【トピックス】学会レポート――第56回日本癌治療学会学術集会

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公開日:2018年11月30日

高齢者のがん治療――手術か薬物療法か

がん患者の高齢化が急速に進むなか、10月18日から20日まで横浜市で開催された第56回日本癌治療学会学術集会のパネルディスカッション(司会:高橋悟・日本大学主任教授、沖英次・九州大学診療准教授)では「高齢者のがん治療――手術か薬物療法か」をテーマに4人のパネリストから治療の現状と課題が報告されました。

高齢者胃癌の外科治療

神戸大学食道胃腸外科特命教授の鈴木知志氏は、「高齢者胃癌の外科治療」について報告しました。

高齢のがん患者では非高齢のがん患者に比べて手術関連死、術後合併症の発生頻度が高く、患者の身体状態の評価が重要になります。手術は胃がんの主要な治療法ですが、胃の切除によって、食事の量が減少して低栄養状態を招く可能性があります。術後の合併症もまた、身体的状態を著しく損なうおそれがあります。

鈴木氏は、術後に肺炎を起こした75歳以上の患者は、肺炎を起こさなかった患者に比べて生存率が低いとして、高齢のがん患者では脆弱性、治療可能性、将来の生活の質(QOL)に基づいて手術を計画すべきと強調しました。

手術の意思決定においては、パフォーマンスステータス(PS:がんの状態を表す指標)、呼吸機能、心機能、覚醒機能、心理状態、栄養状態などの全身状態を包括的に評価する必要があるとしています。鈴木氏はまた、「侵襲性の低い腹腔鏡手術は高齢のがん患者の治療選択肢となる」と述べました。

高齢者消化器癌患者の術前高齢者総合機能評価の意義

人口の高齢化に伴い、高齢の胃・大腸がん患者が増加しています。大阪大学消化器外科准教授の山﨑誠氏は「高齢者消化器癌患者の術前高齢者総合機能評価の意義」をテーマに、患者の術前の評価と術後アウトカム(転帰:病気が進行した結果)との関係について、75歳以上(平均年齢79.3歳)で根治切除をした消化器がんの患者544例を対象に検討しました。

その結果、患者の3割以上で認知機能の低下が、2割弱でうつ傾向が見られ、全体の傾向として、社会生活を送るうえで機能的に問題がある人が多いことがわかりました。

山﨑氏は、高齢のがん患者については生活機能、社会機能、身体機能、精神機能を注意深く見ていく必要があり、高齢者アセスメントでスクリーニングして、何らかの疑いがある場合、時間をかけてしっかり評価することが重要と指摘しました。そのうえで「高齢者アセスメントは、術後全生存率およびがん特異的生存率と密接に関連していることがわかり、高齢の胃・大腸がん患者の治療戦略を決定するうえで有用」と述べました。

高齢者前立腺癌治療の現状と課題

日本では前立腺がんも増加の一途をたどっており、東北大学泌尿器科講師の三塚浩二氏は「高齢者前立腺癌治療の現状と課題」をテーマに、高齢者に対する手術の適応などについて見解を述べました。

三塚氏によると、日本における前立腺がんの発症率は、スクリーニングの普及と人口の急速な高齢化によって上昇しているといいます。高齢患者に対する手術は、どこまで安全にできるかが重要で、進行の穏やかな前立腺がんに対しては積極的に手術する必要はないとする見解がある一方で、高齢になって見つかるがんは予後不良の傾向も見られるので静観できないとする見解もあります。

前立腺がんの患者を手術、放射線治療、経過観察の3つのグループに分けて10年後の生存を調べたランダム化比較試験では3グループとも差はないという結果が報告されています。三塚氏は「高齢者の前立腺がんに対して客観的に評価できるツールが必要であり、患者の生きてきた背景、家族、地域社会のサポートなどを考慮して評価することが重要」と指摘しました。

高齢がん患者の薬物療法における最適なマネージメント

聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座教授の中島貴子氏は「高齢がん患者の薬物療法における最適なマネージメント」について報告しました。

中島氏は、「高齢者といっても均質な集団でないことを日常臨床で実感している」とし、2035年に65歳以上のがん患者は日本の全がん患者の80%になるとしています。今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)での報告によると、化学療法を始める患者にアンケート調査を行なった結果、化学療法を受ける目的として半数強が「長生きすること」と応えましたが、「自立した生活を保つこと」「症状を軽減すること」を目的にしている患者も半数近くいることがわかりました。

一般的に高齢のがん患者の評価では、パフォーマンスステータス(PS:0~5の6段階で評価)が重要といわれますが、PS 0(まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える状態)、PS 1(肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる状態)でも、実際に問題がないのは3分の1程度といいます。

中島氏は、「今後、高齢がん患者に対する化学療法は細かくリスクを予測しながら患者一人ひとりで治療法を選択していくべき」とまとめました。

※掲載している情報は、記事公開時点(2018年11月30日)のものです。