【最新医療】ASCO頭頸部がんでの免疫療法の可能性が示唆

公開日:2012年06月29日

目次

全世界より3万人を集めるがん治療の国際学会

ASCO(アスコ:American Society Clinical Oncology:米国臨床腫瘍学会)には全世界より3万人を超える参加者があります。参加者の多くは医師を中心とする医療者・研究者ですが、他の学会と比べて患者・支援団体(Patients Advocates)からの参加者が多いこともASCOの大きな特徴となっています。ASCOでは、標準的な治療となっているものに替わるような、世界的に大きなトピックスとなる研究成果が発表されてきました。これらの発表は患者さんにとっても非常に重要なニュースとなっているため、全世界から患者・支援団体が参加しています。学会の期間中は、シカゴの町中で巡回バスが走っていて、ダウンタウンの主要なホテルと学会場を往復しています。空港からダウンタウンへの高速道路やダウンタウンのいたるところにもASCO2012の表示があって町は歓迎ムードになっています。タクシーを利用する時などはドライバーがアメリカの医療について話しかけてきたりして、市民への大きな啓発にもなっていることを感じ取ることができます。

ASCOでは患者・支援団体に対しての参加支援を積極的に行っています。通常、学会に参加するためには、正会員、準会員、研修医、非会員(一般)などの別で参加費を支払うことが条件になっていますが、患者・支援団体に所属している場合にはディスカウントされた価格で参加することができます。詳しい情報はASCOのホームページや患者向けのウェブサイト「Cancer.Net」から情報提供がされています。来年2013年の情報についても情報提供が行われると思いますので、ご参照ください。

患者向けWebサイト Cancer.Net(http://www.cancer.net/portal/site/patient)

非小細胞肺がん(ROS1遺伝子再配列を有する進行非小細胞肺がんに新しい治療法)

今年のASCO2012でもさまざまな発表がありました。非小細胞がんに関しても新しい発表がありましたので、ご報告いたします。Clinical Science Symposiumの”Emerging New Targets and New Drugs in Non-Small Cell Lung Cancer(Alice Tsang Shaw,MD,PhD)”で非小細胞がんに関する発表がありました。ROS1遺伝子再配列を有する進行非小細胞がんにおける標準的経口クリゾチニブの有効性と安全性に関する発表です。3施設に15例の患者さんが登録されて、14例で奏効率が認められました。治療関連の有害事象に関しては4例にgrade3の有害事象が認められ、好中球現象、低リン酸血症、AST 上昇、ALP上昇などが認められました。ROS1レセプターチロシンキナーゼ遺伝子の染色体再配列により、クリゾチニブ治療が高度に有効であるとみられる非小細胞肺がん患者の新たな分子サブセットが明確にされるであろうと、発表では結論づけられました。同発表のディスカッションでは今後、新たなターゲットが同定されれば、肺がんの分子解析は複雑になっていくだろうと述べました。遺伝子の再配列という特徴を持った患者さんに適用となる場合ですので、全体の肺がん患者さんからの割合では少数となりますが、ターゲットを細かくしていくことによって劇的に効果がでてくる治療法が期待されているともいえるでしょう。

非小細胞がん(BMS-936558 完全ヒト型モノクローナル抗体で治療の選択肢が広がる)

同じプログラムの中では、Julie R.Brahmer,MDはBMS-936558についての最新成績を発表しました。BMS-936558は完全ヒト型モノクローナル抗体と呼ばれ、活性化T細胞が発現するPD-1(programmed cell death-1)阻害性レセプターを阻害する役割として機能します。非小細胞肺がん患者の全奏効率は18%が認められ、24週の無増悪生存率は26%と認められました。発表ではBMS-936558は、すでに治療を受けている非小細胞肺がんに対して外来で安全に投与でき、腫瘍の組織型に関係なく効果が認められると結論づけられました。ディスカッションでは重症の肺炎を発現する可能性があることが示唆されました。組織型に関係なく効果があることがわかれば有用な治療法が存在していない領域に関しても効果を発揮する可能性があり、治療の選択肢が広がることになりそうです。

頭頸部がんにおける分子的発見

Extended Education Session “From Discovery to Standards of Care in Clinical Trials of Head and Neck Cancer”では頭頸部がんにおける最先端の情報が参加者に伝えられました。 頭頸部がんでは上皮増殖因子レセプター(EGFR)の役割の発見やEGFR阻害薬の治療への応用が進み、分子標的治療が大きく進歩しています。セッションの中では免疫療法について発言もあり、Robert L. Ferris,MDPhDは、T細胞は慢性的に刺激されて、しばしば消耗状態となっており役割をはたさなくなっている場合があり、疲弊したT細胞の再活性化とモノクローナル抗体の効果を補助することが今後の大きな目標と述べました。系統部がんはHPVに感染した若年齢での発生頻度が上昇しており、医師は長期生存のQOLを改善させなければならないとまとめました。

【 ASCO設立の経緯 】
ASCOは、AACR (米国癌研究学会  American Association for Cancer Research)と呼ばれる組織の内科医メンバーによって1964年に設立されました。その後、1983年に医学系の出版部門を設立して、1989年には対政府関係部門を設立して発展してきました。現在では、すべての癌腫における治療および予防、癌患者さんへのサポート、癌研究者のサポート、内科医や専門医への教育参照などを中心として活動を行っています。ASCOの特徴は多くの情報提供を医療者へ患者さんに向けて行っているところにあります。提供する媒体にはさまざまなものがあり、ジャーナル、本、ニュースレターおよびオンライン、マルチメディアなどに及びます。こちらのウェブサイトに設立の経緯やポリシー、サービスの概要などが詳しく掲載されています。

ASCOウェブサイト ( http://www.asco.org/ASCOv2/About+ASCO )

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