記の3種類があります。
(1)「自己ワクチン」……手術で摘出されたがん組織を使用
(2)「人工抗原樹状細胞ワクチン」……人工的に作ったがん抗原を使用
(3)「局所樹状細胞ワクチン」……血液を培養して活性化した樹状細胞をがんに直接注入

どのワクチンが適用されるかは、患者さんの状態によって異なります。
まず、(1)自己ワクチンは、がん組織そのものが必要になりますから、これから手術をして必要量のがん組織を採取できる患者さんに限られます。今後、手術の予定のない患者さんや、手術で十分な量のがん組織が採取できない患者さんは適用することができません。 そうした場合は、(2)人工抗原樹状細胞ワクチンが選択肢となります。人工抗原とは、免疫細胞が標的とする目印を人工的に合成したもので、様々な種類があります。患者さんのがんと同じ目印の人工抗原を使えば、効果的にがんと戦うことができます。逆に言うと、目印の一致しない抗原を使っても、あまり有効性はないわけですが、「WT1ペプチド」を使うことでその心配を回避できる場合があります。

「WT1」は、肺がん、乳がん、大腸がんといった固形がんはもちろん、白血病など血液のがんも含め、ほぼすべてのがんに対応できる人工抗原です。大阪大学大学院の杉山治夫教授によって発見され、その効果は、海外からも高い評価を得ています。米国癌研究会議(AACR)の学会誌『Clinical Center Research』(2009年15巻5323~37頁)では、75種類のがん抗原の中で最も優れているとされました。
このWT1を使った「WT1ペプチドワクチン」は、がん種を問わず、手術ができない状態でも使える樹状細胞ワクチンとして、多くの医師が支持しています。日本でも杉山教授が中心となった国際WT1会議が開かれています。WT1ペプチドは特許化されており、独占的実施権を保有するテラ社の指定した医療機関でのみWT1ペプチドワクチンを用いた治療を受けることができます。
もう1つの(3)局所樹状細胞ワクチンは、樹状細胞ワクチンをがんに直接注入するため、がんを集中攻撃することが期待できます。食道がんや頭頚部がん、乳がん、口腔がんなど、の樹状細胞を直接注入できるところが治療可能な範囲です。

複数の免疫療法の併用で相乗効果に期待

樹状細胞ワクチン療法は、ほかの免疫療法を組み合わせることで、より高い効果が得られると考えられています。なぜなら、活性化した樹状細胞を体内に入れても、樹状細胞から指令を受けてがんを攻撃する免疫細胞が少なければ有効性はごく限られてきます。
そうした場合、体全体の免疫力を活性化させる「活性化リンパ球(LAK)療法」などで免疫細胞を増やしておくことが望ましい場合があります。活性化リンパ球療法は、血液中に存在するリンパ球を体外で培養し、がんを攻撃する力を高めてから再び体内に戻す治療法です。患者さんの血液を25mlほど採取する簡便な免疫療法で、約20年前から実用化されています。皮膚がんや腎臓がんの再発に対して進行を抑える効果が報告されています。
あるいは、体の中の免疫環境を整える「BRM(免疫機能補助)療法」を併用することで、樹状細胞ワクチン療法の効果がさらに高まることもあります。BRMとはBiological Response Modifiersの略で、直訳すると生体応答調節剤となります。単独で受けるというよりは、樹状細胞ワクチン療法などの補助として用いられることのある治療法です。
なお、いずれの免疫療法も、事前に綿密な免疫機能検査を行い、医師の診断を受けることから始まります。自身の体にあった免疫療法を選ぶことで、新たな道が開ける可能性があります。

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