【特集記事】膵臓がんに向き合う心掛け

公開日:2012年06月29日
先端がん治療紹介の編集方針について

「再発転移がん治療情報」では、がん治療に精通した医師の方へのインタビューや学会、患者会ほか独自の取材を通して、がん治療情報を随時ご提供しております。手術、抗がん剤、放射線治療といった標準治療についての情報はもちろん、免疫療法や漢方などさまざまな治療法を取り上げていきます。また、このサイトでは特に進行がんやがんが再発・転移された方に有用と思われる情報を掲載していきたいと考えております。
がん治療に関するニュースや情報サイトは他にもたくさんありますが、再発・転移がんに特化したものは少なく、また、毎日更新される膨大な情報をチェックし、ご自身の治療に役立つものをピックアップしていくことは容易ではありません。
本サイトでは、再発・転移がんの治療を対象としたトピックをどなたにも分かりやすくお伝えし、治療を必要とされる患者様へ新しい選択肢をご提供したり、前向きに治療に取り組むお手伝いが出来るサイト作りを目指しております。

近年、膵臓がんが患者さんが増加傾向といわれていますが、現実には他のがんが治るようになってきた中、膵臓がんだけが未だに根治が難しいためだとも言われています。早期発見が困難で、進行スピードも早い膵臓がんの治療方法と、膵臓がんとの向き合い方について、虎の門病院 副院長、消化器外科部長 渡邊 五朗 先生にお話しを伺いました。

目次

膵臓がんの原因と、増加の背景

多くの患者さんは、がんを告知されたとき「自分のどこか悪かったんだろう」と思うことでしょう。膵臓がんの原因については、タバコやアルコールなどが考えられていますが、本当にそれが関係あると思われる症例はほんの数パーセントです。日本人は欧米人に比べて喫煙率が低く、アルコールの摂取量も大差はありません。いわゆるアルコール性の慢性膵炎が、欧米ほど多くないんですね。大半の膵臓がんは、原因不明なのです。
また、膵がんは遺伝が原因だと言われることもありますが、それも非常に稀な例だといっていいでしょう。長生きすればする程、がんで亡くなる確率は高まりますから、たまたま代々膵臓がんで死ぬ方があっても何もおかしくないのです。

最近、膵臓がんが増えてきた原因は、他のがんが治るようになってきたなか、膵臓がんだけが解決できずに残っているからだと考えられます。ある雑誌に、「治りにくいがんランキング」という記事が載っていました。切除率と治療成績を掛けた大雑把なものですが、男女共に1位が膵臓がん、2位が胆道がんでした。それ以外のがんは回復が見込めるようになったために、結果として膵臓がんが増えてきたことを示すと言えます。

がんの進行スピードが5年生存率に影響する

膵臓がんの治療法には、手術、化学療法、免疫療法、放射線療法の4つがありますが、手術をしなければ根治は期待できません。ただ、残念ながら手術ができない患者さんが多いのが現実です。大まかに言いますと、膵臓がんの患者さんの3分の1は肝臓や腹膜に転移があり、もう3分の1は局所であっても進行し過ぎて切除することができません。残りの3分の1は手術ができますが、この方々の5年生存率は10〜15%です。つまり、全体の5%位しか根治に至らず、切除例の5年生存率も非常に低いのです。

手術をしても5年生存率が低いのは、進行のスピードが速いためです。ダブリングタイムというがんの成長する早さが、性質の悪い膵臓がんのでは月単位ですが、大腸がんは大体半年単位です。そのため、1年に1回の検診を受けていても膵臓がんを発見できず、見つかった頃には手術ができない状態のことは珍しくありません。
このスピードの速さを、細胞学的な悪性度といいます。血液に乗って肝臓に飛んだり、リンパに乗って周りのリンパ腺にいったり、神経まで乗ってがんが転移していくこともあります。手術で取れきれないがん細胞は、細かい神経に達していることが多いため、また再発してしまいます。

膵臓がんにおける手術・化学療法・放射線療法

最近のがん治療においては、身体への負担が少ない腹腔鏡手術がありますが、膵臓がんの場合はあまり適用されません。腹腔鏡手術は、わりあい良性に近い神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)などが対象になっています。

一方、化学療法については、「ジェムザール」という抗がん剤が第一選択肢として世界に普及し、治療効果が評価されています。ジェムザールは、元々、生存期間を延ばすための薬ではありませんでした。どちらかというと患者さんのQOLの改善効果から使われ始めた薬ですが、実際使ってみると生存期間が延びる症例が出てきたため、世界中に広がりました。
例えば遠隔転移があってステージ4bの患者さん群と、局所でステージ4aの患者さん群がいたとします。通常、4bの余命は3~6ヵ月、4aでも6ヶ月~1年以内でしたが、ジェムザールを使うことで倍近くに延びている印象を受けます。すでに臨床現場では使い始めて10年になりますから、そういう経験が当然大分増えてきました。ですから、術後の補助化学療法としてもジェムザールを積極的に使っています。

ただ、良いと言ってもがんが完全に消えるものではありませんから、+αの薬を世界中が探している状況です。先日、抗がん剤の「タルセバ」が日本でも保険適用になりましたが、これは要するにジェムザール+αの薬です。これらを組み合わせることで、どの程度の有意差があったのかというと、生存期間が0.5カ月延びるという結果でした。タルセバは、副作用として間質性肺炎の確率が8%ほど出ますから、もしそうなると肝心のジェムザールが使えなくなるリスクを持っています。したがって、タルセバの役割は数年位見なければ評価できないというのが現状です。QOLの問題もありますから、慎重に使用したほうがよいでしょう。

なお、4aで遠隔転移のない患者さんは「ジェムザール+放射線療法」が適用になります。かつての放射線療法は単独が主体でしたが、最近では放射線療法の意義が変わってきていると思います。ジェムザールによって、さまざまな治療方法が生まれてくることを期待しています。

「ジェムザール」(抗がん剤治療)と免疫療法の併用

ジェムザールは、免疫療法と組み合わせることでもQOLの向上が期待できます。免疫力を高めて、ジェムザールを使える期間を延ばすだけでも、相当意味があるからです。
通常の抗がん剤は大変な副作用が出ますから、一定の効果が表れない場合は投与を中止します。しかし、ジェムザールはそうではありません。患者さんと相談して、良いようなら「週に1回位の点滴はやりましょう」と、可能な限り続ける考え方に立脚しています。抑制しながら少しずつでも投与することで、ある程度の手応えを得られるケースが多いからです。特に、進んでしまった膵臓がんの場合、ジェムザールをやめると更に急激に進みかねませんが、わずかでも投与し続けることで治療効果が期待できます。
免疫療法は、こうしたジェムザールの継続のための+αとして、ある程度期待してもよいのではないかと思います。患者さんの免疫力全体を上げるものとしての活用するのです。

では、ジェムザールと免疫療法の投与期間やタイミング等についての考え方は主に2つあります。がんを叩けるうちにどっと叩いてしまうことと、再発したり患者さんの条件が悪くなってからどうするか、という2つです。ひとつの可能性として私は、免疫療法は患者さんの状態がある程度落ちてきたときに、少し持ち上げるために使うのはどうかなと思っています。例えば、ジェムザール単独の効きが悪い状況であった時に、少し全身状態を高めることが免疫療法の狙い所というわけです。体力が落ちてきた時に免疫療法で回復力を高めて、まだ頑張れる状況を少しでも長くすることが大切でしょう。

ジェムザールは再発・転移にも功を奏す

手術をしても残念ながら再発し、肝臓に転移になったとします。普通、膵臓がんで肝臓に転移したがんは手術の対象にはなりません。効果が期待できないからです。ところが、大腸がんの場合は切除することが普通になってきました。場合によっては、根治もあります。
また、膵がんではかつては手術後肝転移で再発した場合、いくら頑張ってもそこから3ヵ月も生存期間は延びなかったのですが、ジェムザールを使っているとよい効果につながるケースが出てきました。例えば、肝転移が出て3ヵ月経っても、ほとんど転移が広がらない症例が実際にあるのです。そこから手術ができるようになった例もあります。

以前であれば、再発の手術をする間もなく、すぐに状態が悪くなっていたのですから、大きな進歩です。ジェムザールは、再発・転移した患者さんにも、ある程度効いているということなのです。現状では根治とまでいかないものの、半年、場合によっては1年近く頑張れると言うこともありえます。
がんを持ちながらもいかにQOLを維持して頑張るかという点において、ジェムザールは大変大きな存在です。

柔軟な治療法を選択できる医師との出会い

膵臓がんで再発・転移すると、そこから先は月単位の余命であることが現実です。まず、その現実を受け止めることが大切です。そのうえで、限られた時間をいかに使うのか、みなさんにしっかり決めてもらいたいと願います。そこでがん治療を中断するというのも一つの考えですし、ほかの治療に挑戦するのもいいでしょう。今のジェムザールであれば、それほど辛い治療ではありませんから、私としては試してみる価値が十分にあると思います。

ただ、医師の中には、学会が定めたガイドラインの治療しかしない方針の方もいます。それはそれで価値ある判断だと思いますが、ガイドラインは大量の症例を使ってエビデンスになったものしか載っていません。外国のガイドラインは専門家のコンセンサスを中心としていますが、日本は非常にEBMに拘っているので、論文になったデータしか載せられない要素が強いのです。そこががん治療の難しいところです。ジェムザールのような手法を用いて、大勢の患者さんとコントロールトライアルをやろうとなると、結果が出るまでに非常に長い時間がかかってしまいます。それに、さまざまな症例がありますから、なかなか有意差が出ないというハードルもあります。
私としては、そうした大掛かりな調査をするよりは、一人の効く患者さんについて『なぜ効いたのか』という要素を個別に見ていく手法が適していると思います。一人ひとりの患者さんを大切にして、免疫療法が良さそうならやってみましょうと治療方法を試していく。そうした経験を積み重ねていくことが大切だと思います。

患者さんにとって、幅広い治療の知識を持っていて、柔軟に治療方法を選択できる医師を見つけることは一つの課題と言えるかもしれません。もっというと、医師だけではなく、病院としての方針も施設によりさまざまな違いもあります。虎の門病院の良い所は、患者さんと相談して保険が通っていれば、あるいは通ってなくても審査委員会や倫理委員会に通せば、医学的な根拠のある治療を行うことができます。患者さんも諦めずに、色々な医師や病院を探してみるのも一つの方法です。私たちは簡単に諦めてはいけないし、諦めなくてもいいようになったのです。

取材にご協力いただいたドクター

渡邊 五朗 (わたなべ ごろう) 先生

虎の門病院 副院長、消化器外科部長
兼任:東京大学医学部肝胆膵移植外科非常勤講師

コラム:膵臓がんに対するがん免疫療法

膵臓がんは難治性のがんの代表で、手術以外の根治早期発見・早期治療が難しいがんの1つです。胃や他の臓器の後ろに隠れており、の身体の深いところに位置しているため、がんが発症した際も見つかりにくいという特徴があります。早期には、自覚症状もほとんどなく、膵臓がんの多くは見つかった時には進行して根治が困難である場合が多いです。膵臓がんへの治療は、初期であれば手術、進行がんであれば抗がん剤治療が選択されることが多いです。免疫療法については、現在、保険診療として認められている治療法はなく、自由診療にて治療を行います。しかし、免疫療法と一口にいってもその内容や種類はさまざまで、とくに自由診療の治療においては、費用や副作用の面も含めて慎重な判断が必要になります。まずは、免疫療法を熟知している医師にあらかじめじっくりご相談しましょう。

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